まだ生きていたい
とても悪い人が居た。
殺人を含む多くの罪を犯した。
それなのに罪は発覚しなかった。
なにせ、その人は大層な権力者だったから。
人間ではその人を裁けない。
神様はそう判断したのか、その人は不治の病に侵された。
どれだけのお金を積んでも病は治せない。
それどころか日々、強くなる痛みと近づいてい寿命にその人は初めて後悔した。
そして、心から思ったのだ。
「せめて、罪を償って死にたい」
純粋な気持ちだった。
けれど、その人は既に身動きどころか言葉一つ発することが出来ない。
故に償い一つも出来ないまま死んでいく。
「あぁ。死にたくない」
そう思いながら死ぬ間際。
悪魔が現れて言った。
「そんなに死にたくないのか」
その人は心で返事をする。
『死にたくない。罪の一つも償えないで死ぬなんて。私は自分が許せない』
「ならば、一つ提案をしよう。今、無意味に生きている人間を私は知っている。お前とその人間を取り替えてやろう」
『本当か?』
僅かな迷いもなく問い返したその人に悪魔はニッコリ笑う。
「あぁ。お前が望むなら」
『無意味に生きる人間ならば生きている価値がない。ならば取り替えてくれ。私は罪を償いたいのだから』
「わかった。叶えよう。その願い」
*
その人は病から解放された。
その代わり、それ以外の全てを失った。
「おい! 聞いてくれ! 俺は本当にコイツじゃないんだ! 俺は悪魔に中身を変えられただけなんだ!」
その人は必死に訴えたが看守は冷たく言い放った。
「黙れ。狂ったふりをしようとも判決は覆らん。貴様は無期懲役だ」
その人は泣き叫んだ。
「ふざけるな! 俺に罪はない! こんな理不尽は許されない!」
その様を見て悪魔はニッコリ笑うばかり。




