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まだ生きていたい

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/03/12

 とても悪い人が居た。

 殺人を含む多くの罪を犯した。

 それなのに罪は発覚しなかった。

 なにせ、その人は大層な権力者だったから。


 人間ではその人を裁けない。

 神様はそう判断したのか、その人は不治の病に侵された。

 どれだけのお金を積んでも病は治せない。

 それどころか日々、強くなる痛みと近づいてい寿命にその人は初めて後悔した。

 そして、心から思ったのだ。


「せめて、罪を償って死にたい」


 純粋な気持ちだった。

 けれど、その人は既に身動きどころか言葉一つ発することが出来ない。

 故に償い一つも出来ないまま死んでいく。


「あぁ。死にたくない」


 そう思いながら死ぬ間際。

 悪魔が現れて言った。


「そんなに死にたくないのか」


 その人は心で返事をする。


『死にたくない。罪の一つも償えないで死ぬなんて。私は自分が許せない』

「ならば、一つ提案をしよう。今、無意味に生きている人間を私は知っている。お前とその人間を取り替えてやろう」

『本当か?』


 僅かな迷いもなく問い返したその人に悪魔はニッコリ笑う。


「あぁ。お前が望むなら」

『無意味に生きる人間ならば生きている価値がない。ならば取り替えてくれ。私は罪を償いたいのだから』

「わかった。叶えよう。その願い」



 *



 その人は病から解放された。

 その代わり、それ以外の全てを失った。


「おい! 聞いてくれ! 俺は本当にコイツじゃないんだ! 俺は悪魔に中身を変えられただけなんだ!」


 その人は必死に訴えたが看守は冷たく言い放った。


「黙れ。狂ったふりをしようとも判決は覆らん。貴様は無期懲役だ」


 その人は泣き叫んだ。


「ふざけるな! 俺に罪はない! こんな理不尽は許されない!」


 その様を見て悪魔はニッコリ笑うばかり。

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