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前世の私は重い女だったので、今世は恋なんてしません。

作者: ありま氷炎
掲載日:2026/03/03


「永遠にあなたのことを愛します」


 前世の私は、ともかく愛が重かった、と思う。 

 だから最後は捨てられてしまった。

 だって、本当に好きだったから。ずっと一緒にいたかったから。

 

「そこに私も一緒に連れて行ってください」

「いつも一緒にいたいです」


 私の口癖。

 重い。


 ということ生まれ変わった私は重い女からは卒業……。

 したいけど、加減ができるかわからなかったから、恋はしないって決めた。

 そう決めたのに、私は前世の夫そっくりの男の子と会ってしまった。

 恋を落ちる前に、と私はその子を避けたんだけど、その子、めちゃくちゃ積極的で困った。

 夫だったカールはとてもシャイで無口な人だった。

 顔はそっくりだけど、別人に違いない。

 そう思って、私は逃げ回るのをやめた。

 理由はそれだけじゃなくて、その男の子が王族だったから。

 男爵令嬢の私が逃げ回っていい相手じゃなくて、観念した形だ。


「名前は?」

「エミリアです」

「ふうん、僕はハンツだよ」

「存じてます。殿下」

「大人みたいな話し方するんだね。君」


 そう言われて、ドキッとしたけど、男爵令嬢の私が第三王子を独占するのはおかしなことなので、すぐに他の子たちがやってきた。

 よかった。

 王族のお茶会で、男爵まで呼ばれることは稀だ。

 だから、私は第三王子と会うのもこれが最後だと安堵していた。

 別人に違いないんだけど、殿下はカールにそっくりだったから。

 ちなみにカールと私は幼馴染だった。

 小さい時からカールが大好きだったので、本当に重い女だったなあと物凄い後悔している。

 もしいつも愛してるって言わなくて、纏わりつかなかったら、捨てられなかったかもしれない。

 他の夫妻を見ていたら、皆さん適度に距離を取っていて、二人でいつも一緒なんてあり得なそうだったから。

 カールは、きっと私にうんざりしてしまったのだろう。

 だから、いなくなってしまった。

 書き置きを残して。


 君といるのが辛い。

 一人になりたい。


 そう書かれた手紙を受け取って、物凄い傷ついた。

 だけど、辛いと書かれて、思い当たる節が沢山あった。

 友達のミーヤにも忠告されていた。

 あまりべたべたしていたら、迷惑だって。


 もう帰ってこないかもよ。


 ミーヤに相談したら、そう答えられた。

 だから、帰ってきてほしくて、私の方が出ていくことにした。

 彼を探すように手配して、私の手紙を託した。


 私は消えます。

 もう邪魔はしません。


 静かな場所でカールに迷惑にならないように暮らすつもりだった。

 けれども馬車に乗って静養先に向かう途中で、事故にあってしまった。

 馬が急に何かに驚いて走り出し、私を乗せてまま、崖から転落してしまった。


 ああ、これで完全に消える。

 カールはきっとほっとするわね。

 煩い私がいなくなって。


 衝撃と共に意識がなくなったけど、目を覚ましたらベッドの上にいた。

 赤子の姿で。

 どうやら生まれ変わってらしい。

 そう気が付いたけど、体は赤子、あんまり考えることもできなくて、ぼんやり過ごしていたら、三歳くらいからやっと少しわかるようになった。そうして私は決心したのだ。恋はしないって、重い女にならないって。

 五歳になって、王族主催のお茶会があり、貴族子女がすべて招待された。 

 滅多にないことで、断る選択はなく、両親は自分たち、私の衣服を整え参加した。

 城の庭で開かれたお茶会は盛大で、子供の体だから余計にその規模に驚いた。

 そうしたら、第三王子ハンツ殿下に見つかったのだ。

 

 お茶会から一週間後、殿下から招待状が届いた。

 お花と一緒に。

 城への招待状。

 しかも私一人。もちろん同伴として両親も呼ばれている。


「行きたくない」

「……エミリア、あなたの気持ちはわかるわ。私だって同じ気持ちよ」

「ルイーダ!」

「ベン。あなただって一緒の気持ちでしょ?」


 私だけでなく、両親も身分に合わないこの招待が嫌だったらしく、三人そろって溜息をついてしまった。けれども断れるわけがなく、衣装も新しく仕立てることもできないので、お茶会と同じ衣服をまた身に着けて、殿下に招待されたお茶会に参加した。


「これはこれは、可愛らしいお嬢さんだこと」

「本当に」


 お茶会には王も王妃もいて、私を含め両親は一気に顔色を失った。

 多分小刻みに震えていたと思う。

 気の毒に思ったのか、お二人はすぐに退室され、部屋には私、両親、殿下の四人と使用人たちが残された。


「エミリア、来てくれてありがとう」


 殿下の笑顔は天真爛漫。

 カールの笑顔と重なり、泣きそうになった。

 だけど、それを堪えて挨拶を返す。

 

 その後も何度かお茶会に誘われた。

 ドレスも届けられ、城から迎えも来た。

 いつの間にか、私が殿下の婚約者候補になっていた。

 王族の命令は絶対だ。

 誘いは断ることはできない。

 だから、私は誘われればいくしかなかった。


 だけど、心に決めているから。

 殿下を好きにはならなかった。

 殿下は良い方だと思う。

 だけど、恋には落ちない。

 好きにならない。

 思い出すのはカールの顔。殿下の顔はカールの幼い頃に似ていたけど、そっくりなわけではない。

 性格も違う。

 

 私が好きなのはカール。

 もう誰も好きにならない。

 呪文のようにそう心の中で唱えて、殿下に会った。

 

 一年がたって、私に妃教育のようなものを施す動きが出てきた。

 無礼だと知っていたけど、私は殿下に伝えてしまった。

 

「私は誰とも結婚する気はありません。修道女になるつもりなのです」


 これは決めていたことだ。

 幸い弟も生まれ、跡取りを心配することはない。

 殿下の真意がわからなくて、はっきり断ったことはなかった。だけど、妃教育が始まれば、それは婚約に向けて動いているということだった。

 私がなぜ?

 そういう思いが何度もよぎったけど、おそらく、私が彼を好きではないから選ばれたと思う。

 お茶会に呼ばれるのは私だけではないことも多く、他の令嬢……女の子は積極的だ。

 だけど、殿下はとても嫌そうな顔をしている。

 重い女はいやだもんね。 

 面倒ですもんね。

 殿下の気持ちは理解できた。

 だけど、それで私が婚約者になるのは違う。

 私は男爵令嬢に過ぎないから、まず身分が大きく異なる。

 そして容姿も平凡だ。

 頭脳も切れるほうではない。

 妃なんてとんでもない。

 自分でわかっている。


 だから殿下に正直に伝えた。


「修道女……。とは、まだ君は六歳だよね?」

「はい。でも私は生まれた時からそう決めてました」


 生まれたときからと、口を滑らせてしまい、殿下の顔色を窺う。

 すると急に難しい顔をしてしまった。


「殿下?」

「やはり、君はティファニーに違いない」


 ティファニー。

 それは、私の前の名前だ。


「ティファニー。やっぱり君か?似ていたけど、性格が違うから別人だと思っていた」


 殿下も私と似たようなことを言った。


「……殿下はカールなのですか?」

「うん。そうだよ。ティファニー」


 柔らかい笑み、それはまさしくカールの笑顔だった。

 だめ。カールだったら、だめ。

 仕舞っていた彼への気持ちが溢れそうになり、胸を抑える。


「あの時は本当にすみませんでした。迷惑を沢山かけましたよね」


 顔を見ると、感情が溢れるので、失礼だと思ったけど、俯いて言葉を紡ぐ。


「迷惑?どういう意味?そういえば手紙にも似たようなこと書いてよね。邪魔しません……どういう意味?」

「私はカールの邪魔をずっとしてました。いつもあなたの側にいたし、どこかにいく時もついて行ってしまいました。一人でいる時間も必要なのに」

「それのどこが邪魔?僕は君と一緒にずっといたかったよ。むしろ、嬉しかったんだけど」

「だったら、どうして、君といるのが辛い。一人になりたいって手紙を」

「そんな手紙書いていない。確かに、君といると幸せ過ぎて辛い。一人になりたいなんて思わない。そんな文面を書いた気がするけど、それは日記で」

「日記?」

「そうか。僕たちは嵌められのか。あのミーヤに」

「ミーヤが?」


 そこで私は思わず顔を上げてしまった。

 目の前の殿下は怒っていて、拳を握りしめていた。


「出張に出かけたんだ。戻ったら君がいなくて、その後に事故の知らせ。葬儀を済ませてたらミーヤが誘ってきた。頭にきて、そのまま追い返して、二度と屋敷に入れないようにしたんだ。あの時は頭に来すぎていて、気が付けなかった。今ならわかる。ミーヤによって偽物の手紙が作成され、君の手元に渡ってしまった。でもどうして君はそれを信じてしまったんだ」

「だって、ミーヤが男性は一人になるのが好きだって、いつも一緒にいるのは束縛しているようなものだって」

「あのくそ女が」

「か、カール?」


 耳を疑う言葉だった。


「ごめん。君を怖がらせたくなくて、ずっと色々我慢してたんだ。でもそのせいで君に誤解をさせてしまった。僕は取り繕うのをやめた。あと、僕は王子として権限を最大限に利用するつもりだから」

「か、殿下?」

「君は僕のことまだ好き?」

「えっと、あの、」

「知ってるよ。僕のことは何とも思っていない。君が好きなのはカールだ。でも僕は君が好きだったカールでもある。だから、僕と結婚して。いつも一緒にいたい。君を膝にのせて仕事もするつもりだ」

「え、それは駄目です!」

「冗談だよ。でもそれくらい、君と一緒にいたいんだ。ティファニー、いやエミリア。僕の婚約者になって」


 だめ、だめ。

 絶対に決めたんだから。


「君には選択肢はないんだ。残念ながら。エミリア」

 

 王族の言葉は重い。

 だけど、私には重く感じられなかった。

 むしろ喜ばしくて。


 七歳の時に、私は正式に殿下の婚約者になった。

 それから一緒に年齢を重ねていく。

 周りに呆れられながらも、いつも一緒に過ごした。


「もう誤解しないように。エミリア」

「はい」

「……疑わしいな。やっぱり」


 今日もソファで一緒に横になって本を読む。食事も一緒に。一緒のベッドに眠るのだけは、結婚してからと決められていて、殿下は十六歳になったらすぐに式を挙げると息巻いている。

 最初は戸惑っていたし、決めていたから、好きにならないつもりだった。

 だけど、やっぱりは無理で……。

 気が付いたら、カールと同じくらい殿下のことが好きになっていた。

 だけど、愛してるの言葉は怖くて言えていない。


 殿下。

 いつか、本当に私が愛しているって言ったら、逃げないでいてくれますか?


「……エミリア。当然じゃないか」


 寝ていると思っていた殿下が目を開いて、まっすぐ私を見ていた。


「永遠に愛するよ。君を」

「私もです」


 その日、私たちは口づけを交わした。


(終)

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似た者夫婦。今世は幸せに過ごして欲しい。
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