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3-C.邂逅

全身を包む気だるさに感じながら僕はゆっくりと目を覚ました。

見知らぬ家のベッドの上だった。

身を起こすと、窓から外の景色をうかがうことができる。ついさきほどまで走り回っていたバラックがならぶ道だ。

どうやらコロニーの外にいるようだった。

部屋自体はこじんまりとしている。一人が暮らすにはちょうど広さだ。決して豪華とは言えないが、それでも掃除は行き届いているようだった。


ほかにも人が暮らしているということだ。

それを確かめるべく、僕はゆっくりと立ち上がって部屋の外へ出た。


部屋の外はひときわ広めの部屋になっていた。すこし古ぼけたソファに少年と少女がそれぞれ座っていた。

ちょうどロボットに襲われていた二人だ。


「あ、目を覚ましたんだね」

僕を認めるなり、少女が言った。どうやらロボットに襲われたときの後遺症は残っていないようだった。

少年のほうは僕のほうを見ようともしなかった。


「さ、座って」


少女に促されるまま、僕は二人の体面に腰かけた。

お茶のような飲み物の入ったマグカップをこちらに置きながら、少女がまた言った。


「改めて助けてくれてありがとね。私はリン・ミラー。隣は」


リンとは少年のほうに目をやる。


「ランド、ランド・ジョンソン」


ジョンソンは実に面倒くさそうに答えた。


「もう、命の恩人にその態度はないでしょう」

「別にいいよ。それよりもどうして君たちは連れていかれそうになっていたんだ」


リンはうつむいて言った。


「それがわからないの。今までもコロニーの人手が足りなくなると、コロニーから追い出した人を一時的に連れ帰ることはあったけど」

「それはひどい」

「でも、私たちがそうなることはありえないの」

「どうしてそう言える?」


それはこの二人がコロニーの外にしては立派な家に住んでいることと関連していそうだった。


「それが俺たちがコロニーを救うために存在しているからだ!」


さっきまで黙っていたはずのランドが急にわが意を得たといった感じでまくしたて始めた。


「お前もどうせコロニーから追い出された口だろう? 今はこうしてコロニーの外にいるが、俺たちはお前とは違う」

「ランド!」

「リンは黙ってろ。俺たちはいずれあのコロニーを救い、支配することが約束されてんだよ」

「はあ」


にわかには信じられなかった。知性のコロニーは万能の人工知能マテ二が治める場所だ。それがやがて人間のもとに返すだって?

そんなことがありえるのか。


「それは俺が説明しよう」


また頭の中で声がした。お前


「なにこの声」

「どこだ! 出てこい」


目の前の二人が口々に言った。

僕はまた驚いていた。今まで自分一人にしか聞こえなかったあの声が聞こえるというのか。


「後継者の二人にも聞こえるようになったな」

「後継者?」

「カケル・ミスミ。お前は知性のコロニーがどのようにしてマテ二が治める場所になったか知っているか」

「はじめからそうじゃなかったのか」


言われてみれば、その辺りは学校でもしっかりと習った記憶がなかった。


知性のコロニーははじめ、ほかのコロニーと同じように人間が治める地だった、と声が言った。


「マテ二は宇宙移民船に備えれられた制御用AIだったんだ。移民船が目的の惑星に向かう間、環境制御や各種手続きを担うためのものだ」

「それがどうしてコロニーの統治者に」

「人間が自身の力でもコロニー統治を諦めたからだ」


ならおかしいじゃないか。


「後継者ってのは知性のコロニーの後継者ってことだろ。人間の統治を諦めたのなら、後継者なんて作る必要はない」


そこだな、と声は言った。


「当時の人間はコロニーの統治を諦めたが、すべてを放り出したわけじゃなかった。マテ二がもともと統治のために作られたわけじゃないことを考慮して、一種の保険をかけたわけだ」

「それが後継者?」

「そうだ。もしマテ二が暴走すれば、人間がそれにとって代わるようにするんだ」

「それがこの二人だと」


僕は目の前の二人を見やって言った。言ってはなんだが、そんな大命を任されるようなオーラは感じられない。


「二人は知性のコロニー創設者の子孫だ。だからその使命があるというわけだな」


やおらにランドが立ち上がって叫んだ。


「お前、さっきから分かったようにペラペラうるさいぞ!いいから出て来いよ!」

「いいだろう。といってもあいにく俺にはお前らような肉体はない」

「肉体がない?」

「そうだ。俺もマテ二と同じ人工知能だからな。俺は人工知能パトリオ。知性のコロニーのもうひとつの人工知能だ」


もう一つの人工知能? 信じられない。知性のコロニーの人工知能はマテ二ひとつ。学校ではそう習った。


「お前がもしコロニーの人工知能だというなら、どうして今の今までどこにも出てこなかったんだ。パトリオなんて聞いたことがない」

「俺はこの二人と同じだ。マテ二が暴走したとき活動を始めるように設定されている」

「今、マテ二は暴走している、と?」

「そうだ。本来、マテ二は後継者に手を出さないようにかつ、必ず保護し続けるように設計されている。これはマテ二をコロニーの統治者にした人間が施したもので、マテ二自身はそこに触れることができないはずだ」


マテ二を自由にさせすぎると安全弁を破壊する可能性があったからな、とパトリオが続けた。


「後継者に干渉したから、マテ二が暴走したっこと?」

「因果関係が逆だな。マテ二の暴走を検知して、俺が起動した。マテ二はすでに暴走していて、手始めに自分を止めうる要因を排除することにしたんだ」


すなわち


「後継者二人とお前ということか」

「そうだ。カケル・ミスミ。お前には心当たりがあるんじゃないか。マテ二は当初の想定を超えて、知性のコロニーに住まう人の生命や財産だけではなく心まで管理下に置こうとしている」


真っ先にレンの顔が思い浮かぶ。

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