2-B.コロニーの外側
コロニーの外の景色を覗いたことは何度もあった。それでもなんとなくコロニーの内側の整然とした風景とは違うということしかわからなかった。
丘の上からではどうしても見える景色が限られているからだ。
今の僕はどうしようもないくらいそれを味わっている。
雑然としているようで、それなりの規則性を持って並んだバラック。その下で大きな声を張り上げながら、唾を飛ばしながらものの売り買いを行う人たち。
その顔に浮かぶ表情は驚くほど豊かだった。決して笑顔だけではない。みんなそれぞれに驚いたり悲しんだり怒ったりしている。
それでも僕にとって、それは新鮮で胸をつかれたような思いがしたのだった。
つい数分前に生まれ育った場所を追放されたというのに、僕はすっかりそのことを忘れようとしていた。
誘われるように歩き出す。
バラックの並び全体がひとつの市場を作り出しているようだった。売られているのは主に食料、衣類、あとは機械。機械はたいていロボットの残骸のようなものであり、見る人が見ればお宝の山なのかもしれないが、少なくとも僕にとってはただのガラクタに見えた。
少し歩くと、テーブルで何かを食べている人たちが見えた。
あそこでは食べ物を売っているのだ。それも支給品のアマランサスではない。
「肉だ」
串にされた肉を人々はそれはもうおいしそうに頬張っている。今までに嗅いだことのない暴力的なほど芳醇な香りが鼻を一気に駆け抜けていく。
コロニーの中にこのような店はない。僕たちが食べるものはすべてコロニーに管理されている。栄養面、資源管理面様々な理由があるようだったが、今の僕はそれがいかに愚かしいことが心の底から理解していた。
あれを食べたい。僕は生まれてはじめて自らの食欲を感じた。今までの食事などあれに比べれば砂をかむようなものだろう。
肉を食べたことはない。過去の世界の映像として少しだけ見ただけだ。そのときは何とも思わなかったのに。
それでも僕はあれにありつけないことをよく知っていた。
金がないのだ。コロニーの子供たちは労働を禁じられているし、それ以外の方法で金を得る方法はなかった。
すべてが支給されるコロニーの生活ではそれで全く問題なかったのだが、今はそうはいかない。
店の前で立ち尽くしていると、一人の男が店の近くでやってきて大きな声で叫んだ。
「男、建設作業、なるべくたくさん!」
言うな否やどこにそんなにいたのかというくらいの大勢の男たちがバラックの間からどやどやと集まってくる。それまで串焼きを食べていた男たちも立ち上がって叫んだ男のほうに群がっていく。
慣れていない僕にもそれが何かわかった。
労働者を集めているのだ。
結論から言うと、僕の予想は間違っていなかった。集められた男たちはいくつかのグループに分けられ、ロボットの運転するトラックの荷台に乗せられ、運ばれていった。行き先はバラックの群れの終端であり、そこはまさに荒野。アマランサスの畑にもなっていないのか、野草の一本も生えていなかった。
グループの長らしき荒々しい見た目の男が僕たちに作業を説明した。作業自体は難しくない。木材を運んでバラックを組み立てていくのだ。
要するに今まで僕が見てきたバラックの群れを増やすための建設作業というわけだ。
作業の要領はすぐにつかめた。学校でも工作の時間は数少ない楽しみだったし、手先も器用なほうだった。体力だって自身がある。なにせスミコの見舞いにあの急こう配をほぼ毎日登っていたからだ。
「おい、兄ちゃん」
黙々と資材を運んでいると、ベテランと思しき男が声をかけてきた。
「あんた、追放者だろ」
「え、ええ。そうですけど」
なにかまずいのだろうか。流れで作業員として混じっていたけれど。
「何かまずいですか」
「逆だよ逆。よく働くなと思ってよ」
「僕みたいに追放される人は他にもいるんですか」
「ん、ああ。そういや毎年これくらいの時期だな。兄ちゃんみたいに着の身着のままのやつがここいらをよくうろついているわな」
「へえ」
それは面白い話だ。
「その人たちはどうしているんですか」
「男はこうして力作業、女は店先で働く。なにせここはいつでも人手が足りねえ。だから大抵のやつはここでなんとか居場所を見つけるもんだが」
「例外がいるってことですか」
男はガハハハッと笑って
「おうよ。栄えある知性のコロニーの物がこんな下賤な仕事ができるからとか何とか言ってふてくされちまうのさ。そのコロニーから追い出されたのはおめえだったのによ」
「あー」
なくはない話だ。知性のコロニーの住民はその教育から自分たちが選ばれたものであることを耳にタコができるくらい聞かされるからだ。
「前にあったやつもそんなやつでよ。だからよく働く兄ちゃん見てつい声かけちまったってわけだ。ま、ここも慣れればそう悪い場所じゃねえからよ。せいぜい楽しくやんな」
そういって男は作業に戻っていく。
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