表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/39

13-B.錯覚

今僕の目の前には透き通るような青空のもと、膝丈ほどの高さの草原が地平線の向こうに消えていくほど広がっている。その奥には真っ青で流麗な山容の山々がそびえたっている。


まさかあの一瞬で僕がこのような場所に飛ばされたはずがない。というより、今の地球上にこんな場所は存在しないだろう。


僕の五感がデバイスを通してレンにハッキングされたのだ。正確には感覚器が発生させた電気刺激をデバイスに通す時点で書き換えられている。それが僕の脳に届いて、あたかも本当の景色のように幻影を見せられている。

匂いも手触りも何もかも偽物だ。


そう偽物なのだ。そう言い聞かせると、少し落ち着いてきた。それに合わせて景色も少し変わる。見慣れた濁り切った空。足元に咲き乱れるアマランサスたち。その向こうは砂塵の嵐に隔たれてよく見通すことができない。


どこかからレンの声がする。


「喜べ。お前たちはもう一度チャンスを与えられたんだ」

「チャンス?」

「そうだ。コロニーの一員となってこの輝かしい人類の覇道を進むチャンスをな」

「しらじらしい。大方、ほかのコロニーを吸収するに前に僕たちが邪魔になったんだろう。コロニーの一人にしたいのは僕たちを認めたわけじゃない。脅威としてとらえているからだ」


勇ましいことを言いながら、僕は内心で歯噛みした。遅かった。大方、知性のコロニーは僕とスミコの回線を傍受して、レンを向かわせたのだろう。


全く味なことをしてくれる。


「コロニーを侮辱するな! 全能にして寛大な知性のコロニーの長がそんな姑息な真似をすると思うか」


叫びとともに僕の腹に鈍痛が響く。殴られたのか。今の僕には確かめようがない。なぜなら殴られた時と全く同じだけの痛みを起こす電気信号を今のレンは僕の脳内で作り出すことができるからだ。


この状況をどうにかしないとレンを止めることはできない。僕は脳内で必死にパトリオに呼びかけているが、先ほどから全く応答がない。いや、本当は聞こえているはずの声を遮断されているのか。


「レン、こんなことはもうやめよう。今からでも遅くない。罪を償うんだ」

「罪? 俺がいつ罪を犯したっていうんだ。俺はただコロニーのために働いただけだ。コロニーは俺を高く評価している」

「知性のコロニーは間違っている。こんなやり方をしたってコロニーに住む人たちは幸せにはなれない。お前だって知っているはずだ。コロニーの構成員のメンタルヘルスはかなり悪化している。僕たちの同級生だって何人も自殺していたじゃないか」


再びの鈍痛。耐えきれなくなった僕はその場に倒れこむ。


「何か勘違いしていないか? 知性のコロニーは別にそこに住む人々を幸せにするために存在するのではない」

「なんだって」

「今度こそ空に旅たち、人類を繁栄させるという目的のために存在するのだ。そのためなら構成員の幸せなどどうだっていい」


そうだ。


「笑いながら滅びるか、泣きながら栄えるか。この世界のコロニーにはそのどちらかしかない。分かるか。カケル。確かに俺たち知性のコロニーの構成員は苦しむだろう。それでもこの苦しむは無駄にならない。きっと知性のコロニーが俺たちの子孫を空に届けてくれるだろう。俺はそれを信じている」


連続した殴打が続く。その痛みに耐えながら僕は思った。

知性のコロニーの調整は完璧だ。知性のコロニーの住民はコロニーが課す労役を自動的に正当化し、感謝すらするようになっている。しかも無理がない。レンの言っていることは一面では正しい。コロニーの発展には苦労はつきものだ。それでも最終的に人々が空に飛びたてるのならそれを飲み込める人だっているだろう。


それでも。僕は言わなくちゃいけない。


「でもこのままじゃスミコは死ぬぞ」


目の前の景色が溶けるに消えていく。そこに現れたのは見慣れた場所。

そこにレンが立っている。

ブックマーク・いいね・評価お願いします!制作の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ