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12-C.赤光

パチパチと暖炉の薪が爆ぜる。揺らめく炎が俯いているランドの顔をなめるように照らした。

僕たちは彼の言葉を待った。今の僕たちにはそれしかできることがなかったのだ。


ランドはようやく言った。珍しく僕の目をしっかりと見据えている。普段の彼ならば斜め下に吐き捨てるように何かをしゃべるものだが。


「そういえばどうして俺たちとお前が一緒に戦っているのか、あんまりしっかりと聞いたことがなかったな」

「まあ、ここまでそんなにのんびりと話す時間もなかったからね。しょうがないさ」

「お前は自分の戦う理由をすべて話した。だから、俺も、俺も」


またランドは大きく息を吸った。


「正直に話そうと思う」


今までやることなすこと斜に構えてきたランドとは思えない発言だった。リンがその横で優し気なまなざしを向けている。


「俺は怖いんだ」


ランドは小さくこぼした。


「知性のコロニーがこれほどまでに強大で強力なコロニーだとは思っていなかった。自分の使命は、知性のコロニーを救うことだとはよくわかっていた。それでも心のどこかでそんなことはしなくてもいいじゃないかっと思っていた。先代もその先代も知性のコロニーはうまく回っていたから、何もする必要はなかった。知性のコロニーの後継者としてふんぞり返って生きて、そのまま死んでいった」


自分も同じように生きられるじゃないかと心の中で甘えていた。


「でも今回のことでようやく心の中で理解した。知性のコロニーを止めるためにたくさんの人が集まり、協力し、あまつさえ自身のクローンを作ってまで対決しようとしていた。死人だって出た。俺が立ち向かおうとしているものがそういうものだとようやく理解できた」


ランドは自らを抱きしめるようにして、次第に震え始めた。

暖かい室内にあって、彼の周りだけはまるで吹雪が吹きすさんでいるような様子だった。


「俺たちは強くなった。それでも知性のコロニーに届かないかもしれない。そうして今までのすべてを無駄にして終わってしまうかもしれない」


それが怖い。

ぽつり、とランドが言った。


「もっと怖いのは仮に知性のコロニーを人の手に戻した後だ。俺たちはこれまで当代最強の人工知能が治めていたコロニーを人の手で運営することになる。そんなことが本当にできるのか。どうやってやればいい? 人の手に返したところで俺たちは空に行くことができるのか?」


知性のコロニーを人の手に返すことは本当に正しいことなのか?


「俺は自身が知性のコロニーの後継者だと知ってはいたが、その実自分が何をすべきのか考えたこともなかったことに気付かされた。この期に及んで、だぜ」


本当に嫌になるよ、とランドは自嘲気味に笑った。そんな顔をするランドを僕は初めて見た。

後継者としての己を受け入れ、自信満々そうに見えた彼でもその心の中では嵐のように迷いと恐怖が渦巻いていたのだ。


僕は自分のことに精いっぱいでそんなことに気付こうともしなかった。


リンが震えるランドを横からそっと抱きしめた。


「大丈夫だよ。ランドは一人じゃないよ。私もカケル君もいっしょ」

「ああ」

「武装のコロニーの人も医療のコロニーだってそう。今は確かに少しすれ違っているかもしれないけど、もともとの気持ちは一緒なんだからきっと協力できるはず。

「そうだ。お前ひとりで抱え込むことじゃない。みんなでやればきっとどうにかなるよ。僕だって最後まで協力する」


乗りかかった舟だ。友達を救うついでに自分が生まれ育ったコロニーを助けたって別になんのこともないだろう。


その言葉にランドは長考に入った。無理もない知性のコロニーの後継者としての己がすべての彼がまさに今命を懸けるべきか悩んでいるのだから。彼の眉間にはひどくしわが寄っている。


暖炉の火がかなり弱くなってきた。

何か気付いた様子のランドはやおら僕を見た。これまでにないくらいの鋭さで僕の顔をそうしてデバイスを見ているように見える。

そうして何かに気付いたように目をかっと見開いた。


長い長い思考の末、ランドはついに立ち上がって言った。


「わかった。やろう。夜が明けたら知性のコロニーに向かって俺たちだけですべてを終わらせよう。このチャンスを逃すわけにはいかない」


その言葉に僕とリンもゆっくりとうなづいた。


そうして僕たちは医療のコロニーのコテージを出て、知性のコロニーの外周に舞い戻った。

知性のコロニーとその外を隔てる境界線。

朝日がすべてをつまびらかにするようにそれまでの暗闇を追い払うように鋭く刺している。


コロニーの境。僕たちがこれから超えようというそこに一人立っている。

赤い輝きをその瞳に湛えて、奴は言った。


「よう。久しぶりだな。役立たず」

「ああ。僕も会えてうれしいよ、レン」


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