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12-A.決意

僕たちは医療のコロニーを後にした。自らのクローンの遺体を前に少女のように泣きじゃくるレイにかける言葉などなかった。クローンはオリジナルを裏切らないのだから、クローンで社会を満たせば社会は平和になる。その信念を抱えながら、愛する人のクローンを作れずにいた彼女の思いはいかほどのものだったのだろう。

誰かを愛したことのない僕には想像すらしえない。


僕たちは知性のコロニーを取り巻くバラックに戻ろうとしたが、レイがそれを止めてきた。自分がオアシスに持っているコテージを潜伏場所に使ってよいとのことだった。


「自分たちだけでやりきるという選択肢をとったのだから、その命は大事にしてもらわないと困る」


というのがレイの部下であるクローンの少女から言伝だった。

レイは僕たちの言葉を受け入れているのだろうか。


さすがに医療のコロニーの計算資源のようなトラップはないだろう、と僕たちはコテージに着いた僕たちは思う存分くつろぐことにした。丸太でできたそのコテージは室内が新木のにおいで満たされ、暖炉の暖かな炎がちらちらと室内を輝かせていた。信じられないほど手触りのよい毛布をかぶって、僕たちはソファの上でホットミルクを飲んで過ごした。


確かに体は大いに休まったが、それでも眼前の危機が去ったわけではなかった。確かに医療のコロニーとはコミュニケーションをとることができたが、そこから直接知性のコロニーへの対応策が生まれたわけではなかった。


「たとえ、医療のコロニーと武装のコロニーの人員と装備を投入しても知性のコロニーに勝つことは難しいだろう」


新たな計算資源を手に入れ、現状最高の性能を持つことになったパトリオが再度計算した結果、彼我の戦力差はそのようになったということだった。


暖かな空間の中で誰一人話すことができなかった。


気分転換に僕はコテージの外に出た。核の冬はとうに過ぎ去ったものの、夜空に並ぶ星の数は全時代に比べるまでもない。コテージの外は身を切るような寒さに包まれていて、僕は外に出たことを少し後悔したが、それでもあの空間にい続けるよりはましだと思いなおした。


黙って縮こまっていると、脳内でパトリオが言った。


『スミコと話したいか』

『え?』


僕は初め何を言っているのかわからなかった。


『スミコだよ、お前の幼馴染の。知っているはずだ。お前の記憶に刻まれているのはこちらからでもわかる』

『知ってるよ。話せるのか?』

『今回の性能向上で、逆にマテニにハッキングを仕掛けることができるようになった。スミコのいる場所は比較的セキュリティが緩い。回線をつなぐこと自体はたやすい』

『ああ、そうか』


僕は知性のコロニーの中での傷病者の地位を思い出してすぐにその言に納得した。

息を小さく吐いて、僕はパトリオに言った。


『頼む』

『わかった』


少しの間があって、その声がした。


「カケル? カケルなの?」

「そうだよ。スミコ、久しぶり」


胸いっぱいに懐かしさが広がるのを感じる。

それからはお互いに今までの近況を語り合った。僕が知性のコロニーを追い出されたと聞いたスミコは一瞬驚いたものの、すぐにカケルらしいわ、と逆に安心したような言い方をした。


「それで、スミコ。体の方は」

「まだ全然大丈夫よ」


そう言ってからすぐにスミコは激しくせき込んだ。咳はかつて僕が病室で聞いた時のそれよりも明らかにひどくなっている。


パトリオが小さく言った。


『スミコ・ハヤシはうそをついている。彼女のカルテを今しがた手に入れたが、明らかに病状は悪化している』

『わかってる!』


パトリオのせいではないことはわかっているのに、僕は脳内で大きな声を出してしまった。


「スミコ、君を治す手立てが見つかった。医療のコロニーなら君を治すことができる」

「本当?」

「本当だ。医療のコロニーの長に話もつけてきた。僕がどうにかして君をそこから連れ出す。そうすれば治してくれるってさ」


医療のコロニーからの帰り際、僕は運転手である黒髪の女性にスミコのことを明かした。女性はすぐにレイにとりなしてくれたのだった。


「うん。わかった。待ってる。でも」

「でも?」

「レンは? レンはどうなるの? カケルの話じゃあ、その」

「ああ、知性のコロニーに取り込まれているようだ。大丈夫、奴も僕がどうにかする。そうしたらまた、三人一緒だ」


返事の代わりにまた激しい咳が聞こえてくる。どうやら会話できる限界が来たようだった。

僕はパトリオに代わりにナースコールを押す様に頼んで、通話を切った。


やるべきことは決まった。

僕はコテージの中に戻っていく。

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