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10-B.複製

「そうだとも。私はレイ・ヤンのクローンだ」


レイのクローンはあまりにも事も無げに言った。

レイ・ヤンは移動などしていなかった。そもそもオアシスとここの両方に存在していたのだ。


「そんな」

「驚くことではあるまい。兵士のクローンを作ったのだ。その作り主である我々のクローンを作らない道理はないだろう」

「自分が誰かのクローンだと言われて何も感じないのか」

「クローンが偽物だとでも? クローンは文字通り複製だ。元の人間とは全く同じ。だからそこに本物も偽物もないよ」


それに


「私が生まれてからずっとレイ・ヤンのクローンだ。それ以外の人生など知らない。君だって冷酷無比の知性のコロニーの生まれでありながらそのことをそれほど気にしていないように見えるがね」


それは確かにその通りだった。なってみればそんなものだろうか。


「それで、本題ってのはなんだ」

「ああ。そうだったね。私としたことだ。つい本筋とはずれた話をしてしまう」


つかつかとヒールの音を響かせて、レイのクローンはゆっくりとこちらに近づいてくる。

なんてことのない歩み。


しかし、僕はそこに確かな殺意を感じた。

反射的に腕を前に突き出す。そこにちょうどレイのクローンの腕が伸びてくる。

その腕をつかめたのはほとんど偶然だった。


レイのクローンの腕に握られていたのは細身の果物ナイフ。


疲労と痛みで抑えている腕が震える。


「なんのつもりだ」


僕は思わずそう聞いてしまった。


「なんのつもりだ、だって?」


僕の胸元にまで迫っていたクローンは今まで聞いたことのないような低い声で言った。


「そりゃあ君を殺すためだよ。分からないかね」


言っているうちにも彼女はありったけの力を込めて僕にナイフを突き刺そうとしてくる。

必死に止めている腕にもだんだんと力が入らなくなっている。


「ありえない。僕たちは協力するんじゃなかったのか。ともに知性のコロニーを打倒するって。これは武装のコロニーの長、イエン・ウーの遺志だ」

「お前があの人の名前を口にするな!」


クローンが叫ぶ。ナイフにかかる力が一段と強まって抑えていらなくなった僕は思わず倒れこんだ。

そこにレイのクローンがのしかかってくる。


「愛する人が死んで、はいそうですかと切り替えられるものか。なぜあの人が死んで、お前たちだけが助かったのだ」

「それは知性のコロニーのスナイパーに聞いてくれ」


絶体絶命の状況だが、恐怖はない。むしろ僕は怒りすら覚えていた。一刻も早く計算資源を手に入れなくては、スミコを助け、レンを救わないといけないのに。どうしてこんなところで仲間割れをしている暇があると思えるのか。


「スナイパーとお前たちはグルだった。そうだろう。お前たちが狙撃ポイントまであの人をおびき寄せたんだ」

「違う」

「そうでなければ説明がつかない。そうでなければあの人が死ぬとは思えない」


納得できない。レイのクローンの声はか細くなっていく。

それでも果物ナイフに込められた力はほどけない。


「お前には死んでもらう。そのためにここまでおびき寄せ。我がコロニー最強の兵士にあたらせた。倒してしまうのは予想外だったがな」


レイの言っていたことは本当だった。クローンは偽物ではなく、本物の複製だ。そこに価値の差はない。

彼女から向けられた殺意と恨みはまさしく本物のそれだった。


それでも僕は問わねばならなかった。


「あんたに殺されてやるわけにはいかない。あんただってわかっているだろう。これはれっきとした逆恨みだ。第一僕だって知性のコロニーのスナイパーに撃たれたんだ。グルだってそんなことしないだろう」


それに


「僕をここに連れてきたのはもう一人のあんただ。向こうはこのことを承知しているのか」

「いいや。いくらクローンといってもテレパシーがあるわけじゃない。これは私の完全なる独断だよ」

「だったらさっさとやめるんだな」

「それはどうだろうな。自分をここに連れてきたのは彼女だ。お前はそう言ったな。確かにそれは正しい。それでもその目的は何だ。本当に計算資源をお前たちに渡すためか。お前を殺しうるクローン兵士とお前に殺意を抱いているこの私がいるここに、か」

「もう一人のレイも初めから殺すつもりだったと?」

「それはわからない。ただ、彼女はこうなる可能性を頭に入れたうえでお前をここに送ったと私はそう思うよ」


もし私が彼女なら全く同じ判断をするだろうからね、とクローンは言った。


「言い残すことはそれだけか? じゃあそのまま死んでもらう」

「ぐっ」


時間を稼ぐのもどうやら限界らしい。クローンのナイフ、その切っ先が僕の喉元に触れる。わずかな振動により切っ先が喉をなでる感覚がする。


脳内のパトリオに語り掛ける。


「どうにかならないか」

「誰か来る」


研究室に続くドアが開く。


「・・・・・・」


そこに現れたのは、僕がオアシスで出会ったレイ、リンとランドだった。

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