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9-C.決着

異形は倒れない。切りつけた腕は力なくだらりと垂れている。傷口からは緑の色の血にがどくどくとリズムをつけながらあふれている。


それでも異形は倒れない。顔はないが、僕の方を明確に見据え、静かに殺意を向けている

僕の方もそれほど余裕があるわけではない。全力で攻撃できるのは一度か二度だ。


異形が突っ込んでくる。とりあえずその勢いを受け流す様に躱す。

そのさなかにパトリオに話しかける


『奴はなぜまだ死なない。人間なら太い血管の二三本は切ったはずだ』

『人型だからと言って人間の常識が通用するとは思わないことだな』

『わかったようなことを言いやがって。狙うなら心臓しかない。やっぱり推測できないか』

『攻撃のおかげで奴の動きが若干遅くなっている。今ならある程度いけるかもしれない』


もう一度突進。すれ違いざまにわき腹を切りつける。僕も勢い余ってその場に倒れこむ。

効果は少ないか。


それを見たパトリオが言った。


『わき腹に太い血管はない。急所は胴体にない、かもしれない』

『かもしれない、ね』


言っているうちに再びの突撃。今度は向こうも対策したきたのか、大けがを負っているはずの腕を大きく広げて迫ってくる。


それを躱そうとして、僕はバランスを崩す。何かぬめったしたものを踏んだ。奴の血だ。

奴が腕を振りかざしたときに飛び散ったのだろう。


奴がのしかかってくる。腕は動かないらしい。それでもありったけの憎しみを込めて、人間なら鎖骨にあたる部分で僕を殴打する。

体内に低音が響き、痛みが強い波のように全身に伝わる。動けない。

意識が薄れていく。


その中でパトリオが叫んだ。


『カケル・ミスミ! 足だ!』


その言葉に一気に意識が現実に引き戻される。最後に力を振り絞って、僕は異形の太ももにナイフを突き立てる。


異形の甲高い悲鳴が狭い部屋を覆いつくす。

太ももはこれまでのどの部位よりも固い。ありったけの力を込めて、僕はぐりぐりとナイフをめり込ませていく。


そうしてまるで温泉を掘り当てたように、ある所から一気に緑色の血液が吹き上がる。

急所をえぐった。その確信があった。


その一撃を受けて、異形は存外にも立ち上がった。僕も慌てて立ち上がり、距離をとる。

もう一度僕に向かってくるかと思われたが、急激にバランスを崩してその背後に壁に思い切りぶち当たってそのまま動かなくなった。


異形の背後はさらなる奥へ扉だった。扉が破られ、奥のわずかな光が漏れている。


僕は思わず漏らした。


『やった、のか』

『どうやらそのようだな。奥にも部屋が続いているようだな』

『全く人使いが荒い。レイをとっちめるのは部屋の奥を確かめてからにしよう』


足を引きずるようにして進む。

奥の部屋は同じように薄暗かった。

それでも僕はそんなことを気にしている暇などなかった。

その光景におもわず目を見開く。


『なんだ、これ』


さっきなんとか倒したあの異形が試験官に詰め込まれている。

それが気が遠くなるほどたくさん並んでいるのだ。

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