9-A.急襲
武器を抜いたものの、できることはあまりにも少ない。こちらは相手の様子が全く分からないのだ。分かるのはわずかな息遣いと足音だけ。
今は耐えなくては。
耳を研ぎ澄ませる。
足音。空気の動く音。
思ったところに刃を振るう。しかし、手ごたえはなく空を切るばかり。
次の瞬間にはわき腹に衝撃。僕の体は細枝のように吹き飛ばされた。そのまま壁にたたきつけられる。
全身に走る痛み。肺の中の空気が一気に吐き出された。一瞬抜けた力を何とか取り戻す。
パトリオの声。
『大丈夫か』
『ああ。それより電源はいつになる』
『もう少しだ。もう少しだけ耐えてくれ』
返事の代わりに僕はゆっくりと立ち上がる。攻撃は来ない。僕が苦しむ様を楽しんでいるようだ。
もう一度音を聞く。ふたたび足音。今度はそちらに拳銃で射撃する。
銃声とマズルフラッシュの後、確実に何かの叫び声が聞こえた。どうやらダメージが通ったようだ。
拳銃のことは知らないと見える。奴からすれば、今までよりはるか遠くのレンジから突然攻撃が来たわけだ。まるで訳が分からないだろう。それでも今のはまぐれに近い。そんな簡単に当たるものではないし、奴も当然警戒してくるだろう。
案の定、奴は移動している。今度は真横からの気配。ナイフを振り回して切り下がる。今度は何か引っかかるような感触。それでも浅い。ほぼダメージは入らない。距離をとって射撃。今度は命中せず。
お互い見合うことになった。こちらからはうかつに奴の間合いに踏み入ることはできないし、向こうも音を出して撃たれることを避けたいだろう。9mmとはいえ、立派な弾丸だ。分厚い体毛にでも覆われていなければ威力は十分だろう。
状況は五分というところか。こちらは奴を目視できないが、奴は深手を負ってこのままだと確実に消耗して動けなくなるはずだ。
動かなければいけないのは向こうだ。自分が消耗しきるまでにどうにか決着をつけなければならない。
足音。それも今までとは別の音。だんだんと暗闇にも慣れてきた。だからわかる。
やつはいなくなった。
混乱したが、即座に立て直した。ここは密室だ。それは自分が嫌というほど理解している。
どこかにいる。そのはずだ。
探せ。全身の感覚を研ぎ澄ませろ。
そしてわかった。それでも遅かった。
奴は天井に張り付いていて、そして一気に僕めがけて突っ込んできた。
全身を抑え込まれる。必死に抵抗するが、恐ろしいほど強い力でどう頑張っても振りほどけそうにない。
パトリオの声。
『おい。電源の権限を手に入れた。明かりをつけるからな』
部屋が一気に明るくなる。
奴がようやく姿を現す。
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