8-A.暗闇
医療のコロニーが管理している計算資源の塔にはよくわからないうちに着いた。というのも、オアシスから塔まで医療のコロニーの車で送迎してもらったからである。久しぶりの安全な空間ということもあり、僕はすっかり寝入ってしまっていたのだった。
夢うつつの僕は運転手であった黒髪の女性に起こされ、医療のコロニーの塔の前で車を降りた。最後までメイド服の女性との間柄を聞くことはできなかった。
奇妙なことに知性のコロニーの血なしで入ることができた。僕は知性のコロニーの後継者ではないとレイに再三伝えたものの、彼女が意に介さないわけがようやくわかった。
そもそも知性の血が必要なかったというわけではなく、過去に開けられたのではないかというのがパトリオの見立てだった。
内部は真っ暗だった。
またどこかに電源があるのだろうか。それに武装のコロニーにはなかったものがある。
それは
「なんだこの匂い」
「おそらく薬品の類だな」
「パトリオにも鼻があったとはね」
「からかうな。お前の脳波を読み取っているだけだ」
「それより電源の場所は?」
「わからない」
「なんだって?」
「わからないと言っているんだ。この一帯にはハッキングできそうな機器の類がない」
そういうわけだから
「今の俺はお前と全く同じ条件で世界を知覚しているにすぎない。あんまりあてにしないことだな」
「わかった」
からかっている場合ではない。これまでの自分はパトリオがもたらす知覚と演算能力の拡張に頼りきりだった。それがあればこそ背丈の何倍もある銀の騎士に勝つこともできたし、自分に向かって飛んでくる弾丸を避けることさえできた。
今の僕はただの人間だ。
それ思うと、急に体中の震えが止まらなくなった。
「どうした。心拍が乱れているぞ」
「当たり前だろ」
「何とか抑えろ。俺もできる限りのことはしてやる」
「なんだよ」
「話し相手、とか」
嘆息して僕は進む。
だんだんと目が慣れてきた。
武装のコロニーの計算資源の塔は巨大な一室であったが、ここでは細くて狭い道が延々と続いている。外から外観を見たときはそれほど大きく感じなかったが、こうして中を歩いていると、まるで永久に続いているような気さえしてきた。
目離れてきたといっても完全に暗闇を見とせるわけではない。通路の隅や奥を見通すことはできず、僕はいつのまにか自分がよくない想像を掻き立てられていることに気付いた。
武装のコロニーの計算資源を守っていたのは一体の大きな騎士だった。だが、今回もそのようである保証はどこにもない。実は闇に紛れていて、暗がりから僕のことを襲うのではないかと考えてしまうのだった。
もちろん今の僕にはそれを察知する方法はない。
足がすくむ。それでも今の僕にはためらいや恐怖を感じている暇すらない。
暗闇をかき分けて進む。
そうして、僕の目の前には明かりの漏れるドアが現れた。
「開けてもいいのかな」
「今はそうするしかないだろう。ほら早くしろ」
パトリオにせかされて、僕はおそるおそるドアを開け、そこに広がる光景に目を見開いた。
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