7-A.慟哭
のしかかるような沈黙が僕たち三人の間に訪れていた。本当はそこには何もないはずなのに、腕も足も絡められてさっぱり動けなくなっている。
息苦しい。それでも一人になることはできなかった。
純粋な恐怖。
武装のコロニーの長、イエンの暗殺。それは武装のコロニーにとてつもない影響を及ぼしたのは言うまでもない。
知性のコロニーへの対抗というのは夢物語になり、コロニーの土台から崩れ落ちてしまったのだ。
イエンが抑えつけていた有象無象の勢力たちがここぞとばかりに暴れだし、さながら内戦のようになっているとのことだった。
生き残ったイエンの護衛たちは命からがら僕たちを武装のコロニーの勢力圏から逃がしてくれた。武装のコロニーの人々が僕たちのことをどう思っているかわからないが、
少なくとも僕たちはイエンの意思を継いだのだから。
じきに武装のコロニーの人々は知性のコロニーに飲み込まれてしまうだろうというのが性能を上げたパトリオの見立てだった。
そして僕はコロニーの後継者たちを見る。
2人はおとなしく座っていたが、このセーフハウスに逃げ込んできたから一言も発しなかった。
僕は脳内のパトリオに語り掛ける。
「本当にここならマテニにバレないんだろうな」
「大丈夫だ。性能が向上した今ならしばらくの位置欺瞞くらいできる。今頃俺たちはまだ武装のコロニーにいることになってるさ」
そちらのほうが自然だしな、とパトリオ。
要するに僕たちはひとまずの安全を得たわけだ。
しかし、その代償はあまりにも大きかった。
武装のコロニーの長、イエン・ウー。現在の武装のコロニーの荒れようを見るに、人類の救世主といっても過言ではなかった。
英雄かくあれかし、といった人たらしぶりで僕はすっかり心を許していた。
そしてはそれはあの二人にとっても変わらないだろう。
特にランドにとっては。
これからどうするのか。イエンの遺志を継いだ僕たちが次に話すべきことはまさにその一点だった。
僕は意を決して口を開いた。
「ランド。これからどうするんだ」
「......」
反応はない。ただ、その手は震えている。まるで祈るようにイエンから受け取った指輪を握り締めている。
僕は続ける。
「行くんだろう。医療のコロニーに」
「ミスミ君、今は、その」
返答したのはリンだった。
「時間はないぞ。パトリオの位置欺瞞だって無限にできるわけじゃない。それが切れたら間違いなく次の標的は」
「わかってる!」
ランドは勢いよく立ち上がって怒鳴った。
そして僕に詰め寄ってくる。
「お前は気楽だよな! 知性のコロニーの後継者でもない! パトリオの力で弾丸だって避けられる!」
「......」
今度は僕が黙る番だった。
「目のまえで人が死んだ! 今度は自分が殺されるかもしれない! そんな状況で今すぐそんな簡単に決断なんてできるか! なあ!」
そのままつかみかかってくる。間近で彼の目を見る。緑色の瞳にははっきりとおびえの色が映っている。
「でも、それが君たちの使命だ」
僕が言えるのはそれだけだった。
「分かってる! そんなことは俺が一番わかってんだよ」
ランドの腕からみるみると力が抜けていく。そうしてその場にへたり込んでしまった。
それを見たリンが震えた声で言った。
「ね、ねえ。パトリオ、私たちどうすればいいの」
「わからない」
パトリオはにべもなく言った。
「俺は人工知能だ。できるのはすでにインプットされた使命を果たすことだけ。そこから外れるかどうかの決断を下すことはできない」
それを聞いてリンは静かに泣き出した。
一方で僕は冷静なものだった。ランドの言うように一人だけ高みの見物であるからかもしれない。
どうかんがえてもこのままではジリ貧だ。今すぐ医療のコロニーに向かうべきだろうに。
それでも僕だけはどうしようもないのも事実だ。
ふたたび沈黙が訪れる。しかし、それはすぐに切り裂かれた。
ランドの持つ指輪。それがにわかに震え、光りだしたのだ。
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