6-C.喪失
パトリオの性能が向上したことにより、その支援を受けている僕の近くも格段に広がっている。
「パトリオ」
「そうだ。梁の上、熱源がいくつかある」
これ以上撃たせてたまるか。壁を蹴り上げ、一気に梁の上に飛び乗る。
梁の上に照明は届いておらず、数メートル先の視界も危うい。それでも今の僕であれば、何がどこにいるのか簡単に知ることができる。
まるで立ち込めていた霧が晴れたかのような感覚。
銃声がしたほうに突き進む。正面から何がとびかかってくる。
具体的な形は暗くてわからない。それでもいつ、どのように僕に攻撃しようとしているのかは手に取るように分かる。
受け流しざま、それを腕ではじく。それだけで何かは梁から落ちていった。
熱源はまだまだある。人が一人分ほどしかない細い場所。彼らは律義に一列になって向かってくる。
僕はそれを順番に叩き落せばいいだけだ。
梁の反対側の終端にたどり着こうというとき、ほぼ目の前で爆発が起きた。
圧倒的な熱と煙に思わずその場にしゃがみ込み。逆に言うとそれだけで済んだ。計画的な最小限の爆発だ。
梁付近の壁が大穴が空いた。暗かった室内に強烈な日光が入り込む。
ちょうど逆光する形で誰かが穴のそばに立っている。
その手には狙撃銃のようなものが見える。
「誰だ! お前が撃ったのか」
発砲。動作自体を読み切っていた僕は首を傾けてそれを躱す。恐ろしく正確な射撃だ。それでもこれは単なる威嚇にすぎない。
そのすきに人影は穴へ落ちていく。
大穴から外を覗いているみるも、もう人影はない。おそらく建物の外周沿いを進み、僕の視界から消えたのだ。
あいにく僕の近く範囲の外になってしまった。
梁から飛び降りながらパトリオに呼びかける。
「誰かわかったか」
「デバイスをしているのは確かだ。でも強力なプロテクトがかかっていて個人の特定はできなかった」
その言葉は半分も僕の中に入っていなかった。僕はその場に全速力で向かう。
「イエンさん!」
護衛の一人がイエンさんを抱き上げて、大粒の涙を流している。
「どうして、こんなことに」
「ぬかったな。まさかこんなに行動が早いとは」
いうが早いが、イエンの口から血が一気あふれ出す。
せき込むイエンを僕たちは見ていることしかできなかった。
リンが叫んだ。
「早く武装にコロニーに帰りましょう。今ならまだ間に合うかも」
一同は静まり返ったまま。
誰もが分かっている。きっとリンだってそうだ。
「......そうだ。俺はもう長くない。君ら三人に頼みごとがある」
イエンが震える手つきで左手薬指の指輪を外した。
「これからのことは医療のコロニーの長、レイ・ヤンと協力しろ。一筋縄ではいかない女だが、この指輪を見せれば大丈夫だ」
受け取れ、というようにイエンは僕に指輪を向けてくる。
「僕は受け取れない。僕だけは知性のコロニーの後継者じゃない」
イエンはあっけにとられたような顔をして
「そうか。君は違うのか。それは、、、大変だな」
僕はその名を呼んだ。
「ランド、お前が受け取るんだ」
「......」
ランドはびくりと跳ね上がった。半分泣きそうな顔しているのが、ここからでもよくわかった。
ランドはうやうやしくイエンから血にまみれた指輪を受け取った。
イエンの若干の笑み。すぐさま全身から力が抜けたのが分かった。
僕たちは目の前で希望が徐々にしぼんで消えていくを見ていることしかできなかった。
赤い血が僕のたちの足元を覆いつくす様に広がっていく。
僕はそこに一面に広がるアマランサスの花を見る。
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