6-A.防衛
真っ黒な床が割れていく。足元がふらつくほどの強い振動とともに何かが床の割れ目からせり出してくる。
「ロボット?」
人の背丈の5倍はありそうな巨大な銀製のロボット。どこかで見たことがある。
騎士。核戦争の遥か昔。自らの主人を守るために戦ったという戦士だ。
全身が剣呑な輝きを持つ鎧。その右手に握られた自らの獲物である剣。
その鏡のような刀身には息をのみ、足がすくんだ僕たちが映っている。
きしむ音とともに騎士が歩き出す。恐ろしいほど流麗な歩き方。
とても鎧を着こんでいるとは思えない。
「子供たちは離れろ!」
イエンがそう叫ぶと小銃を手に取り、護衛たちとともに騎士の方に向かっていく。
僕たちは計算資源のように弾かれるように飛び出した。
「あいつはおそらく計算資源を守るための存在だ。計算資源の近くにいれば直接の被害はそう激しく動けないだろう」
パトリオが脳内で言った。
僕はランドとリンに問いかける。
「あいつを止めることはできないのか」
イエンたちと騎士の戦いを食い入るように見ている二人は僕の問いかけでハッと我に返ったようだった。
「ごめんなさい。私たちにはどうにもできないと思う」
リンがそう返す傍ら、ランドは俯く。
僕もイエンたちの戦いを見る。
三人は素人目にも卓越したコンビネーションを発揮しているように見えた。一人が囮となり動き回ることで騎士の注意を引き、残りの二人が弱点と思われる部位に一斉射撃を叩き込む。
ターゲットが変われば、囮役と攻撃役を流れるように切り替える。銀の騎士はまともにターゲットを絞ることができていない。
それでも彼らの弾丸は一発として銀の騎士を貫いてはいない。
銀の騎士が剣を振るう。三人は剣をうまくかわしたが、その風圧だけで護衛の一人が吹きとんで壁までたたきつけられた。
そしてそのまま動かなくなる。
「大丈夫か」
イエンの言葉に倒れた護衛は小さく手を上げる。まだ無事のようだった。
それでもほっとしている暇はない。
「イエンさん、そろそろ弾が尽きるぜ」
「こちらもだ。潮時か。子供たち、いったん引くぞ」
「倒れている人はどうするんですか」
「人を抱えては下がれない。ここにおいていくほかない」
「そんな」
気が付くと僕は立ち上がっていた。
「ミスミ君、ダメだよ」
リンの言葉は届かない。倒れている護衛のところまで走ると、持っている小銃とマガジンを抜き取る。
「所有者情報を書き換えた。撃ち方もインストールした。分かるな?」
パトリオの声に僕はうなづく。僕ははじめ触る銃を慣れた手つきで確認する。ささっているマガジンの残弾。チャンバーチェック。
セーフティ。
「情報資源のダッシュに使っていたリソースをあいつの解析に回す。お前はなるべくあいつに接近しろ。デバイスがやつに近づけばより効率よく進む」
「わかった」
僕は騎士に向かって一気に走り出した。
騎士は巨大で力強いが、動き自体は緩慢なものだった。市場で相手にいた狼に比べれば動きを予測してそれに合わせることは難しくない。
長大な剣の縦振り。剣から発生する風圧を逆に利用して右に大きく転がる。起き上がって射撃。はじめてのそれで肩が痛むが気にしている余裕はない。
頭あたりに着弾したはずだが、ダメージはない。当たり前だ。歴戦の猛者ですらできないことを僕にできるものか。
大事なのは時間を稼ぐことだ。
恐れずに走る。そうして騎士の足元に張り付こうとする。直前に左の蹴り。チャンスだ。僕はむしろ前に突っ込む。
スライディングで振り上がった左足の下を抜けていく。
騎士の後ろをとった。もう一度射撃。それでも反応はない。それでもこれでイエンたちと挟み撃ちにすることができた。
「カケル下がれ!」
パトリオの通信に反射的に従う。数秒前まで僕がいた場所を銀色の光が切り裂いていく。
回転切り。
「さっきより速い」
「敵さんも本気ってわけだ。どうも今までは本調子じゃなかったようだな」
残弾チェック。今のマガジンで弾薬は終わりだ。どちらにせよ終わりは近そうだ。
騎士は僕を選んだ。イエンたちを無視してこちらにもう一度剣を振り上げる。
今度はそれに突っ込むことなく、壁際まで走り柱をよじ登って天井に張り巡らされた梁にのぼる。
「ちょうどいい。あいつの弱点が割れたぞ」
「本当か」
「お前は今から何も考えず、梁から飛び出してあいつに張り付け。あとのことはその時言う」
「わかった」
僕は即座に梁から身を投げた。今更四の五の言っていられるか。
騎士の肩に飛び乗る。騎士はうっとおしそうに身をよじって僕を振り落とそうとする。
僕はどうにか腕だけで肩に捕まり続ける
イエンと護衛の一人が銃を捨てて、騎士の足元まで走りこんでいる。持っているのはグレネード。
瞬間発生する爆発と衝撃。明らかに騎士の動きが一瞬止まった。
「今だ!首元まで行け」
どうにか首元にたどり着くと、何かが露出している。
「整備用のパネルだ。そいつに直接ハッキングをかけてこのデカブツを沈黙させる」
デバイスには通信用のケーブルが備えられている。僕はそれを引っこ抜くとパネルの端子に思い切り突っ込んだ。
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