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5-C.簒奪

イエンは護衛を伴って、僕たちを武装のコロニーの外に連れ出した。

コロニーからはどんどんと離れていく。どうやら僕たちが探していたところはかなり見当違いだったようだ。


イエンは僕たちを騙しているわけではない、と僕たちは何かを話すではなくその考えを共有していた。

それがなぜなのかはわからなかった。


「どうして僕たちのことを信用してくれたんですか」


僕は一番気になっていたことを聞いた。


「まず、計算資源のことは国家機密だ。知っているのは行政府の人間だけ」


無用な争いは起こしたくないからね、とイエン。


「外部の人間がそれを知るには俺たちが知らない方法で情報を得る必要があるわけだ」

「それが人工知能によるハッキングだ、と」

「そういうこと」

「なら俺たちがスパイである可能性は消せないはずだ。マテニが情報を得て、俺たちを使わせたということもありうる」

ランドが口をはさんだ。確かにその可能性は消せない。


「そうだよなー。ま、そこは男の勘」


僕は全身の力が抜けるのを感じた。


「と言いたいところだけど、僕も君たちと一緒だからね。こうなることは知っていたいのさ」


つまり


「マテニが暴走したときのための保険。知性のコロニーの創設者の子孫」


背後でランドとリンが息をのむ音が聞こえた。

僕は二人の苦労を思った。マテニという強大な力が暴走したときの保険という重大な責任を立った二人の子供だけ負う。

そんなことは土台無理な話なのだ。


「だから安心してほしい。俺は君たちの味方だよ。君たちの人工知能がどう考えるかは別だけどね。いるんだろう、デバイスの中に」

「......」


パトリオは何も言わなかった。


「彼に伝えてくれよ。我々としては君たちの力が必要なんだ。確かに我々は旧時代の遺産を受け継ぎ、多くの武器の設計図と材料を持ちあわせている。しかし、電子戦分野ではさっぱりだ」


だから衛兵の武器は無効化され、手錠だって外されてしまったわけだ。


「だから君たちを計算資源まで連れて行こう、というわけだ」

「今は信じるしかない、か」


パトリオは覚悟を決めたように言った。


1時間ほど歩いて、僕たちがたどり着いたのは真っ黒で扁平な金属で作られた建物だった。時折表面で小さな光が点滅しているのが見える。

その威容に思わず息をのんだ。


「間違いない。ここにある」


パトリオが言った。


「本当にここなんですか」

「ああ。君たちがアクセスしようとしている計算資源について少し話しておこう」


息を継いでイエンが続けた。


「これはね、本当は人類の移住先とされていたアストレイア-9で使われるはずだったものだ。用途は至ってシンプル。初期の都市開発や交通整理といった感じだな。それがどうしてここで眠っているのか。それは君たちもよく知っているだろうさ」


ランドとリンが進み出る。2人は何をすればよいかをよくわかっているようだった。


「そう。知性のコロニーの血はあっても人工知能がなかった。だからどうしようもなかった」


2人が扉に触れると、それは至って自然に開き、僕たちを奥へと招いている。


中はひんやりとしており、真っ暗で何も見えなかった。これではどうすればいいかまったくわからない。


「安心しろ。電源は生きている」


パトリオが言った。見れば、最奥でただひとつ小さく緑に光っているランプが見えた。


イエンにそれを伝えると、彼は護衛を伴ってランプまで進む。


「電源を入れるよ」


室内が一気に明るくなった。伽藍洞としている。外見と同じ真っ黒な金属で作られた内壁が首が痛くなるほど高く作られた天井まで伸びているだけだった。

だからこそ、中央に置かれたそれはまさに異様だった。


「これが計算資源か」


それだけは周りの壁とつくりが違った。人の二倍の背丈をしたそれは、配線のようなものがむき出しになっており、人体の中を見たようなグロテスクな感じすら覚えた。

ランドとリンがまた進み出る。計算資源には指紋認証用のデバイスがある。代表してランドがそれに触れた。


しかし何も起こらない。


「あれ」


代わりにリンがそれに触れる。

今度も何も起こらなかった。


「方法が違うのか」

「いや正しいはずだ。恐れく指紋認証用のデバイスが壊れてるんだ」


ここに計算資源が置かれてから何十年と経っている。確かにそもそも機能が生きているほうが不思議なくらいだろう。

パトリオが言った。


「手段はこれしかない。今から強引に所有権を奪うからお前たちは時間を稼いでくれ」


計算資源だけではない。室内全体が一気に赤く染まる。警告。


「時間を稼ぐ? どういうことだ」


言うや否や、床の一部が大きく開く。

何かがせり上がってくる。

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