5-A.潜入
僕たちは武装のコロニーの周辺をさんざん偵察し、武装のコロニーに潜入するしかないと結論付けた。
どこをどう探しても計算資源にたどり着けそうになかったからだ。
マテニのネットワークから離れたパトリオの性能は格段に落ち、計算資源の場所を割り出すことはできなかったようだった。
そういうわけで僕たちは武装のコロニー、テールムに入り込んだ。張り込んだといってもコロニーは完全に開放されていて、知性のコロニーのように壁で囲まれているわけではなかった。
心理的には緊張したものの、おそらく僕たちは怪しまれずに済んだだろう。パトリオにも多少の心理操作が可能らしく、そのあたりのカバーをしてくれた。
「意外と綺麗だな」
知性のコロニー以外のコロニーを見たことがなかった僕にとって素直にそう思えた。
コンクリートのビルが整然と並ぶ知性のコロニーに比べればここは猥雑というよりほかなかった。
木造のバラックと煉瓦の家々が交互に並ぶ。その下を歩く人たちは老若男女バラバラの装いをしており、統一感というものがかけらもなかった。
漂ってくる匂いもいろいろなものが複雑に入り混じっており、無味無臭を是とした知性のコロニーとは空気からして違うのだった。
知性のコロニーの内部と外部のバラックの間といった感じの発展具合だと僕は結論付けた。
「あれは」
「武器だな」
視界の片隅でランドとリンが店先に並ぶそれを恐ろし気に眺めている。
武装のコロニーというだけあって、その店先に並ぶ大半のものは武器だ。昔ながらの銃器からさらに昔の剣や槍まで僕が勉強した歴史に登場した武器すべてが並んでいるといっても過言ではなかった。
「こらこら遊ぶな。ここでは俺は役立たずだ。君らに計算資源を探してもらう必要があるんだぞ」
パトリオがそう苦言を漏らした。人工知能のくせに明らかにあきれている。
僕はすかざす言い返した。
「とはいえその計算資源ってのはいったいなんなんだ。形もわからないと探しようがない」
「俺も実際に見たことがあるわけじゃないからな。探せば絶対に見つかるはずだ。建物くらい大きなものらしいからな」
「でも周りはさんざん見て回ったよ。このコロニーの中にそんな大きなもの隠せそうにないし」
リンがうんざりしたように言った。
確かにそうだった。武装のコロニーは猥雑な街並みとは裏腹に街自体は非常に整然としたつくりをしていた。
中央の行政府を中心に道が複数本放射状に広がっており、それらの間を毛細血管のような小路が無数につないでいる。
メインとなる通りは簡単に見通せるだからそんな大きなものがあるならわからないはずがないのだ。
「じゃあ残りは」
「行政府だな」
ランドが確信めいた言葉づかいで言った。
「本当に行くのか」
「そこしかないのならしょうがないだろう。ほら行くぞ」
ランドが速足で人ごみをかき分けていくのを僕たちは慌ててついていった。
行政府はこの武装のコロニー、テールムの中でひときわ豪華だった。赤いレンガと真っ白ですべすべな石を組み合わせて作られたその外観は行政府にふさわしい威厳を兼ね備えていた。
僕は知性のコロニーのマザーサーバのある建物に行ったことはないが、おそらくこれより美しいことはないのではないかと思った。
「さて、いくか」
まっすぐ進もうとするランドを僕とリンが慌てて止めた。
「行ってどうするの。絶対に怪しまれるって」
「そうだ。僕たちはよそのコロニーから来たんだぞ」
「それでも行くしかないだろ。俺たちに他に道はない」
「裏口からこっそり入るとかいろいろ方法があるでしょうが」
それはそうだけど、途方に暮れる僕たち。
気が付けば屈強な男たちに囲まれていた。その手には武骨な銃器。
「お前らのそのデバイス、知性のコロニーのものだな」
「怪しいな。取り調べをするから来い」
冷や汗が止まらない。
「チャンスだな」
頭の中でパトリオが言った。僕は脳内で即座に言い返す。
「いやいやどう考えてもピンチだろ。逃げられないのか」
「マッピングは済んだ。今なら逃げ出すことも難しくないだろうな」
「本当か。じゃあナビゲートしてくれ」
「いや、ここはあえて捕まろう。これで行政府の奥まで入り込むことができる」
「他人事だと思って」
ここまで性能が落ちるかね、と僕は心底あきれながら男たちに連行されていく。
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