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4-A.宣言

レンは彼に割り当てられた自室の中でじっとしていた。

本日も警らの仕事を終え、シャワーも浴び食事を済ませた。

あとは就寝するだけとなっている。

部屋には最低限の家具以外のものが一切存在せず、かつ清潔に保たれている。

翌日にレンが部屋を出て別の人間が入居してもまったく違和感なく生活を始めるだろう。

すべきことが何もないのだからただ座っている。レンにとっては当たり前のことだった。


それでもレンが就寝しないのは、今日この時間をマテニが指定していたからだった。

特別連絡があったわけではない。ただそのように感じられるのだ。そしてこれまでそれはすべて正しかった。


これがマテニ、そして知性のコロニーと一体になることだ。レンはこの感覚にひどく満足していた。

自身が満たされているという感覚。目に見えるすべてにたいして、明瞭に知覚できている気がするのだ。


だからこの生き方に何の不安を覚えることもない。ただ、コロニーとつながり、そこから流れてくるイメージに従えばいい。

そうすれば必ずうまくいく。

その予感だけが全身を包んでいる。


それだけにカケルのことは残念だった。あいつはこの幸福感を知ることもないまま、これからこの楽園の外で苦しみながら生きていくことになるのだから。

それでもしょうがない。あいつには資格はなかった。


コロニーに選ばれなかったのだから。


そうしてその時間がやってきた。


「コロニーの皆様、こんばんは」


どこからともなく声がした。

これがマテニの声か。レンは自らの頬をとめどなく涙が流れていくことを感じていた。

コロニー、マテニとは常につながっている。それでも今までこうして声を聴くことはなかった。

ああ、どれほど美しい声だろう。自分は母の声を知らないが、きっと母の声よりも己の心を癒すだろうと確信した。


「いつもコロニーのために働いていただきありがとうございます。皆様の類まれなる貢献のおかげでこの知性のコロニーは他のコロニーを導く存在であり続けていることができます」


全くその通りだ、とレンは思った。日々の努力はきっと報われる。自分たちは必ず人々を導き、灰色の空の向こうに届くことができるだろう。


「普段はデバイスに指示そのものを伝達し、こうした口頭でのコミュニケーションはしていませんでした。しかし、今回ばかりはそうはいきませんでしたのでこうして皆様に直接語り掛けています」


マテニは続けた。


「今回だけは私の言葉でみなさまに私の思うところを伝え、そうして心から皆様にそれを理解してほしいのです」


なんと慈悲深いのだとレンは胸を打たれた。コロニーの構成員は数十万人に及ぶ。その気になれば瞬時に指示を伝えることができるのに、そんな我々一人一人に語り掛けようというのだ。


「これまで私は周辺の2つのコロニーに統合を求めてきました。すなわち武装のコロニー、テールムと医療のコロニー、テラペイアのことです」


しかし


「2つのコロニーはあろうことかそれを幾度となく拒み続けてきました。私たちの遥かなる目標のための努力を知っていながらです」


レンは自らの中で怒りが沸騰するのを感じていた。全く許せない。私たちが最も目標に近く、最も良い方法をとっているのにそれに従わないなんて。


「私は悲しい。同時にこのコロニーの正しさを再確認しました。最も良いコロニーがすでに存在しているのに、それに従わない。それはつまり人類の崇高な目標に背いている。理解せざるを得ません」


その通りだ。レンは誰もいない部屋で強くうなづいた。


「それはなぜか。ひとつは我々が最も正しいことが2つのコロニーに伝わっていないこと、もうひとつはコロニーを管理する長が権力に執着していことです」


これによって


「本来であれば我々の同胞となるべき人々が他のコロニーに取り残されている状況生まれてしまっています。これは由々しき事態です。他のコロニーの生活水準は十分な体制が整っているとは言えません。また、単にコロニーが違うということだけで協力し合えないのは非効率的です」


人類は未曾有の課題を抱えている。資源も乏しく、自然環境も厳しくなっている中で人類同士が争っている場合ではないのだ。レンはマテニの言葉に強く共感した。


「私はそこで決断しました。本当はこんなことをしたくはありません。けれども、もう時間はそれほど残されていないのです」


それはつまり


「人類を統合します。そのために他のコロニーの利己的な指導者から人々を開放するのです」


レンは声を上げた。他コロニーへの宣戦布告。英断だ。これが実現すれば、人類はこの最も優れたコロニーのもとで一つになれる。

コロニーの発展が効率的に進むというものだ。

そうすればスミコだって救うことができるはずだ。


同時に深い悲しみを覚えた。人類というのはいかに愚かなのか。地球脱出という大きな目標を前に自らの権力にこだわり、よりよい方法を選択できないでいるのだ。

やはりこのコロニーが最も正しく、先進的だ。

人類を導くのは我々なのだ。


レンはマテニが紡ぐ言葉の続きに耳を澄ませた。

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