表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/28

第二十四話 悪役令息フランツの襲来

「ヴォルフ兄ちゃん、僕、見えてないでしょ? 僕、本当に透明のおばけになってるでしょ?」


 ふふふと両手で口を覆いながら河童少年は、わくわくとしてヴォルフに聞く。


「うん。河童くん、すごいよ。 かんぺきに壁になれてるよ」


 ヴォルフは、レンガの壁にぴったりと背中をくっつけている河童少年の頭を撫でながら答えた。


 ヴォルフに褒められ嬉しそうにはにかむ河童少年。時折猫背になってしまう背中を幾度となく伸ばしては、ふふふと誇らしげにその姿をヴォルフに見せていた。


 彼とは反対に、ヴォルフの顔には緊張の色が滲んでいる。


 ヴォルフと河童少年は、地下牢にいた。


 数本の蝋燭だけが灯された地下牢は、一寸先は真っ暗闇で、頼りなさげな蝋燭に灯された小さな空間は、なおのことヴォルフの緊張を高まらせていた。


 河童少年は、その暗がりの壁に身を寄せて赤茶色の毛並みをレンガ壁と完全に同化させている。不安げに腕を摩り始めたヴォルフに、河童少年は無邪気な笑顔を向けていた。


 ヴォルフの背後にある鉄格子を挟んだ牢屋の中には、浜辺に打ち上げられた銀髪の青年がいた――。





「――白タキ……フランツに煎じた眠くなる薬だけど……」


 湯あみ場で紗良の声が聞こえる。ごつごつとした岩に囲われた防音空間であるこの湯あみ場で紗良は、声を潜めてジョバンニに話しかけていた。


「私、分量がよくわからなかったから、気持ち少なめに配合して煎じたわよ。カイルもいないし、正確な量が分からなくって……私があげた薬草が多すぎて、フランツご令息が一生起きませんでした……なんて怖すぎるし……だから、もしかしたら予想よりかなり早く起きるかも知れない」


 背の低い木製の小さな椅子に腰かけながら紗良は、ジョバンニと鼻を突き合わせている。


 二人が腰かけているその椅子は、普段体を洗う時に使われていた木製の椅子で常に湿り気を帯びていた。ひんやりと水の感触を尻に敷き紗良は、ぶるっと身震いした。


「目を覚ましたとしても、地下牢にいる限り大丈夫だろ」


 不安げな表情で自身の肩を抱く紗良にジョバンニは「安心しろ」と彼女の頭をポンポンと叩いた。


 彼らは浜辺に打ち上げられていた青年について話し合っている。


――アーサーの若返りだと紗良が勘違いしたその青年の正体は、十年前、紗良が召喚された時に彼女を出迎えていた当時の第三王子、フランツであった。


 紗良の後を追って浜辺に着いたジョバンニは、フランツの姿を認め、彼が目を覚ます前に彼を地下牢へと運び込んだ。


 十年前にアーサーが打ち上げられた時と同様、フランツは、衰弱し発熱していた。彼を一晩介抱したジョバンニは、フランツの熱が下がった頃合いで、睡眠作用のある煎じ薬を彼が意識を取り戻す前に飲ませていた――。


「フランツが目を覚ましたらすぐに壁を叩いて叫べってヴォルフに言ってあるから。それに、地下牢にはヴォルフだけじゃなく壁に隠れて河童もいるしな。フランツがヴォルフに何かしようとしても、あの毛むくじゃらの変なのが『兄ちゃんに何すんだ!』とか、叫びながら壁から突然現れて、フランツにクチバシをパクパクしながら突進していったら……ククク、フランツ、臆病だから、速攻で気絶するだろうな」


 紗良の心配をよそに場違いなほど面白そうに肩を震わせているジョバンニに、紗良は、呆れた様子でため息を吐いた。


 彼女の鋭く責め立てる視線に、ジョバンニは、コホンと咳ばらいをして表情を引き締める。


「とりあえず、あいつらは大丈夫だとしてだな――問題は、なんでフランツが、今さら(ここ)に来たのかってことだよ。お前が召喚されてから十年。あいつが俺を(ここ)に送り込んで以来、アーサーさんがこっちに来ようが、あいつの母親と離縁しようが、ここに住み始めようが、何の反応も示さなかった奴が、いまさら島に来た。しかも、一人で……嫌な予感しかしねぇ。それが、アーサーさん絡みなのか何なのか。ヴォルフに会いに……ってことは、なさそうだけど――」


 ジョバンニは、紗良を見遣った。心配そうに紗良を見つめているジョバンニに、紗良が彼の言葉を継いだ。


「私が……(つがい)様が目的ってことかも知れないのね?」


 真顔で頷いたジョバンニは、腕を組みながら天井を見上げた。


「でも、わかんねぇのは、十年経ってお前になんの用があって来たかって事だ……確か、アーサーさん、紗良が若返ったってまだ上に報告していなかったはずだし――そうなると(つがい)としてお前とどうとかってこともなさそうだし。世間ではお前はもうお役御免の余生を送るだけの(つがい)様のはずで、他の(つがい)様も同じように静かに暮らしているはずだけど……でも、俺らの代で召喚された(つがい)様で、能力を発現させたのは――お前だけだからな。その能力のためにお前を? 虫歯治療をいま?」


 考え込むジョバンニに、紗良が真剣な表情で、

「どうする? 追い出す? 眠ってる間に……ほら船に乗せて――」


――ヒッギャーー!!!!


 突然響き渡った悲鳴に、紗良とジョバンニは驚き顔を見合わせた。


 次いで鳴り響いた壁を叩く音。


 ジョバンニを呼ぶヴォルフの叫び声に、

「マジか……もう起きたのか」

 ジョバンニは、はぁとため息を吐きながら立ち上がった。


「とりあえず、お前はここにいろよ。お前が若返って、痩せて……あ、その金髪もちょうどいいな、髪の毛の色も変わって、見た目は、十年前とほぼ別人になったから、フランツは今のお前を(つがい)様と認識しないだろうけど……あいつが何をしに来たのか、そもそもわかんねぇから――」


 ぶつぶつと言いながら扉へと向かったジョバンニは、扉に手をかけて、

「お前は、動くなよ。ここでじっとしてろ」

 振り向き紗良に念を押した。


 コクコクと頷いて見せた紗良に、にんまりと笑顔を見せたジョバンニは、「秒で解決してくるよ」と勢いよく扉をあけた。


 バタンと元気よく閉じられた扉に、紗良は、

「秒で解決? 本当に、大丈夫かな――」と、天井を仰いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ