控室トーク:歴史の味、未来の一杯
(エンディングの感動的な雰囲気から一転、控室は収録を終えた解放感と安堵感に包まれている。柔らかな照明の下、各対談者のエリアには、それぞれの時代や文化を反映した、温かい湯気を立てる料理や、色とりどりの果物、パンなどが並べられている。中央のテーブルにも、皆でつまめるようなドライフルーツやナッツなどが置かれている。穏やかな異国の弦楽器のようなBGMが微かに流れている)
ルター:「(控室に入るなり、大きな伸びをして)はぁーーーっ、終わった、終わった! いやはや、寿命が縮まるかと思ったぞ! 特に最後のラウンドは、あすか殿の質問が鋭くて冷や汗をかいたわ!」
(ルターは自分のエリアの椅子にどっかりと腰を下ろし、テーブルの上の料理を見て目を輝かせる)
ルター:「おおっ! これは! 見慣れたソーセージにザワークラウト! それに、この黒パンの香り…まるで故郷に帰ったようだ! ビールもまだ残っておるかな?(ジョッキを手に取り、満足そうに頷く)」
モーセ:「(同じく席に着き、目の前の素朴なパンや焼肉を見て)ふむ…。長旅の後の食事は、格別だな。(隣のアブー・バクルのエリアに目をやり)アブー・バクル殿、あなたも長丁場、ご苦労だった。代理という立場は、気苦労も多かったであろう。」
ムハンマド(アブー・バクル):「(丁寧に会釈し)いえ、モーセ様(彼に平安あれ)こそ、お疲れ様でございました。預言者ムハンマド様(彼の上に祝福と平安あれ)の教えを、少しでも正確にお伝えできたか、そればかりが気がかりで…。しかし、このような貴重な機会をいただけたことに、アッラーに感謝しております。(自分の前のタリードを指し)これは、タリードと申しまして、預言者も好んで召し上がった料理です。肉と野菜を煮込み、パンを浸していただくのですが、もしよろしければ皆様も…。」
ルター:「おお、それは興味深い! 預言者の好物となれば、ぜひ味見させてもらわねばな!(早速、小皿に少し取ろうとする)」
モーセ:「(ルターを制するように)待て、ルター殿。まずは、この場を用意してくれた者たちへの感謝を捧げるべきではないか? そして、食事の前には、それぞれの流儀で、神への感謝を祈るべきだろう。」
ルター:「(少しバツが悪そうに)おっと、失礼、モーセ殿。確かにそうだ。この素晴らしい食事と、無事に議論を終えられたこと、そして何より、キリストの恵みに感謝せねばな!(目を閉じ、静かに祈りを捧げる)」
(モーセ、アブー・バクルも、それぞれの作法で静かに神への感謝を捧げる。釈迦は、穏やかに合掌している)
(しばしの静寂の後)
釈迦:「(合掌を解き、目の前の乳粥を指して)これは、私が悟りを開く前に、スジャーターという娘が供養してくれた乳粥に似ていますな。衰弱しきっていた身体に、この滋味が染み渡ったことを思い出します。(隣のルターに)ルター殿、もしよろしければ、この時代の果物はいかがですかな? 見たこともない形をしておりますが、甘露のような味がするかもしれませんぞ。」
ルター:「(釈迦のエリアのマンゴー?に興味津々)ほう、これはこれは! 見た目も鮮やかですな! では、遠慮なく。(一切れ口に運び、目を丸くする)おおっ! なんという濃厚な甘みと香りだ! これは…天上の果実か!? 我がドイツには、このようなものは無いぞ!」
モーセ:「(ルターの反応を見て、少し口元を緩め)ふふ、ルター殿は素直だな。(自分の前のデーツを手に取り)これはデーツ。荒野の旅では、貴重な食料であり、甘味でもあった。アブー・バクル殿の故郷でも、よく食されると聞く。」
ムハンマド(アブー・バクル):「はい、モーセ様。デーツは、我々アラブの民にとって、なくてはならない恵みです。栄養価も高く、保存も利きます。(自分のデーツをモーセに勧めながら)どうぞ、モーセ様。きっと懐かしく思われるのでは?」
モーセ:「(受け取り、ゆっくりと味わう)うむ…。変わらぬ味だ。神の恵みを感じるな。(釈迦のエリアの豆料理に目をやり)釈迦殿のところの料理は、肉を使っていないようだが、これもまた、素朴で体に良さそうだ。」
釈迦:「これは豆を煮込んだものです。私の教えでは、無用な殺生を避けますのでな。しかし、豆にも豊かな滋養がありますぞ。モーセ様も、ルター殿も、いかがですかな?」
(モーセとルターも、釈迦の勧める豆料理を少し味見する)
ルター:「ふむ、確かに肉はないが、豆本来の味がしっかりしていて、これもまた美味いな! スパイスの使い方も、我々のものとは全く違う。」
モーセ:「うむ、腹に優しい味だ。長旅の後には、こういうものも良いかもしれん。」
あすか:「(いつの間にか控室の隅に現れ、皆の様子を微笑ましげに眺めている)皆さん、お食事、お口に合ったようでよかったです! 時空修復師の皆さんが、資料を読み込んで、心を込めて再現したんですよ!」
ルター:「おお、あすか殿! あなたも一緒にどうだ? このソーセージは絶品だぞ!」
あすか:「ありがとうございます! では、お言葉に甘えて…。(ルターのソーセージと、アブー・バクルのタリード、釈迦の果物、モーセのデーツを少しずつ小皿に取り)わーい、夢の共演プレートですね! いただきます!」
(あすかも加わり、和やかな食事風景が続く)
アブー・バクル:「しかし、ルター殿。先ほどの最後のメッセージ、胸に迫るものがありました。『信仰によってのみ義とされる』…我々イスラムの教えとは異なりますが、神の恵みへの絶対的な信頼という点には、共感するところもございます。」
ルター:「(ビールを飲みながら)そう言っていただけると嬉しいですな、アブー・バクル殿。あなた方の、アッラーへの揺るぎない服従と、預言者への深い敬愛の念も、私には眩しく見えましたぞ。ただ…やはり、行いによらず、ただ信じる者に無償で与えられる神の愛を知っていただきたい、という気持ちは変わりませんがな!(笑)」
モーセ:「(ルターの言葉に、やれやれという顔をしつつも)まあ、その議論はもうよそう。それよりも、釈迦殿の『慈悲』という教え…。あれは、我々の律法にある『隣人愛』や『寄留者への憐れみ』と、どこか通じるものがあるのかもしれんな。民を導く上で、厳しさだけでなく、やはり愛が必要だということは、私も痛いほど感じてきたことだ。」
釈迦:「(穏やかに頷き)モーセ様のお言葉、嬉しく思います。律法という『形』は違えど、その根底にある、他者を思いやる心、苦しみを取り除きたいと願う心は、私たちを繋ぐ大切な糸なのかもしれませんな。ルター殿の語る『信仰』も、アブー・バクル殿の語る『服従』も、その源には、人間を超えた大いなる存在への『愛』があるように、私には感じられました。」
あすか:「(もぐもぐしながら)うんうん! 皆さん、議論中はバチバチでしたけど、根っこにある優しさとか、人々への想いは共通してるんですね! なんか、感動しちゃいました!」
ルター:「しかし、あすか殿の時代の技術というのも、大したものですな! このように、異なる時代の者が一堂に会し、言葉まで通じるとは…。まさに奇跡だ。」
モーセ:「うむ。そして、あの『画面』なるものに、我々の姿が映し出され、遠くの者たちにも見られているというのも、不思議な感覚だったな。」
アブー・バクル:「はい。我々の言葉が、未来の多くの人々に届くのであれば、それは大きな意味を持つことでしょう。願わくは、それが良き理解と、平和への一助となりますように。」
釈迦:「(窓の外のホログラム景色を見ながら)時代は移り変わり、人の営みも様々に変化するでしょう。しかし、人が苦しみ、そして真の安らぎを求める心は、きっと変わらない。我々の言葉が、未来の人々にとって、何らかの『縁』となることを願っておりますぞ。」
あすか:「皆さん…(涙ぐみながら)ありがとうございます! きっと、この番組を見た多くの人が、皆さんの言葉から、たくさんのことを学び、考え、そして勇気づけられると思います!」
(和やかな会話が続く中、どこからか静かに時を告げる鐘の音のようなものが響く)
あすか:「あ…そろそろ、お別れの時間のようです…。」
(一同、名残惜しそうな表情になる)
モーセ:「…もう、そんな時間か。もう少し、皆と語り合いたかったがな。」
ルター:「まったくだ。このビールも、もう一杯飲みたかったところだ!(笑)しかし、これも定めか。皆さま、達者でな!」
アブー・バクル:「皆様とこうして語り合えたこと、生涯忘れえぬ経験となりました。アッラーの祝福が、皆様の上にありますように。」
釈迦:「これもまた、一期一会。皆さまとの出会いに感謝いたします。それぞれの場所で、それぞれの法が輝き続けますように。(静かに合掌する)」
(四人は、互いに敬意のこもった眼差しを交わし、頷き合う。激しい議論を戦わせた相手ではあるが、今は、時空を超えて出会えた稀有な友としての、温かい感情が流れている)
あすか:「(涙をこらえながら)皆さん、本当に、本当に、ありがとうございました! お元気で! またいつか、どこかで…!」
(対談者たちの姿が、それぞれのエリアの光と共に、ゆっくりと薄れていく。まるで、夢から覚めるように、彼らは元の時代へと帰っていく。控室には、食べかけの料理と、温かい余韻だけが残されている)
あすか:「(一人になった控室で、深呼吸し、空を見上げ)…すごい対談だったなぁ…。私も、頑張らないと。」
(あすかは、決意を新たにした表情で、控室を後にする。穏やかなBGMがフェードアウトしていく)