オープニング:静かなる討論のはじまり
(スタジオ。重厚感のある石材と未来的な光のラインが組み合わされたデザイン。中央には司会のあすかが立つスペース。その周りを囲むように、コの字型に配置されたテーブルと椅子。背景には番組ロゴが静かに輝いている。厳かな、しかしどこか緊迫感をはらんだ音楽が流れる中、オープニング映像が映し出される。モーセが海を割るイメージ、釈迦が菩提樹の下で瞑想する姿、イスラムの美しいカリグラフィー、ルターが「95か条の論題」を叩きつける姿などが、テンポよくモンタージュされる。最後に番組タイトルが大きく表示され、音楽が切り替わる)
(スポットライトが中央のあすかを照らす。彼女は白いブラウスに知的な印象のスカート姿。少し緊張した面持ちだが、瞳には好奇心と強い意志がきらめいている)
あすか:「皆さんこんばんは!時空を超え、歴史を彩った物語の核心に迫る『歴史バトルロワイヤル』へようこそ!案内人を務めます、あすかです。」
(深呼吸し、笑顔で)
あすか:「今宵、このスタジオには、まさに人類の精神史そのものを形作ってきたと言っても過言ではない、4つの偉大な教えの代表者たちが、奇跡的に集結してくださいました!」
(あすか、ゆっくりとスタジオを見渡す。カメラが、それぞれの席に座る対談者たちを順に映し出す。モーセは威厳に満ち、釈迦は静かに微笑み、アブー・バクルは厳粛な面持ち、ルターは熱気を帯びている)
あすか:「今宵のテーマは…『宗教』。そして、その中心にあるとされる『真理』です。人は何を信じ、何を求めて生きてきたのか。神とは?救いとは?そして、究極の真理とは一体何なのか…?考えただけで、頭がクラクラしてきちゃいそうですけど…でも、今夜は逃げません!なぜなら、その『真理』を命がけで求め、そして世界に広めたご本人たち(とその代理の方)が、ここにいらっしゃるのですから!」
あすか:「さあ、ご紹介しましょう!時空を超えた聖戦、今、まさにその火蓋が切られようとしています!まずはこの方!」
(カメラがモーセを捉える。彼は麻のような質素だが威厳のある服をまとい、長い髭をたくわえている。その目は厳しく、遠くを見つめているよう)
あすか:「紀元前、エジプトの地で奴隷状態にあった民を率い、荒野を越え、そして神から『十戒』を授かったとされる、ヘブライの偉大なる預言者、モーセ様です!」
(モーセ、あすかの紹介にわずかに眉を動かすが、表情は変えない)
あすか:「うわぁ…すごいオーラ…!なんでも、言うこと聞かない民を40年も導いたとか…そのリーダーシップ、現代の政治家にも見習ってほしいくらいです!」
モーセ:「(低く、響く声で)…民を導くは、我が力にあらず。全ては、唯一なる神の御心によるものだ。」
あすか:「(少し驚きつつ)は、はい!失礼いたしました!さすが、お言葉に重みがあります…!」
あすか:「続きましては、この方!」
(カメラが釈迦を捉える。質素な衲衣をまとい、蓮華座を組んでいるかのように穏やかに座っている。口元には常に静かな微笑みが浮かんでいる)
あすか:「古代インドで、王子の身分という、誰もが羨むような地位を捨てて出家!生老病死の『苦』の謎を探求し、ついに悟りを開かれた仏教の開祖、釈迦様です!」
(釈迦、あすかに向かって静かに頷き、微笑みを深める)
あすか:「わぁ…なんだか、見ているだけで心が洗われるような…まさに『ブッダ』、『目覚めた人』という感じですね!でも、そんな釈迦様でも、怒ったりすることって…あったりするんですか?」
釈迦:「(穏やかで、澄んだ声で)怒りもまた、心の迷いより生ずるもの。火が薪によって燃え盛るように、怒りは更なる苦しみを生む。それを見極め、手放すことこそが道です。」
あすか:「(感心して)はぁ…深い…!私も見習わないと…ついカッとなっちゃうこと、多いので…。」
あすか:「そして、次にご紹介するのは…」
(カメラが厳粛な面持ちのアブー・バクルを捉える。彼は清潔な白い衣装をまとい、思慮深そうな瞳をしている)
あすか:「唯一神アッラーからの啓示を受け、イスラム教を開かれた最後の預言者、ムハンマド様。…ですが、イスラムの教えでは、預言者のお姿を私たちが直接目にすることはできません。そこで本日は特別に!ムハンマド様の最も信頼厚き教友であり、その教えを誰よりも深く理解され、後にイスラム共同体の初代指導者、カリフとなられた、アブー・バクル様が、預言者のお言葉を代弁してくださいます!」
(アブー・バクル、あすかに向かって厳粛に、しかし丁寧に頷く)
あすか:「アブー・バクル様、この度は本当にありがとうございます!番組内では、預言者への最大限の敬意を込めまして、『ムハンマド』様とお呼びし、表記もそのようにさせていただきます。皆様、どうぞ、そのお声はアブー・バクル様によるものであることを、心に留めておいてくださいね。」
アブー・バクル:「(落ち着いた、誠実な声で)…全能のアッラーの御名において。預言者ムハンマド様(彼の上に祝福と平安あれ)の教えを、力の限りお伝えするのが我が務めです。」
あすか:「ありがとうございます。心して伺います。」
あすか:「そして、最後にご登場いただくのは、この方!」
(カメラがルターを捉える。黒い修道服のような服装だが、その眼差しは鋭く、情熱の炎が宿っているようだ。少し身を乗り出している)
あすか:「16世紀ヨーロッパ!巨大なカトリック教会の権威に、たった一人で『否!』を突きつけ、『聖書にこう書いてあるじゃないか!』と、宗教改革の嵐を巻き起こした、プロテスタントの父、マルティン・ルター様です!」
(ルター、力強く頷き、テーブルを軽く叩く)
あすか:「うわー!まさに革命家!そのエネルギー、半端ないですね!今にも「異議あり!」って声が聞こえてきそうです!」
ルター:「(力強い、少し嗄れた声で)真理のためならば、この身、どうなろうとも構わん!神の言葉こそが、我らを自由にするのだ!」
あすか:「(圧倒されつつ)は、はい!その意気です!この討論、がぜん楽しみになってきました!」
(あすか、改めて全員を見渡し、少し息を整える)
あすか:「さて、ご紹介が終わったところで、早速ですが、皆様に核心的な質問を投げかけたいと思います。(場の空気が引き締まる)長い歴史の中で、人々は様々な『真理』を求めてきました。皆様が命がけで示された道もまた、その『真理』へ至る道だと信じられています。」
あすか:「そこで、お一人ずつお伺いします。あなたにとって『真理』とは、一言で言うと何でしょうか?そして、その真理に到達するために、あるいはそれを守るために、最も重要だとお考えになることは何ですか?…まずは、最も古き預言者であられる、モーセ様からお願いできますでしょうか。」
モーセ:「(厳かに、しかし確信に満ちた声で)『真理』、それは、天地を創造された唯一なる神、ヤハウェとの『契約』に他ならぬ。我らイスラエルの民は、神に選ばれ、その契約を結んだのだ。そして、その契約の証こそが、シナイの山にて授かった『律法』である。真理に至る道とは、この神聖なる律法を学び、理解し、そして日々の生活の隅々に至るまで、忠実に守り行うこと。それ以外に道はない。神は、従う者には祝福を、背く者には裁きをもたらされる。最も重要なのは、神への畏れと、律法への絶対的な服従だ。」
(モーセの言葉に、スタジオは静まり返る。ルターが少し眉をひそめるのが見える)
あすか:「神との『契約』と『律法』…。絶対的なルール、ということでしょうか。ありがとうございます。…では次に、釈迦様、お願いします。」
釈迦:「(静かに、諭すように)私が示す『真理』とは、言葉や概念を超えたもの。あえて言うならば、それは『苦』の消滅、すなわち『涅槃』と呼ばれる完全なる心の平安です。人はなぜ苦しむのか。それは、この世のあらゆるものが常に変化し(無常)、固定的な実体を持たない(無我)という真理を知らず、儚いものに執着する『無明』と『渇愛』によるのです。(ゆっくりと目を閉じ、再び開ける)真理に至る最も重要な道は、外なる神や経典に頼ることではありません。自らの心を深く観察し、戒律を守り、精神を統一し(禅定)、そして物事の実相をありのままに見抜く『智慧』を磨くこと。そして、生きとし生けるもの全てへの『慈悲』の心を育むこと。自らを灯明とし、法を灯明とすることです。」
(釈迦の言葉に、ルターは少し不可解そうな顔をし、モーセは静かに聞いている)
あすか:「自分自身と、智慧と慈悲…。モーセ様とは全く違うアプローチですね。ありがとうございます。…では次に、ムハンマド様、アブー・バクル様、お願いします。」
ムハンマド(アブー・バクル):「(預言者への敬意を込めて、落ち着いた声で)預言者ムハンマド様(彼の上に祝福と平安あれ)がお示しくださった『真理』。それは、この宇宙と、我々人間を含む全てのものを創造された、唯一にして絶対なる神、アッラーの御言葉、すなわち『クルアーン』そのものです。クルアーンは、人間が従うべき完全な導きであり、以前の預言者たち(モーセ様やイエス様を含め)に下された啓示を完成させる、最後にして究極の啓示なのです。(真っ直ぐ前を見据え)真理に至る道は、ただ一つ。それは、自らの意思を捨て、アッラーの御心に完全に『服従』すること。疑うことなくクルアーンを信じ、預言者の教えに従い、礼拝や断食などの定められた義務(五行)を誠実に果たすこと。最も重要なのは、アッラーの唯一性を固く信じ、何ものをも神と並べないことです。」
(アブー・バクルの言葉に、モーセは頷き、ルターは何か言いたげな表情を見せる)
あすか:「『クルアーン』と『服従』…。これもまた、絶対的なものを感じますね。ありがとうございます。…それでは最後に、ルター様、お願いします!」
ルター:「(待っていましたとばかりに、熱を込めて)『真理』とは何か!?それは、イエス・キリストにおいて明らかにされた、神の限りない『恵み』のことだ!我々人間は皆、アダム以来の罪によって汚れ、自らの力によっては、到底神の前に義とされることなどできんのだ!(拳を握りしめ)律法を守る?善行を積む?そんな人間の哀れな努力で、神の怒りを鎮めることなど不可能!(声を張り上げ)真理とは、この罪深き我らのために、神の御子キリストが十字架にかかり、その命をもって罪の代価を支払ってくださったという、この『福音』に他ならない!最も重要なこと、それは!ただこのキリストを救い主として『信仰』することだ!聖書に記された神の約束を信じること!行いではなく、信仰によってのみ、我らは義とされ、救われるのだ!これこそが聖書の核心であり、揺るがぬ真理なのだ!」
(ルターの熱弁に、スタジオ全体が圧倒される。モーセは不快感を隠さず、釈迦は静かにその様子を見守り、アブー・バクルは眉をひそめている)
あすか:「(少し気圧されながらも)は、はいぃぃ!『信仰』!ルター様の魂の叫び、確かに受け止めました!ありがとうございます!」
(あすか、一息ついて、改めて対談者たちを見渡す)
あすか:「…いやはや、皆様、ありがとうございました。律法、智慧と慈悲、啓示への服従、そして信仰…。同じ『真理』という言葉を使いながらも、その中身、そしてそこへ至る道筋は、こんなにも違うものなんですね…。(興奮した様子で)これはもう、最初からクライマックスのような気もしますが、議論はまだ始まったばかり!この違いが、これからどんな化学反応を起こすのか…あるいは起こさないのか!?時空を超えた聖戦、いよいよ本格的に開戦です!」
(あすか、力強く前を向き、カメラに笑顔を見せる。議論の開始を告げるファンファーレのような音楽が鳴り響く)