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第98話 やっちまったぁぁああ!!

 カイルは仰向けで天井を見ていた。天井の板の隙間から無数の光の線を捉え、あれが朝日によるモノだと思った。

 身体は金縛りにあったかのように不思議と動かす事ができない。まるで、悪夢から急に醒めたようなそんな感覚である。

 ただ、かろうじて首は動かせる。試しに右横に首を回してみる。そこは宿屋の壁だ。

 それなら今度は反対だ。そこにはカイルの顔があった。

 スゥースゥーと寝息を立てて眠っている。ベットに寝そべる彼は薄いタオルケットを身体にかけているが肩の部分がはみ出ている。

 しかし……そこに露出する素肌。推察するに……()()()()()()()()()のである。

 そして、再び首を元の位置に戻して、視線を天井の板へ……そのまま、しばし放心状態へと突入する。

 必死に昨日の記憶を呼び起こし状況整理に努める。

 自分もおそらくベットに寝かされている。薄いタオルケットをかけているのも横で寝息を立てている人物と一緒だ。

 服を着ていないのも……おそらくは……同じ……。

 それに、何やら下半身に違和感が……ジンジンとした感覚がある。痛い……とまでは言わないが、今までの人生で感じた経験のない異様な感覚である。


 そして……


 ここまできて、ようやく事態を把握した。



(や、やっちまったぁぁぁぁッッッ…………)



 顔を手で覆い大いに恥じた。己の短慮さと愚行に心のそこから軽蔑した。

 彼は、せめてもの抵抗を見せるべきだったのだ。それなのに……事態を把握したのは事が終わってからだ。

 自分で自分をブン殴りたい——そんな気分ではあったが、今の身体は借り物だ。それができないもどかしさが彼の心をボコボコにしてしまうのであった。



「あら? カイル……起きてたの?」

「——ッ!? エリスッ!?」



 だが猛省中の彼に不意に聞こえてくる声——再び首を捻ると上体を起こして笑うカイルの姿が……いや、事に及んでしまったエリスがニヤニヤとカイルのことを見つめていた。



「君って奴はぁ〜あ!?」

「ふふふ……良い経験だったわ。ありがとうカイル〜〜♪」

「——ッ全然良くなーーい!!」

「感覚を実体験するのも良かったけど……ふッふッふ! さすがはワタシ、可愛い声で鳴くわね。完璧だこと!」

「うぅ〜〜……もう、お婿に行けない……」

「あら? 今は『お嫁』ではなくって?」

「どうでもいいよ! そんなことは!? もう!!」



 珍しくカイルは憤った。それだけのことを彼女はしてしまったのだ。



「悪かったわね。私の探究に付き合わせて」

「エリスの謝罪は珍しいけど! 僕は今日のこと絶対に許さないからぁあ!!」

「じゃあ〜責任……取らないとかしらね?」

「……えッ!?」



 しかしエリスの一言を聞いたカイルは一瞬にして固まった。彼女の表情を見ると、ニカッと笑っていた。今はカイルの姿だった彼女だが……この時ばかりは、実際に普段の女の子であるエリスがそこで笑っているかのように錯覚して見えてしまった。



「冗談よ。ふふふ……♪」

「——ッ!? むぅぅ……」



 未だかつて……こんな無垢な笑顔をカイルに見せた事があっただろうか?


 残虐非道で狡猾。どこまでも快楽殺戮主義の『魔族』である彼女。


 凡人でお人好し……愚人であった旅商人のカイルは……そんな彼女とただ自分らしく旅路を共にしてきた。


 時に竜に襲われて……


 時に昔お世話になった冒険者と出会い……


 時に聖女と出会い……


 時に帰郷し……


 時に死んで……


 時に身体が入れ替わった。


 そんな奇跡が織りなす可笑しな旅をしてきた2人は……


 この後も何故か一緒に打算的な旅をするのだろう。





 だがしかし……






「カイル……アナタ、まったく役に立たないわね」

「あはは……捕まっちゃった。どうしよう?」



 あれから数日後——


 想も変わらず身体が入れ替わったままだった2人は聖騎士によって捕まってしまった。


 どうやら、2人の旅路は退屈を知らないらしい。


 前途多難な旅は続く。











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