第97話 ワタシは人間観察がしたい
実際、目の前に見るカイルとは、中身はエリスである。
カイルはベットに寝かされ馬乗りになられた状態で顔を覗き込まれている。顔の両サイドには手を突かれていて逃げ出す事が叶わない状況だ。
「な、何してるのエリス? い、イタズラかな? あはは……僕、エリスの身体だっていうのに、簡単に倒されちゃって……な、情けないよなぁ……。あっはは……はぁ……エリス? 本当にどうしちゃったの?」
カイルはおちゃらけて反応することで気を逸らそうとする。
だけれどエリスは面妖な微笑みを顔に貼り付けて沈黙としていた。
その反応に嫌な予感を覚える。
「ねぇ〜カイル。ワタシ……人間を観察したいって言ったわよね?」
「う、うん……そ、そうだね……」
「それでね。前にもアナタを誘ったけれど……結局、有耶無耶にされちゃったことを、今試したくて……ね?」
「……な、何をする気?!」
「人間の交わりって……どうなのかなって?」
「——ッ!?」
その予感は的中する。ようやく沈黙を破ったかと思えば、恐ろしい提案が彼女の口から言い放たれてしまった。
「ど、ど、ど、どうって?!」
「せっかく人間の身体を得たんですもの〜〜試してみないとね? 魔族である状態との違いは今しか分からないし。それにオスの身体は——どう反応するのかしら〜〜?」
「ちょ、ちょっと待った! エリス!? そ、それはダメだって!!??」
「え〜〜? どうして?」
「だって僕のこの身体はエリスで……そ、そんな……ま、ま、ま、交わるだなんて!? ダメでしょう?!」
「ああ〜〜身体を傷物にする負い目を感じてるの?」
「——ッ!? そう!! この身体は大切にしないと……ね!? エリスに返した時に……ほら! も、も、も、申し訳……な、な、な、ないからさぁあ!?」
「なら大丈夫。言ったでしょう? その身体はワタシのモノだもの。どうしようがワタシの勝手よ」
「——エリスぅう!?」
カイルの瞳孔は渦巻、必死に弁解するも……彼女の中に「やめる」との文字は存在しない様だ。
「抵抗はしない方が身の為よ? アナタはワタシの身体をまともに制御できていない。それに加え、ワタシはカイル……アナタの貧弱極まりない身体となってしまっている。もしかすると……抵抗した反動で、この身体がグチャグチャのミンチになってしまうかもしれないわね〜〜?」
「——ッ!?」
「さて……どうしましょう?」
「——エリスッ!? ま、まさか僕の身体を人質に!?」
「なんのことかしらね〜〜うふふ〜〜♪」
「ひ、卑怯だぞぉお!!」
そして、今の状況はエリスの手のひらの上——いくらなんでも、今のカイルでも抵抗は可能だったのだが……エリスは言葉巧みにカイルを翻弄する。
まさか貧弱であるカイルの身体を人質に取るとは……その条件は不安感を彼に植え付けるには十分だった。
「いいじゃない。アナタにとっては良いこと尽くしなんだから?」
「い、い、嫌だ——こ、こ、こんな状況でなんて!?」
「もう、諦めなさい。だって、このワタシが所望してるんですもの?」
「——ッ!?」
魔王であるワタシが止めたりするはずがない——そう、カイルの脳裏にこだました。
すると、エリスは舌舐めずりを1つする。その姿を見た瞬間からカイルの記憶は途切れてしまった。
「——い、いやぁぁぁあああッッッ!!??」
それは可愛らしい悲鳴と共に……宿部屋の天井に引っ張られて消え行くようだ。
〜〜翌日〜〜
「——ッハ!?」
スズメの囀る声に覚醒を促され……カイルはバッと目を開く。