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第96話 意外と『面白い』?

「でもエリスは……どうしてそんなに落ち着いていられるの?」

「……? なに藪から棒に……カイルは何が言いたいの?」



 ふと、カイルは気になった。



「いや、だって……僕はエリスと身体が入れ替わって凄く動揺してるのに、エリスは平気そうにしてるから……」

「ワタシだって困ってるわよ? ただね、慌てたって仕方ないでしょう?」

「まぁ……慌てたエリスなんて想像もつかないけどさ」



 入れ替わり現象に酷く動揺しているのに……エリスはというと、毒舌だったり、目付きが悪かったり、宿のベットでゴロゴロしたり、やってることはいつもの彼女そのものの行動だった。

 それは、現状に一切の動揺もせず受け入れているかのように自然を身に纏っているかのようだ。だが、この自然こそが、一番の不自然に見えてしまったカイルは思わずエリスに問うたのだ。



「ただ少し……『面白い』と思ってしまっているわね」

「お、面白い? エリスがそんな風に思ってるなんて……不思議だね」

「前にも言ったことあったでしょう? 魔族は『知識』に飢えた生き物だって……」

「う、うん……」

「本当に覚えているの? 少し間があったのだけれど……」

「お、覚えていたよ?! 本当だよ!」

「ふ〜〜ん……まぁいいわ」



 しかし、そこで彼女が口にしたのは「面白い」の一言だった。確かに置かれた状況は摩訶不思議で味わった事のない経験には変わりないが……あの魔族がただの人間に成り下がった現状をどうして「面白い」などとポジティブに捉えられるのかがカイルには不思議でしかなかった。



「人間とは、淘汰すべき下等な生き物だけれど……我々魔族にとっては観察対象でもある。人間社会に溶け込んで触れてみるのでもいいけど……まさか、人間自身にすげ変わって観察できる機会なんてそうそうないでしょう?」

「“そうそうない”って言うより、魔族としては世界的に見ても初めてのことじゃないの?」

「そうかもしれないわね。だから、この機会に存分に研究したいと思ってるのよ」

「け、研究って……」



 だがそれは、どこまでも自身の欲求を満たすことからくる余裕であった。魔族とは知識に飢えている——そんな彼女が世界で初、人間という存在となれたのだ。彼女の「面白い」は探究心からくる高揚感であり精神安定にも一役買っていた。



「一体、何をするつもり?!」

「な〜〜に、ちょっとイジって構造を把握して魔改造を施すだけね」

「ま、魔改造?!」



 ここで不安なのがカイルだ。エリスが平然としていられるのは彼に取っては喜ばしい事だが、自分の身体が研究材料として勝手に使われているのは面白くない。



「ナニ? 文句でもあるの?」

「大いにあるよ! ぼ、僕の身体は大丈夫なんだよね!?」

「…………」

「なんとか言ってよ! エリス!!」



 子供のように胸を躍らせたエリスとは、カイルにとっては恐怖の対象だ。自分の身体がイジくり回され、どんな改造が施されてるのかを想像するととても恐ろしかった。



「安心なさい。ワタシだって死にたくないの、スペック向上はしても性能が落ちたり死ぬことはないと保証するわ」

「本当に? これ……元に戻った時に人間のままだと言えるの?」

「いい。大切なのは心の持ち様よ。アナタが自分は人間だと思えば人間なのよ」

「それって、思わなければ人間じゃないってことでしょう?!」

「人間じゃなくて……パーフェクトヒューマンになってるかもね。ふふふ……」

「——笑い事じゃなぁーーーい!!」



 エリスが笑う時は碌なことはない。そんなことは分かりきっていたが、これは彼女と出会ってから多々ある不幸の中でも最も恐ろしい事態ではなかろうか?


 そう……カイルは確信した。



「まったく! エリスは、いつもいつもぉお!」

「ねぇ〜カイル?」

「……ん?」



 その時——カイルは、ふとエリスに名前を呼ばれる。

 視線を向けると、微笑みながら右手をコチラに突き出していた。それはまるで握手を求められているかの様だ。

 カイルは頭に疑問符を貼り付け首を傾げたが、とりあえずエリスの手を受け取った。


 すると……



「——うわッ!?」



 勢い良く手を引かれた。


 カイルは突然の出来事に身体のバランスを奪われてベットへと倒れ込む。

 本来なら魔族の身体が凡庸ぼんようである人間に力で負けることはない。

 だが、カイルは身体が入れ替わる以前から運動神経は一般人以下で、自分で走ろうモノなら一瞬で息を切らすほどの運動音痴であった。

 例え、身体しんたいが優れた能力を所持していようとも使用者が使いこなせなくては意味もない。

 カイルが倒れ込んでしまったのも、不意を突かれ予測もしていないところから身体の重心をズラされたのが原因だった。


 そして……



「……え、えりす?」



 驚いて反射的に閉じた瞼を開くと自分の顔がすぐそこにあった。







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