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第94話 使いたくても使えない

「ところで僕たちのこれって……元に戻れるのかな?」

「知らないわよ。身体が入れ替わるなんて聞いたことないもの」

「そうか、エリスでもかぁ……」



 奇跡的な蘇生を果たしたまではいい。

 しかし……改めて置かれた状況を考えると、その問題に悩まされる。

 カイルは改めて自分の身体を確認する。今の格好は女の子の服装だ。胸はそこまで大きくはないが確かに女の子であるのだ。心なしかいつもより目線は低い。



「……ッ?!」



 ふと、服の破けた部分に目が止まった。勇者に刺された腹の破れ跡——幼女のおへそが見えてしまっている。今や腹の傷は消えてしまっているが、そこには白い肌が堂々と露わになっていた。

 つい、カイルは照れて目線を他所へと向ける。

 改めて痛感させられる。女の子の身体に成り代わってしまった事実を——



「本当に遺憾だけれど。ここは我慢しましょう。早急に戻る方法をさがさないと……」

「遺憾? そ、そこまで言わなくても……いいじゃないかよぉ……」

「嫌よ。この身体——抵スペックにも程があるもの……」

「て、抵スペック……」



 ただ、そんな『照れ』は一瞬にして払拭される。エリスの吐き捨てた『毒』によって。

 しかし、カイルが低スペックだという事実は否定できない。そのもどかしさがより彼の心を傷つけるのだ。



「——っは?! でもつまり、僕がエリスの身体ってことは……どうやって戦えばいいんだ? 魔物が襲って来たらどうしよう!?」

「……ん。そんなのアナタが戦うしかないでしょう?」

「……え?!」

「……え?」



 見つめ合う2人——


 今までの旅路——護衛を担ってたのはエリスだった。しかし、今はカイルがエリスの姿となってしまっている。

 つまり、必然的にカイルが戦闘を余儀なくされるということ。カイルの姿になってしまったエリスに戦わせるわけにはいかないだろう。



「あ。でも……エリスの身体ってことは魔法が使えるってことなのかな?」

「それはそうでしょう? 私の身体だもの。一流の魔法が使えるわよ」

「本当!? 使ってみたい!」

「…………」

「なに?」

「すっかりはしゃいじゃって……今のアナタはオモチャを与えられた子供のようね」

「……ナッ!?」



 だが「戦い」と聞いて逡巡したカイルだが……エリスに憑依してということは「魔法が使えるのでは?!」と思い至ってワクワクしてしまった。

 その姿がエリスの尺に触れた。『毒』を吐くには十分すぎる。



「良いじゃん! 僕って才能無くて魔法の類が使えないんだもん! こんな時ぐらいワクワクしても良いじゃん!」

「ハン! だから子供なのよ」

「——はッ!? また子供って言った!!」

「何度だって言うわよ。呆れた。だけど……1つ朗報よ」

「……?」

「アナタのその期待は裏切らないから」

「……ッ!? え、エリス……か、かっこいい……」

「当然。私ですもの」



 今はカイルの小さな夢を叶えられる一筋の希望が見えた。

 『毒』を吐いていながらも彼女の能力は折り紙付きだった。

 


「それじゃあ! 早速! 試し打ち!」



 すかさずカイルは腕を突き出した。すらっと伸びた細くて白い腕を揚々とピンッとして指先に力を集中させる。


 だが……



「フンッ!」

「…………」

「ほッ!!」

「……ちょっとカイル?」

「やぁあ!」

「なにやってるの? (魔法を)出すなら早くやりなさい」

「あのぉ……エリス?」

「……? どうしたの?」

「魔法……でません」

「……は?」



 カイルのエナジーはピクリとも反応しなかった。



「出せないって……アナタ……」

「いや! だってやったことないからわからないんだもん!?」

「分からないって言われても……魔族は生まれながらにして魔法は使えるのよ? 自身の内にある力は分かるでしょう?」

「モヤモヤっとした漠然としたモノは感じるけど……出し方が分からない!」

「あのねぇ……今のアナタは魔族なの! それも最高峰の魔王の身体よ! それを……」

「そんなこと言われたってぇ〜〜え!」





 〜〜30分後〜〜





「うぅ……だしぇないぃ……グスン……」

「……ッチ。情けない」

「うぅ……くそぉ……」



 地面に手を付き啜り泣くカイルがそこにいた。



 結局——彼は魔法を出せなかった。エリスは「魔法はイメージ!」だと説明はしたのだが……そんな漠然とした解説ではこれっぽっちも『魔法を使う』想像がつかず、カイルの魔法が火を吹くことはなかった。



「なんで……だせないのぉ……」

「ふむ。全盛期の私じゃないからかもね。内に潜む魔力が少ないのも原因でしょう。扱うにしても難易度が高いのかもしれないわ。ただ、それでも一般の人間より遥かに総魔力量は多いから簡単な魔法ぐらい息をするように扱えても不思議じゃないのだけれど……」

「つまり……どういうこと?」

「圧倒的感覚のセンスがないだけね」

「そ、そんなぁ……」



 カイルが例え魔王の身体を有していても宝の持ち腐れ。その力を使うイメージができない限り、決して魔法が発動することがない。



「これに関しては特訓しかない。精進しなさい」

「はぁぁ……」

「私の身体でお粗末な態度を取られると尺に触る。早く十全に扱えるようにしなさい。いいわね」

「うぅ……はい……」



 そしてエリスに説教を浴びせられながらも、カイルは泣く泣く返事をして立ち上がった。


 その時だ——



「まったく……魔法なんてそんなに難しいものじゃないんだけれど……」

「……え? え、エリス?」



 エリスは人差し指を立てると、その先に火を灯して見せた。蝋燭の先に小さく揺れる程の灯火のような火だ。



「な、な、な、なんで——!?」



 これに酷くカイルは動揺した。それもそのはずだ。



「僕って魔法が使えたの?!」



 中身はエリスかもしれないが、側から見ればカイルが魔法の火を灯しているように見えるのだ。



「1箇所に収束する様にしたのよ。それでも足りない魔力を体外から集めて無理やり発動してるわ」

「そ、そんな芸当が? 僕の身体でできたのか?!」

「だから、私だからこそできたって言ってるでしょう? 凡人がこんなことすれば魔力回路経由で脳が壊れて廃人になるし、一歩間違えば魔法が弾けて身体はボンッと消し飛んじゃうわよ?」

「——ッ僕の身体で何してるのエリスぅうッッッ!!??」



 だが、彼女の放った小さな灯火は幾つもの危険と隣り合わせからなる神業のようなものだった。



「安心なさい。私なら万が一にも失敗はないから」

「それならいいけど……エリスになってまで魔法を扱えない僕って……今のエリスの足元にも及ばないんじゃぁ……」

「うん。否定はしないわ。さすが私」

「否定しないのかよ!」

「それでも、この身体では高威力の魔法は発動させられない。身体能力に関してはてんでだめね」

「——ッ!? 身体能力!」



 ただその時——エリスの一言に一筋の希望を見いだしていた。



「魔法は駄目でも驚異的な力はあるってこと?!」

「……ッえ? それは、まぁ……魔力で活性化されているから凡人とは比べるまでもない力は発揮するでしょうけど……」

「よし! それなら……」

「……ッ!? ちょっと、カイル待ちなさ……」



 そして、カイルはその希望を掴むべく藁にも縋る思いで身構えた。



「——ッドン!」



 足に思いっきり力を込めて、駆け出した。エリスの身体を使って身体能力を確認しようとしたのだ。


 だけれど——



 ——ドゴォォォオオン!!!!



 エリスの静止を振り切って駆け出したカイルだったが、次の瞬間には予想を遥かに超えた速度に翻弄されて、気づくと木の幹に体当たりして静止していた。



「うぅぅ……いたぁ~〜いぃ……目が回りゅぅ〜〜……」

「はぁぁ……カイル。アナタねぇ……」



 ここは木々の生い茂る林中——カイルの思考はエリスの身体能力に順応できなかったのだ。

 思いも寄らない超加速は止まる隙も無く木に激突した。

 エリスはそんな情けないカイルに、酷く動揺し呆れてため息を吐いていた。


 生き返って、身体が入れ替わった魔族と人間——


 2人の織りなす今後の旅路は不安感だけが募る。






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