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第92話 僕はとっくに……

 そもそも、僕はどうして魔族を助けたんだ?



 一眼見た時から分かっていた。彼女が魔族だって事は……



 昔から母さんには魔族の恐ろしさは耳にタコができるほど聞かされていた。



 エリスを見た瞬間から恐怖を感じてた。これは本当さ。



 でも……疑問は帰結する。最初のトイに戻るんだ。



 なんで……エリスを助けたんだ?

 


 いや……もう、分かってるんだろう? 



 カイル……



 君は……



 銀髪の彼女を見たあの瞬間。


 

 魔族だと気づく一歩手前から……



 彼女に……⬜︎⬜︎……したんだろう?



 いい加減認めれば良いのに……



 お前はそんなにも……



 愚人——だったのか?



 










「起きなさい!」

「——ッ!?」



 暗闇の中——彼は夢を見ていた気がしていた。自問自答するような長いようで短い夢。

 だけど……その中で唐突に伝わる頬への刺激はカイルの意識を覚醒させるのに十分だった。



「起きろって!」



 誰かが頬を叩いている。鈍い痛みが伝わってくる。


 痛み——そう、痛みを感じているんだ。


 幽体離脱にも似た経験をしたあの瞬間……あそこで出会った少年が語った内容が真実だったのなら、痛みを感じると言う事はカイルは世に舞い戻ったと言うことか?

 であるなら、頬を叩いて覚醒を促すのは……きっと……









『1つ……お願いを聞いてもらえますか?』


『なんだろう? 僕にできる事なら叶えてやらんこともない。言ってごらん?』


『彼女を生き返らせてもらえませんか?』


『君の言う彼女とは……』


『エリスのことです。一緒に生き返らせてくれなんて言いません。僕に生き返る権利があるんだったら……彼女にその権利を……』


『ふむ……理由を聞いても?』


『えっと……彼女に……生きていてもらいたいから?』


『それは……なんでだい?』


『え?! えっとぉ……』


『君は……どうして魔族を助けたいんだい?』


『僕は……』









 どうして……






 エリスを助けたいんだろう?






 ああ……そうか……






 僕はとっくに……






 彼女のことが……








 



 頬を叩かれると同時に聴き馴染みの声が聞こえる。意識は朧げで……はっきりと音は拾えていない。

 

 それでも……


 目の前に誰がいるかなんて分かりきっている。



「……エリス?」



 カイルはその答えを呟くとゆっくりと瞼を持ち上げる。カイルの目は少しずつ光を取り込んだ。

 すぐには視界が回復しない。これは死んだ弊害なのだろうか? 

 だけれど……ボンヤリだった視界はゆっくりとした時間経過とともにはっきりと鮮明さを取り戻した。



「……え? 僕……?」



 だけど、カイルの目にはとても不思議な姿が写っていたんだ。

 何故か目の前にカイルの姿があったのだ。そこには1枚の鏡でも置いてあるかのように、コチラを覗き込んできている。

 


「はぁぁ……やっと起きたの? 遅いったらないわね」



 しばらく方針して自分の顔を覗き込んでいれば、目の前のカイルが口を開いた。

 軽蔑するような鋭い視線を向けて、彼の口調にもトゲトゲとした印象がある。

 まるで自分以外の誰かが身体を操っているかのようだ。



「——ッえ!? どういうこと——ッ!! イッタァあッ!!」

「——ウグッ!?」



 カイルは驚いて上体を起こした。己の見えてる景色が不自然で奇妙だったのが驚愕だったのだろう。

 あまりにも勢い良く飛び起きるモノだから、ひたいを目の前に見える自分の顔にぶつけた。すると、互いに痛がり口からは悲鳴がこぼしてしまう。


 だが……この時、不思議な体験をする。


 鏡にでも写っているかのような目の前の自分が——なんと衝撃を受けているのだ。

 ただでさえ鋭利に研ぎ澄ませた視線をさらに細く恨むようにこちらを睨み、今にも頭突きの恨み言を言い聞かせようとするかのような様子を見せている。


 まるで……カイル自身が別の誰か視線を疑似体験しているそんな感覚だ。


 しかし、それ以前……もっと不可思議なことがある。



「……ッえ? ッえ!? ぼ、僕の声——どうなっちゃってるの?! えッ!!??」



 カイルの発した悲鳴がどう考えても甲高いのである。


 これでは……まるで女の子のような……



「ようやく状況に気づいたようね? あなた……カイルでしょう?」

「……どういうこと? なんで僕が……? 僕はカイルで……目の前に僕で……目の前の僕が僕のことをカイルだと言って……でも僕の声がまるで女の子みたいで……え?」

「——ッチ! まだ分かりきってない」



 理解がカイルに追いついてこない。


 目の前には自分がいる。鏡で見たいつもの自分の印象からはかけ離れた目つきの悪いカイル(?)が……

 そして、目の前のカイル(?)はコチラのことをカイルだと分かっているような口ぶりだ。

 しかし、当の自分はまるで自分自身ではないような感覚が襲っていた。


 それは自分の発した声音が証明となる。


 そんな惚けたカイルにカイル(?)は舌を打って明らかにイラつきを見せた。


 そして……



「アナタはカイルなら。この私はエリスよ」

「……は? 何を言って……」

「私たち、入れ替わってるの」

「……はあッ?!」



 ようやく、状況が思考と合致する。


 カイルは……エリスに……


 エリスは……カイルに……


 互いの身体が入れ替わる。


 死んで目覚めたら可笑しな状況に陥っていたのだ。





 









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