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第91話 魔族と織りなす軌跡

「い、生き返る?」

「あぁ……僕にはそれができる。どうだい? もう一度『生』を受けてみる気はない?」



 荒唐無稽が過ぎた。

 

 目の前の少年の口にした言葉を素直に信用ができない。

 生き返る——なんて、そんなことが可能なのか? 

 聞き間違いではないのかと気付けば自ずと聞き返してしまっていた。


 だが……だとするとだ……


 目の前の少年は一体何者だ?


 いや、その答えは薄々と分かってるつもりだった。なら……彼の言葉にも信憑性はあるのだろうか。だとしても……例え、そうだと飲み込んだとしても『生き返る』なんて話は今まで生きてきた上で聞いた事はなかった。

 そんな事はフィクションの物語での絵空事でしかない。

 幼少期——カイルは母から子供の絵本を読んでもらった。まるで、その中で登場しそうな陳腐な絵空事。

 なら……己がそんな絵本の登場人物にでもなるのかと……そんな自身の過去に準えて少年を見つめていた。だが、その間一度たりとも少年の言葉を信用はしてはいなかった。おそらく、瞳は狐疑的に濡れていたのだろう。実際鏡を見たわけではなかったが、そんな気がした。

 だけど、少年を信用していなかった事は分かっている。



「不思議な顔してるね。まったく信用してないね」

「……え?! あ、いや……」



 だが、少年には考えていることがバレてしまっていた。

 ま、それもそうだろう。カイル自身、表情に出てしまっていることなんてとっくに気づいているのだから……。

 いや……そもそも彼は思考を読むことなんて造作もないのかもしれない。



「そ、それが出来るとして——なんで僕なんかを……? 僕は生きてて『生き返る』なんて荒唐無稽な話は聞いたことがなかった。そんな凄いことが起こった事実があれば……いや、あったのなら——噂になったり叙事詩に記載があるんじゃないですか? なのに、それがないって事は異例も異例って事でしょう? な、なんでただの凡人である僕なんかが?!」



 ただ……信用はしていなくてもカイルの推測が真実だとすれば、目の前の少年がやろうとしてる事は異例な事だ。そんな話題は生前に聞いたこともない。

 今、自分が置かれている幽体離脱にも似た経験もそうだが、どうしてカイルが選ばれたのか。そこが不思議でたまらない。信じきれないのもそこが関与しているのだ。



「僕なんか……か。ふふふ……君だからだよ」

「……は?」

「さっきも言ったろ? 君は報われるべきだって……」

「だから……それがなんだって?」



 カイルは理解できない。

 自分は愚かだったから死んだ。なぜそんな自分が報われなくてはいけないのか?


 只人の旅商人がなぜ——

 


「僕は感動したんだよ君の辿った軌跡にさ」

「僕の……軌跡?」



 軌跡——それはカイルの歩んだ人生だ。そこに、その答えが見え隠れする。



「今世紀の勇者が言っていただろう? 君は奇跡を起こしたって?」

「勇者? カムイさんのことですか? えぇ……確かに、そんなことを言っていたと思います」

「時に君は……魔族の正体って知ってるかい?」

「えっと……魔力の塊?」

「そうさ。正確には魔神の残留思念だと言っておこうか」

「ましんの……しねん?」

「そう。何百年も昔——この世界は魔神によって崩壊の一歩手前までいっていた。ま、これは僕が殺して、その立場に僕が末変わったんだけど……」

「もしかして……とんでもないこと聞かされてます?」

「いや、ただの歴史の勉強さ。あまり身構えることはないよ」

「…………」



 かと思えば歴史の授業——軌跡を辿るにしても回りくどい。



「で、話は戻るけど——魔神は倒された。けど魔神の影響ってのは完全に無くなったわけではない。霧散した残滓が空気中に漂う魔力を吸収し形を形成することがある」

「それが……魔族だと?」

「……お? 分かってるじゃないか! カイル君。君は思ったより賢いんだね」

「お、思ったよりって……こ、これでも商人ですからね。少しは賢いと自負してます」

「へへ……怒った?」

「お、怒ってはいません……」

「ま、そういうことにしておこう」



 心に燻る小さな怒り。


 それは自分に対して? 


 それとも少年に対して? 


 その両方か——もしくは両方とも違う。



「ふふふ……君の心は正直だな」

「……はあ?」



 それは……神のみぞ知る。


 カイル自身にも己の気持ちはよく分かってない。



「ま、言ってしまえば魔族とは魔神の影だ。魔族の残虐非道性はここからくる。だけど……カイル。君はどうだ。魔族を助け、魔族と旅をし、魔族に庇われた。結局、君は死んじゃったけど……今注目するのはそこじゃない。魔族ってのは魔神の影——つまりは魔神と同じだと思ってもらって構わない。そんな彼女の心をここまで動かしたんだ。これは奇跡と言わずしてなんと言えばいいんだ?」

「…………」



 彼女の出会いはたまたまだった。

 後になって酷く後悔したが、単に己の赴くままに彼女と接していただけだ。

 何も特殊な事はしていない。

 カイル自身も奇跡を起こしただなんて、これっぽっちも実感していないし、それを誇るつもりもない。


 ただ……彼女と旅をしたかっただけ。


 それだけだったんだ。



「1つ……お願いを聞いてもらえますか?」

「……? なんだろう? 僕にできる事なら叶えてやらんこともない。言ってごらん?」



 だから、カイルは生き返ることよりも叶えてもらいたい願いがあるのだ……。

 









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