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第80話 『剣姫』が『村娘』になった日

 私にとってあの人との出会いは偶然だった。



『——ッ!? ちょっとお嬢さん! 大丈夫か!!』



 森の中での突然の出会い。


 木の幹に血塗れてもたれこんだ私の耳に不意に声が聞こえたの。


 生まれてから今まで『運命』なんて信じたことはないのだけれど……この瞬間の出会いは叙事詩で語られる『運命』と大差ないんだって、後になって気付かされた。


 私は格式の高い家柄で育った。武芸に精通し、騎士を多く排出する名家。

 私は女でありながらも魔力の扱いに優れていたことから幼少期から剣の扱いを叩き込まれた。魔力で筋力を強化し、身の丈以上の武器を巧みに操る類稀なる才能を発揮して誰にも負けない騎士となったの。

 お兄ちゃんほどではなかったのだけれど、【剣姫】なんて呼ばれるようになって……気づけば戦場で魔族と戦う日々を送ってた。


 この日は、1人で遠出していた。眉唾物の噂を耳にして居るからどうかもわからない魔族を追った。

 別に居ないなら居ないでよかったの。噂は単なる噂でしかなかった——それが証明されるんだから……。魔族なんて居ないに越したことはないでしょう?


 でも……


 噂は事実だった。それも最上位の魔族。まさか魔王級が出てくるとは思ってもいなかった。

 

 魔族はなんとか倒せたわ。


 魔王と相対したことのあるお兄ちゃんの話を聞いていたおかげだった。あとは相性……たまたま私の方が有利だったから勝てた。


 今更だけど……これも『運』がよかったからなんでしょうね。


 ただ、勝敗は『勝った』と言っていいモノなのか……正直分からない。ほとんど相打ちで私は重症を負っていた。


 このままだと『死ぬ』——


 そんな言葉まで私の思考にはあったほど。


 そんな時——


 彼にあったの。

 


『……あん? こ、ここは……?』

『ここは……えっと……どこだろうな?』

『オマエ……馬鹿にしてるのか?』

『いや〜名前もない村の外れの森の中だからさ』

『はぁ……最悪だ。そんな辺鄙な地まできて……この体たらく……ッグ!?』

『おいおい! 大丈夫か?』



 声に反応して目を開けると、すぐ目の前に心配そうに様子を伺う男性の顔。


 私の質問にヘラヘラと反応するは……。


 大丈夫かって聞いてくるは……。


 この時の私は血塗れだったと思うんだけど……どこを見て大丈夫だと思っているんだか?



『触るな……放っておいてくれ……』

『放っておけるわけがないだろう? こんな()()を!?』

『はぁあ? 俺は……子供……じゃ……な、い……』

『——ッ!? オイッ!!』

『……ッ』



 おまけに子供扱い?!

 私は所持魔力が膨大だからなのか分からないけど、代わりに身体の成長は遅くて小さかった。だから口調も男勝りにして馬鹿にされないようにしてたんだけれど……。弱った私は単なる女の子ってことだったの? 

 体裁を整えようとしたけど……そのまま彼の腕に抱えられて気絶しちゃった。


 で、気づくと……ベットの上……


 包帯を全身ぐるぐる巻きにされて……これって本当に意味あるの? って状態だった。


 それと……


 私、服とか脱がされて、身体も綺麗にされてたんだけど……あれ? 父さんったらもしかして……え? あの人が脱がせたのかしら?! 


 どうなのこれ!!??


 それで問い詰めたら、また子供扱い。なんで助けたのか聞いたら死にかけた女の子を森に置いて来れなかったとまた子供扱い。

 彼は私なんて助ける義理もないのに……ましてや、いつまでもここに居ていいと言って、部屋を用意してくれて食事も出してくれて……本当に馬鹿みたいにお人好しな人。


 それでも助けてくれたことは感謝してるのよ? 


 頃合いを見て彼の元から出ていくつもりでいた。折を見てまたこの村を訪れて謝礼を残せばそれで十分だと思ってた。

 私は…女でも子供でもない……騎士なの……男なんてどうとも思ってなかった。


 けど……


 まさか……居心地が良くなっちゃって……ましてや彼の妻になるなんて……


 思いもしてなかった。


 いつのまにか『俺』である自分はすっかりと『私』となってしまった。剣姫は単なる村娘となったの。

 私の愛刀は町外れに突き出して、たまに眺めるだけ……もしかしたら、殺伐とした生活に疲れてしまったのかも?


 まぁ……理由は今でも分からないまま。


 実家とは連絡もとっていない。

 結局、命は助かっても剣姫である私は……彼と会った瞬間には死んでしまったんだわ。


 ただ……彼を愛し……息子を愛し……この村を愛した村娘カミーユとなっただけ。


 後悔はしてない。


 だって……この選択をした私はとっても幸せなんだもん。


 



 


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