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第69話 2人きりは心配

「それじゃ〜〜今日の夕飯の支度があるから……エリスちゃん? ちょっと私の手伝いをしてくれるかしら?」

「……ッ。はい。お母様」



 母による息子の説教が終わると、カミーユはエプロンをつけつつエリスを呼びつける。

 外はすっかりと暗くなり始め、そろそろ夕食ゆうげの支度時であるからか、母はその準備を始めたのだ。



「ちょっと! か、母さん。エリスは……!?」

「ん? なに〜〜エリスちゃんに手伝ってもらったらまずいことでもあるの?」

「えっと……そういうんじゃなくて。……な、長旅で疲れてるだろうからさ……そのぉ〜……」



 ここで、カイルはドキッとして母であるカミーユに待ったをかけた。

 エリスは魔族——カイルは、彼女が母親と2人きりになるのを不安に思ったのだ。



「何甘いこと言ってるのカイルちゃん! 我が家の家訓は、『どんな時でも旦那様の胃袋を掴みましょう!』なの。エリスちゃんにもこれはし〜かり守ってもらわないと〜〜!」



 そんな不安を抱える息子に、カミーユは無い胸を張ってドッシリと言い切った。



「そんな家訓、初耳なんだけど……」

「はっはっは〜〜カイル安心なさい。父さんも聞いた事がないからな」



 カイルは母の突飛なこじつけに呆れ、そんな息子を父が笑う。これがカイル家の日常風景なのであろう。



「大丈夫よ。カイル、私は問題ないわ」

「え、エリス?!」



 だが、そんなカイルにエリスは笑顔でこれを言う。いつも面倒を嫌う彼女とは思えない反応だ。カイルに動揺が走る。

 そして、カイルの横を通りすぎてキッチンへと向かう際——



「安心なさい。手は出さないから……上手くやるわ」

「——ッ!?」



 と、カイルだけに聞こえる声量でエリスはつぶやいた。



「ま〜ま〜カイル。ここは2人に任せてみよう」

「と、父さん……」

「母さんも女同士の積もる話もあるんだろう? こう言うのは黙って察して、見守るのが男の勤めだ。見守ろう」

「でも……」



 キッチンに消えて行く母とエリスを見つめ、不安を払拭できずにいた息子に父はもっともらしい発言を投げかける。



「まぁ〜カイル。こうして会うのも久しぶりなんだ、父さんと酌でもかわそうじゃないか!」

「父さん……僕酒飲めないんだけど……」

「奇遇だ……父さんも飲めん」

「…………」

「そんな顔するなカイル。ちょっとしたジョークだ。酒の代わりに、お前の旅の話でも聞かせてくれよ」

「うん……わかったよ……」



 たた不安はあれど、エリスは小声で「安心しろ」と伝えていった。普段、説明も無しに行動に移す彼女がだ。

 カイルは一旦はこれを信じることにした。あまり、騒ぐたててしまえば、周りは彼女の正体に気づくこともあるかもしれない。

 不干渉——これが、今のカイルにできる最善なのだから。


 カイルが気を切り替え、椅子に腰を落として仕方なく思案をする。さてどの話をしようかと……。


 だが、その時——



「——イヤァ〜〜!」


「「——ッ!!??」」



 突然悲鳴が聞こえた。キッチンの方からだ。


 これは……



「「——母さん!?」」



 母、カミーユのものである。



「——ど、どうしたんだ! 母さん!?」



 カイルは声を荒げて飛び出す。急いでキッチンへと向かう。

 この時、悪い予感が的中したような不安が彼を支配する。

 エリスは、上手くやると言っていたが、こんなにも早く問題を起こしてしまうとは……予想の斜め上をいくにも程があるというもの。

 落胆する思いもありつつ、慌ててカイルは現場へと駆けつける。


 すると……そこには……



「え、エリスちゃん? だ、大丈夫?」

「…………」



 心配する母と、頭から水を被ってずぶ濡れなエリスの姿があった。



「えっと……なにがあったの?」

「……ッあ。カイルちゃん……実は……」



 なんでも、料理中……エリスは渡された役目の全てにおいて満足な結果を出せなかったのだそう。

 フライパンを任せれば食材を焦がし、食材を斬らせれば、まな板ごと両断する。

 挙句、仕方がないと思って洗い物を任せれば、泡と水を被る結果となった。


 とのこと……



「…………」

「……え、エリス?」



 そして、ずぶ濡れのエリスは暗い顔で俯いている。今まででこんな彼女をカイルは見たことがなかった。


 

「ワタシ……今まで、挫折というものを味わったことがなかったの」

「……え?」



 しばらく、カイルが彼女の顔を覗き込んでいると、突然エリスは語りだす。



「なんでもそつなくこなせるのよ……私。知識だってあって、魔法だってなんのそのだったの。だけど……まさか料理がこれほどまで難儀なものだったんて……」

「えっと〜〜……」

「知識は当然ある。だけど、まったく上手くはいかない……なんでなの……」



 珍しく落ち込むエリス。カイルはなんて声をかけていいかわからない。


 と、その時——



「カイルちゃん!」

「か、母さん?!」



 カミーユがカイルの背をポンポンと叩く。



「ここは、背後からギュ〜っと抱きしめてあげるのよ! いい旦那さんは包容力があってこそなのよ!」

「……え? 今、そんな状況??」



 そんなカイルの背中を母はさらにドンッと押す。それに慌てるカイル。

 今は包容力がどうのとかの状況ではない気がするが。どうもカミーユの頭の中はお花畑であるようだ。



「……エリス?」

「……なに? 笑いたきゃ笑いなさいよ」

「……えっと……ん?」



 何か言わなきゃとカイルは彼女に近づく。


 その時——







 

 









 


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