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第66話 帰郷

「ねぇ〜カイル。日が落ちてきてるのだけれど……まだつかないの? いい加減、森林浴にも飽きたわ」

「もう少しだよエリス。この蔦のトンネルを潜った先が、僕の故郷さ」

「はぁ、お腹が空いたわ。あなたの故郷に着いたら、ご馳走を用意しなさい。死にたくなければ」

「またそれ〜〜エリスは、二言目には殺す殺すって——僕はいつ殺されるんだろう? てか、エリスって、別にご飯食べなくても死なないんじゃなかったけ?」

「…………」

「エリスさ〜〜ん?」

「うるさい。御者に集中しなさい。刻むわよ?」

「はいはい。魔王様の仰せの通り」



 街を出て数時間——カイルの操る馬車は、森の中を突き進んでいた。

 その間——見える景色は樹木や、鬱蒼と生い茂る薮の緑の壁。当然エリスは、飽き飽きとし、ついにはカイルに八つ当たりとばりに文句を口にする。

 カイルはソレにあっけらかんと対応するものの、殺されない程度に馬車を急がす。



「ほら、トンネルが抜けるよ」



 緑が多い尽くす蔦のトンネルを抜ければ、突然——光が馬車全体を包む。

 森の中の一本道だが、沈む太陽の逆光を受けたのだ。各々が顔を顰めながらも、馬車は若干の速度低下を見せ、それでも着実にカイルの帰郷を目指す。


 故郷はすぐそこ——


 そして……



「……着いた」



 太陽が樹木に隠れ、光線が止んだタイミングと同時——突然、森が開ける。


 車輪は動きを止めて、カイルはそこを一望する。

 光に鬱陶しさを覚えていたエリスも、視線をカイルと同じ方向に向け彼の見つめるモノを共有して眺めた。



「ようこそエリス。ここが僕の故郷の村だよ」

「ふ〜ん。そう……」

「まぁ、村の名前すらない超がつくほどの田舎なんだけどね」



 そこは、森の中にぽっかりと空いた広場に、小さな木製の家が広がる。かろうじて村だと認識できる場所だった。

 家を除けば、畑、井戸、あとは家畜を囲う柵の様なものしか見受けられない。控えめに言っても「ド」がつくほどの田舎の村の登場だ。



「エリス。くれぐれも暴れないでよ。大人しくしててね?」

「カイル……あなた、一体私をなんだと思ってるの? 子供扱いとは、いいご身分ね」

「いや……そんなつもりじゃ……。だって、エリスは魔族だし……村を焼いたりとか……しないよね?」

「こんな陳腐な村を壊滅させるほど、私は暇じゃないわよ。それに、焼くのはフレイルの専売特許なの。私の場合は、風で吹き飛ばすか、切り刻むわね」

「……いや。そこ訂正するとこ?」



 せっかくの帰郷をカイルは喜ぶところだが、彼が心配なのは隣の少女。魔族であることがバレる心配もそうだが、彼女が一度暴れれば、こんな小さな村はエリスの腕の一薙ぎで滅んでしまう。

 聖女との邂逅以来——エリスは不思議と残虐性を抑えていたが……それでも忠告ぐらいは吐いて聞かせたい気持ちがあった。


 でも……


 どうせなら、彼女にこの村を気に入ってもらって好いてもらう方がカイルとしては嬉しいのだ。


 と、その時——



「……ん? ——ッぉお!? おまえさんは——カイルじゃないか! お帰りなさい! 元気にしてたかい!!」

「テテおばさん。お久しぶりです」



 馬車に気づき、1人の女性が近づいてきた。カイルに気さくに話しかけてくる。



「本当に久しぶりだね。もっと村に顔見せなさいな。まったく!」

「ごめんなさい。テテおばさん。色々と立て込んじゃって……忙しかったんだ」

「謝るなら、私にじゃなくて、あなたの父さん母さんにだね。ほら、早く行った行った!」

「そうさせてもらいます。……あ! 今日も、いろんな商品、持ち帰ってきたから楽しみにしててね」

「ほう。そうかい……毎度毎度ありがとねカイル!」



 その女性は豪快な印象の人だった。

 テテは、カイルと久しぶりの再会を喜ぶや否や……足早に村への進行を薦める。というのも、彼に家族との再会を果たしてもらいたかったのだ。

 親と子の久しぶりの再会を邪魔するような無粋をテテはしたくなかったのだろう。彼女の行動には納得である。



「……ん? ところで、そっちの子は……」

 


 だが、ようやくここで、テテがカイルの隣の少女の存在に気付いた。



「えっと……この子は……」



 カイルはテテの疑問に答えようと口を開いたのだが……



「——ッ!!?? た、大変だぁ〜〜よぉ〜〜!!!!」

「「——ッ!?」」



 テテは突然叫びを上げる。



「——早く知らせないとぉお!!」



 そして、大慌てで村の中へと走り消えてしまった。



「……え? 何、テテおばさんいきなり叫んで……ん?! まさか、エリスの正体がバレた!? だって、エリス……ちゃんと帽子かぶってるよね??」

「ふふふ……溢れるワタシの気品に気づいてしまったようね。これは仕方のないことよ♪ だって私なんだもの」

「へぇ〜エリスって、そんな冗談を口にすること…………ッ!? 痛い!!」

「うるさい。カイルは黙ってなさい」



 テテの豹変に、カイルに動揺が走る。が、エリスの機転の利いた冗談を聞いて、すぐに我を取り戻す。

 思わずこれにツッコんでしまえば、カイルの後頭部をエリスがスパン——!! と叩き、カイルは悶絶とした。



 そして、僅か2、3分後——



 この村は、それほど小さいのだろう。短い時間でテテはある人物を連れてきた。それは……



「「——カイル!?」」



 2人の人物。幸の薄そうな男性と、町娘のような風貌の若いワンピースの女性。



「……父さん! 母さん!?」



 それは、カイルの父と母だった。カイルが正体を口にして発覚する事実。



「「——()()()()を連れてきたって本当 (か)!?」」


「……え?」



 だが、再会を喜ぶよりも、父と母の2人が口にした単語に……カイルは言葉を失った。


 

 



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