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第58話 偶然の再会はやがて……

 これはちょっと話は戻り……


 聖女と魔王の交渉が無事に交わされた、その日の夕食どきのお話——





「カイル様は私達と食事してたんです。聖女だかなんだか知りませんが、邪魔なのでどっか行っていただけますか〜〜?」


「ふふふ……そんな硬い事言わないでくださいませ、可愛らしい冒険者さん。私はいつも護衛の騎士様としか食事を共にしてませんので——こうした機会はなかなか巡り会えないのです。ご友人と楽しく食事を共にするって憧れだったんですよ〜〜」


「へぇ〜〜立派な騎士様に囲まれて、さぞかし豪華な食事を食べてらっしゃるのでしょうね? え? なんですか〜〜自慢ですか〜〜?」


「いえいえ、そんなつもりではなかったのですが……自慢に聞こえてしまいましたか? あらら? 思い込みが激しいお嬢さんですね。いやや〜〜表現、豊?? まあ〜〜豊富な感受性をお持ちなのですね〜〜? ふふふ……子供らしくて可愛らしい……」


「子供じゃないです〜〜私、冒険者としてしっかり働いてるんです! もう大人です〜〜!」


「気を悪くさせてしまいましたか? ごめんなさい。あまりにも可愛いモノだから……ねぇ? つい……ふふふ……」


「そうですか? 『可愛い』って言葉だけは、素直に貰っておきま〜〜す。ありがとうございま〜〜す! おほほ……」



 とある食事所……丸テーブルに2人の少女が笑顔で向かい合い……睨みを利かせていた。


 そして……



「どういうこと? この空気——凄くピリピリするんだけど……」

「うぅ……かけるッちも? 私……お耳の毛が逆立ってるにゃ……うにゃにゃぁ……」



 その少女達の眼光が卓上で交差する光景を、商人の男と獣人娘が震えて見守っていた。





 と、言うのも……



 何故こうなったのかを説明するには……



 時間は更に20分ほど巻き戻る。





「お待たせしまた。サンドイッチと、フルーツジュースです!」


「あ……ありがとうございます」


「どうぞ! ごゆっくり〜〜♪」



 カイルは、街に出て適当な居酒屋を見つけて食事をとっていた。街の通りまで溢れるように飛び出た丸テーブルに腰を落として、ウェーターが運んで来たサイドイッチにかぶりつく。

 この店を選んだのは、ブラブラと歩いていたら突然の料理の匂いに誘われて、たどり着いたのがここだっただけの話だ。通りまではみ出すテーブルは、そのほとんどを埋め尽くす客を見れば、まず選択して間違いない店だとカイルは確信した。


 そして……



「うん……美味しい……」



 この店を選んで正解だった。それは、不意に呟いてしまったカイルの言葉が証明している。

 店は溢れんばかりに繁盛していると言うのに、それでも提供までの時間はそうはまたなかった。

 サンドイッチはパンがフワフワ、具材もたっぷりと、ほんのりピリリと利かせたマスタードと隠し味のようなビネガーが絶妙においしさを引き立てている。

 これでいて値段も安い。

 この並べたてた店情報を目にしてどこに不満があろうか?

 カイルには文句のつけようがなかった。


 そして補足だが……


 何故、カイルが1人なのかと言うと……エリスは、聖女の泊まる高級宿でルームサービスをたらふく食べて、その後ベットでぐっすりだったため、お留守番である。いくら竜素材の売上があると言ってもエリスの食べっぷりを見て金額を想像してしまえば食欲なんて湧くはずもなく……1人、街に出てきていたのだ。

 相変わらずサンドイッチを口にしているが、これは頼みやすいのと、どうしても貧乏癖がついているのか、カイルはあまり自分にお金を使おうとはしないのであった。



「うん……フルーツジュースも美味しい……」



 だが……それでも当人は満足している。この1人時間は、心の安らぎにも等しく、誰にも邪魔されない。それでいて料理は美味しく、周りが喧騒としているのも平和の証拠であるようで嫌いではなかった。この小さな幸せの詰め合わせである一時を肴に……カイルはゆっくりと食事を口に運ぶのだ。


 と、その時だ——



「うぅ……グスン……カイルしゃまぁ……」

「うにゃ〜〜まだ落ち着かないのかにゃ? シャルルちん?」

「でゃって……しかたにゃいじゃにゃいでしゅか〜〜!」

「はいはい……早く、不義理つけて元気出すにゃ〜〜いこいこ!」


「……ん?」



 カイルは不意に名前を呼ばれた気がした。それはちょうど通りの方だ。思わず首は通りの方を確認するために動かす。


 すると……



「……うにゃ?」



 1人の猫娘と目があった。



「グスン! キャロル!! にゃでてる手が止まって……む?」



 そして、隣で泣きべそをかいていた少女とも目があった。



「「「……あ」」」



 すると……視線が互いに交差しあうことしばらく……


 ようやく、その人物が誰なのかに気づくと3人の声は重なった。



「キャロルちゃんと、シャルルちゃん!? どうしたのこんなところで!」


「うみゃ!? カイルッち!!」

「か、か、か、カイル様!!??」

 


 次の瞬間には驚いて、互いに目の合った人物が誰だったのか、答え合わせのように名前を呼び合った。



「2人とも奇遇だね? どうしたの? ご飯を食べるところでも探してた」


「あぁ〜〜まぁ……そんなところ、にゃ〜〜……。やばい、まずい時に会っちゃったにゃ……」


「……ん? なんだって?」


「——ッ!? あはは! な、なんでもないにゃ! こっちの話だにゃ!!」


「……?」



 カイルが偶然の再会に、気さくに声をかけると、これに猫獣人であるキャロルが反応した。だがしかし、そんな彼女は複雑そうな表情を浮かべている。この時の彼女のセリフは喧騒によってカイルにはうまく聞こえなかった。



「シャルルちゃんも、奇遇だね? もし夕食がまだだったら、よかったら一緒にどう? 僕が座るこの席、椅子はまだ空いてるしさ! どうかな?」



 そして、カイルは次にキャロルを飛び越えるように隣にいた魔法使いのシャルルに話しかけた。



「——ッ!? シャルルちんは——ちょうどお腹が一杯なような気がするにゃ……ね? シャルルちん!? 私達はすぐ宿に戻って明日の冒険の準備に……」



 だが、シャルルの反応待たずして、隣の彼女をキャロルは強引に肩に手を置いて連れ去ろうとする。カイルが疑問に思いそうなぐらいに不自然かつ挙動不審な行動なのだが……

 カイルがそう思う間もなく……


 次の瞬間——



「——ッはい!! 是非ご一緒させてください! カイル様ぁ〜〜♡」

「——シャルルちん!? いつの間に!!??」



 キャロルの腕をすり抜け、カイルに近づいて手をとって即答するシャルル。気配に敏感な獣人の拘束から抜け出すシャルルの鋭敏さにキャロルは驚愕し面食らってしまった。



「ほら、キャロルちゃんも座りなよ?」

「……えぇぇ〜〜〜〜にゃ????」



 キャロルは、その一連の動作に酷く動揺を見せたが、シャルルの笑顔で席に着く姿と、自身を呼ぶカイルに、しぶしぶと席につく羽目になった。


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