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第50話 お目覚めですか?

「そういえば、そんなこともありましたね」


「はい。あの時はカイル様のお優しい心と、果敢にも戦地の近いあの街まで駆けつけてくださった思いがなければ今頃どうなっていたか」


「そんな大袈裟な。僕はただ薬草を届けただけで……」


「そんなことありません。あなた様は我々にとって、救世主だった。謙虚に振る舞うのも美徳ではありますが、カイル様ほ十分誇れる偉業をなした。自信を持っても良い」


「自信が無い訳じゃないんですけどね。あはは……ありがとうございます。エクレさん。ちょっと小っ恥ずかしいですね」



 豪奢な造りの宿の一室。ベットの横に置かれた椅子に腰を落ち着けるカイルは、離れた場所で荷物を片付ける騎士服の女性エクレと昔話で花を咲かす。

 内容はカイルと聖女様との出会い。2年前のカイルの偉業をエクレと語った。カイルはこれを聞いて恥ずかしそうに、はにかんで頭を掻いている。



「カイル様。聖女様のお見舞いありがとうございます。改めてお礼を」


「ははは……エクレさん。それ……もう3回目ですよ。僕が原因を担ったのもありますから、セレナちゃんのお見舞いは当然です」


「それでもお礼を伝えさせてください。でないと聖女様に叱られてしまいます。『100回はお礼を言ってください!』って聖女様は言いそうですから」


「ふふ……セレナちゃん。言いそう」



 カイルはこの場所を訪れていたのは、とある少女のお見舞いだった。今もカイルの目の前にスゥースゥーと寝息をたてて気持ちよさそうにしているセレナ。人々の騒音の中、急に悲鳴をあげて道に倒れ込んだところをエクレと共に宿へと運び込んだのはつい昨日のことだった。



「それと……エクレさん。宿の手配もありがとうございました。助けてもらわなかったらどうなっていたことか……」


「いえ、このぐらいお安いご用です。この時期はどこも部屋は埋まっていますから我々が貸し切った部屋の1つをお譲りしただけです」


「良かったんですか? 必要だからとってあった訳じゃ……」


「いいえ、毎年余分に部屋は確保してますから気にしないでください。聖女様の着替え部屋や、化粧部屋と……用途様々に使い分けますから、多分に必要なんです」


「すごいな。やっぱりセレナちゃんって凄い人なんだ。さすが聖女様」


「それを言うならカイル様もです。あなた様を野宿させるわけにはいきませんから、遠慮なく使ってください」


「ありがとうございます。あんな立派な部屋……エリスも喜びますよ」



 そして、エクレからは宿の部屋はどこも満室だと言う事実も昨夜知った。今はお祭りで街中は賑わいを見せている。だから、そんなことも余裕で想像がつきそうだが、カイルは失念していた。その事実を知った時のエリスから溢れる怖いオーラ……生きた心地のしなかった瞬間だ。

 そこで……見かねたエクレは、聖女を宿に送ると同時にこの事実を知り、カイルに1つの部屋を譲ってくれた。オマケに宿代はタダで、豪華な食事付き。エリスがあんなにも無言で料理を頬張る姿はカイルは一度も見たことがなく、これが天下に轟く魔王様なのかとクスッとしてしまったことは内緒である。エリスに知られれば殺されてしまうから。冗談ではない。実際にだ。



「ところでカイル様……今更ではありますが、お隣に居られた少女は……」



 と、ここで……エクレが率直な疑問をカイルに振る。今エリスは部屋で寝ていて不在だが、昨日共だって行動している姿はエクレに見られている。セレナのこともあって、今まで聞きそびれていたのだ。なんと言っても最優先は聖女様であるのだから。

 ただ……尋問の様なニュアンスの聞き方ではない。何気なく関係性を聞いているだけで、話題を振ってるに過ぎない。



「えっと……彼女は……」



 しかし、カイルもエリスと関係を持ってもうすぐで1年。この説明にも慣れてきているのか、あまり動揺は見せない。「彼女は僕の妻です」と——そう説明するだけでいい。彼の思考でも、そこまでの言葉が出かかっている。


 だが、その時だ——



「——ッフガ!? か、カイルしゃま——あぶにゃい!!」


「「——ッ!?」」



 ベットから、呂律の回らない少女の絶叫が飛んだ。



「——聖女様!? 起きられましたか!」

「——セレナちゃん。大丈夫?!」


「……はれ? エクレ? カイル様??」


 

 カイルはセレナの顔を覗き、エクレも近くに駆け寄る。セレナは、まだ寝ぼけている様で不思議そうに2人の顔を交互に確認する。


 そして……



「えっと……私は? 部屋のベットで……ッ!? え!! カイル様!!??」



 自分が今の今まで寝ていたのだと理解した。しかし、目の前には男のカイル。自分は寝巻き姿で頭には寝癖だらけ、ここまで思考に情報が回った瞬間。赤面して身体を跳ねさせた。



「え、え、えぇ〜〜カイル様なんでいるんですかぁ〜〜!! 私、こんな姿で……い、いやぁーーあ!! 恥ずかしい!!」



 そして、あたふたしながら布団に潜り込んだ。



「え、エクレ! な、なんでカイル様がここにいるんですか!?」


「私が部屋に招き入れましたから」


「——ふぇぇええ!?」


「カイル様は、聖女様のお見舞いに来てくださったのです。無碍むげには帰すわけにはいきません」


「……そ、そ、そうですけど……ッだからって! 乙女の寝巻きと寝顔を晒すとは何事ですかぁああ!!」


「聖女様。ヨダレを垂らして『ぐへへ〜カイル様〜♡』って寝言を言ってましたよ」


「——ッ嘘です!? イヤァアア!!」


「ふふふ……冗談です♪」


「——ッ!? え、え、え、エクレぇえええ!!」



 布団の端から顔だけを出し、エクレと繰り広げる羞恥の上塗り。カイルはこのやりとりを聞いていて良いものなのかと、疑問を顔に貼り付けてうっすら苦笑い。頬に冷や汗が伝っていた。



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