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第39話 暗澹の旅

「——ッ!?」



 一瞬、エリスとカイルの視線が交差する。


 この時——


 カイルの目には、エリスの頬が持ち上がったように見えた。ほんの僅かな変化だ。これにより脳裏には不適に笑う彼女の姿が思い浮かぶ——と同時に嫌な予感が……


 これは、先ほどの予感とはまた別ベクトルのもので、命を脅かす『狂気』というよりは、何か良からぬことを考えていそうな『畏怖』に近い予感である。



「——ちょっと、待ってエリ……」



 カイルは当然、止めに入ろうとする。


 

 が……



「……初夜ですかぁ〜〜実は——」

「——なになに〜〜にゃ♪」

「——ッ!?」



 エリスの声を拾い2人の間にキャロルが割り込むことでカイルのセリフは遮られてしまう。


 そして……エリスの会話が続き……



「私、ベットでカイルに“おいで”って、言ったんですが……『僕はエリスに手を出しません!』って……断られてしまったの……シクシク……」



 彼女は泣き真似をして、これを語る。



「うっわぁ〜〜カイルっち。ひっどぉ〜〜い。男としてどうなの? チキンだったのかにゃ?」

「——え!? ち、ちが……」



 カイルは酷く動揺した。つい先刻まで顔を赤く染め上げていたと言うのに、今は顔が真っ青だ。


 このエリスの演技と喋る内容だけを聞くだけでは、事情を知らない者からすれば勘違いしても仕方がないだろう。完全にカイルが悪者だ。



「カイル様! カイル様!!」

「——ッ?!」

「——ナイス! チキンです!!」

「……“ナイスチキン”ってなにィイいい??!!」



 ただ、この事実に喜ぶ者が1人。親指を立てた拳を突き出すシャルル。彼女の瞳は、カイルとの久しぶりの再会を果たした当初と、何ら変わらないほど希望に満ちた輝きを放っていたが……カイルは酷く唖然としていた。



「——え、エリス!? 何でそんなことを!?」

「だって、本当のことでしょう? ふふふ」

「本当のことだけども! そんなことを言う必要ないでしょう!? ()()()されちゃうタイミングで——!」


「「……か、勘違い!?」」



 口角を吊り上げたエリスは、この上なく楽しそうだ。これにムッとしたカイルは言い返すも、思わず口を滑らせた。



「ねぇねぇ〜勘違いってなにかにゃ?」

「——か、か、か、カイル様!! ど、どう言うことですかぁああ!!」



 これにキャロル、シャルルが反応した。



「——え!? え、えっとぉ〜〜……え、エリス〜?」

「自分で言い出したことなんですから、自分で説明して差し上げれば〜〜私は知らないわよ〜〜♪」

「——えぇええ!?」

「——カイルっち!?」

「——カイル様!?」


 

 エリスは舌をペロッと出してカイルの要求を無視した。



 このあと——想像につくだろうが……



 彼らの旅路は馬車を揺らす愉快な旅道中となる。



 この間、奇跡的にエリスの正体がバレることもなく……カイル達一行は次の街手間へと差し迫っていた。



 全ては何事もなくこの旅が終わりを迎える。



 と——思っていた。









「オイ! 御者よ! アナタは先に行け!」


「——で、でもメイソンさん! アナタ達は——!?」


「ここで魔物を食い止める」


「ですが、あの数の魔狼を——!?」


「愚問だ——我々は冒険者だ。これが仕事だよ」


「分かりました。では私は街に救援を呼びにいきます。どうかご武運を——」


「ああ……頼むよ」



 冒険者パーティーのリーダー、メイソンの声が森の中に響く。すると、一台の馬車はこの場に彼を残し街へ向かい猛発進した。



「アリシア! 状況説明——!」

「今、キャロル、シャルルが後退しながらこちらに向かってるわ」



 メイソンは背の剣を引き抜き地面に切先を刺すと——薮の中から矢をつがえたアリシアの姿が出現する。


 アリシアは状況を報告するが……その時だ——



「——うわぁああ!!??」


「「——ッ!?」」



 さらに一台の馬車が、この場に現れる。馬車を操るカイルは悲鳴をあげ、それにつられてメイソン、アリシアが反応する。



「カイルさん無事か!!」


「——は、はい!? で、でもキャロルちゃんとシャルルちゃんが!!」



 メイソンはそんな彼を心配して声をかける。カイルは動揺こそしていたが……真に心配だったのが、荷台に姿のない2人の少女だった。


 が……



「——はにゃッにゃッにゃぁ〜〜〜〜あ!!??」



 薮の中から猫耳の少女キャロルが脱兎の如く飛び出してくる。その背にはシャルルの姿もあった。

 


「——リーダー! 大変だにゃあ!?」

「……キャロルの言う通りです! 凄い数の魔狼が! 私の魔法では、わずかな足止めにしかなりません!」


 

 2人は慌てこそしていたが、自分たちだけが抱える情報を必死にリーダーに伝える。

 

 だが……


 皆が慌てているのを他所に、状況は待ってはくれなかった。



「——グァアア!!!!」



 1匹の魔狼が薮から飛び出した。



「——はぁぁアア!!!!」



 メイソンがこれを反射的に剣を刺突し切り伏せる。地面に魔狼の血が飛び散る。


 だが……彼は冷静に魔狼が飛び出た薮を睨む。


 そして……



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