5、パパは、絶対許さないぞ!
「アイリスさま。ご安心ください! まず、わたしがどれだけ魔法が得意かお見せしましょう」
ララは実力を示すため、魔法を使ってみせた。
小さな手を振ると、部屋中にきらめく星が舞い降りてくる。幻影をつくる魔法だ。
「さあ、アイリスさま。あのハシビロコウを流行のピーチ・ファズ色にしてみせます」
ララが「えい、えい」と両手を向けると、檻の中のハシビロコウの周りに淡い輝きが広がり、毛がピーチ・ファズ色に染まった。
「これで実力がわかりましたか? それでは、すぐにお薬をゲットして戻ってまいります! 安心してお待ちください!」
ララは指をパチンと鳴らし、チョコレートを出してアイリスに渡した。
アイリスは目を丸くしていたが、おずおずとチョコを受け取り、こくりと首を縦にした。「わかった、待っている」という意思表示だ。ララは嬉しくなった。
「えへへ。じゃあ、いってきまーす、アイリスさま!」
箒を魔法で出して跨り、窓枠を蹴って、空へと飛び出す瞬間、自由を感じた。
* * *
青空には白い雲が穏やかに流れていて、お日様が明るい光を放っている。
箒は風に乗り、ヒューンという風を切る音が、爽快だ。
見下ろす王都は、オレンジや緑の三角屋根の建物がずらりと並んでいて、向かう先には王城と魔塔がある。
小鳥の群れがすぐ近くを飛んでいく。
地上は石畳で舗装されていて、小さな豆粒みたいなサイズの人間たちがあっちへこっちへと歩きまわっていた。
そんな日常風景を見下ろしていると、地方産の葡萄酒の売り口上を唱えていた行商人がこちらに気付いて手を振ってくる。働き者の、いい笑顔!
ひゅーんと飛んで到着した天高くそびえる魔塔は、宮廷魔法使いたちが集まる塔だ。『賢者の園』とか『叡智の階』とか呼ばれている。
塔の入り口に行くと、パパ(プーランク・ゲーテ・エンチャントホール魔法伯爵)が慌てて飛び出してくる。飛んでくるララに気付いたらしい。
プーランク・ゲーテ・エンチャントホール魔法伯爵は、妖精族の美しい男性だ。
身長は中背で、やせ型。
薄い金色の長い髪に山ぶどう色の目をしていて、耳は普通の人間よりも長く、先端がとがっている。
身に纏う紫の外套には金糸の刺繍が細やかに施されていて、頭には装飾過多な三角帽子をかぶっていた。
「ララ……! 心配したんだぞ!」
プーランクが血相を変えて走り寄り、自分の娘を抱きしめる姿には、父親としての愛情が窺えた。
「パパが悪かった。お前が大切にしていた隣国の王子の姿絵を『お前に男は早い』と言って燃やしてしまって、すまなかった」
「隣国の王子さま、行方不明なんですって」
「ずっと行方不明でいい!」
「パパ?」
「いや、今のは失言だった。パパは王子が早く見つかることを祈ってるよ」
「パパ、ただいま。心配かけてごめんね」
隣国の王子様は16歳。ドラゴンを倒したとか、フェニックスと心を通わせたとか色々な英雄伝があって、姿絵も大人びていて格好良いので、ララはファンだった。
周囲で父娘を見守る魔法使いや兵士たちは、「お嬢様が帰って来てよかったですね」と声をかけてくる。「よかったよかった」と笑みを返すプーランクへと、ララはこれまでの出来事を打ち明けた。
首輪を填められた時の記憶を伝えると、プーランクはあっという間にその魔女の素性を突き止めて報復宣言をした。
「娘を害した罪は重い。パパは、絶対に許さないぞ!」
プーランクは国王の元に出かけた。そして、フェアリーグローム公爵家に赴き、帰ってきた。
「同じ魔女に呪われてハシビロコウにされていた人物がいたので、ついでに助けておいた……あの男、『お嬢さんに懸想しています』などと言いやがった……」
つぶやく独り言には、父親としての複雑な感情がにじんでいた。




