3、王子はチャリチャリしている
翌朝はチャリオス王子が訪ねてきた。
王子は麦穂色のやわらかな髪をしていて、軽薄な印象。だが、トパーズの瞳は優しげだ。
歩くたびにチャリチャリ音を立てているので「何だろう?」と思っていると、首飾りや指輪といった装飾品を大量に持っていた。
「俺の『青薔薇』があまりに奥ゆかしいので『静寂の青薔薇』などという異名がついたと聞いたぞ」
アイリスの部屋に来た王子は、テーブルの上に装飾品を並べた。
「しかし、安心してくれたまえ。俺がこのチャリチャリ音でキミの分も賑やかにしよう。チャリチャリ!」
ちゃらい。おバカっぽい。
アイリスの父であるフェアリーグローム公爵は、そんな王子へと重い話を切り出した。
「実は我が家で話し合ったのですが、今回の婚約の件、辞退しようかと」
「フシャー!」
「むっ? 猫が!?」
アイリスの望まぬ婚約辞退を阻止しようと、ララは公爵を威嚇するステップを踏んで気を引いた。
別名「やんのかステップ」と呼ばれる、気高き猫のファイティングステップだ。
人間たちはそれを見て、のほほんとしている。
「ヘイ、公爵。この猫はなんだ? 挑発的なダンスを踊るじゃないか。まるで喧嘩を売っているようだぜ。さては公爵のことをネズミだと思ってるな、間違いない」
「そんな馬鹿な。吾輩の頭をごらんください、ネズミと比較できないほど禿げているのですよ!」
「公爵は禿げててもチャーミングだぜ! 元気出せよ!」
チャリオス王子は公爵の頭にカツラを載せた。
そして、ハシビロコウに優雅にお辞儀をしてからソファに座った。
ハシビロコウからお辞儀が返ってくることはなかったが、代わりに公爵がお辞儀をしてカツラを落としている。
「これは貴重な隣国製のカツラでございますな。そういえば、隣国の王子が風に飛ばされた父王のカツラを追い求めて旅に出たきり帰らないという噂がありますが、本当でしょうかな」
二人の話が婚約の件から逸れたので、ララは満足した。
「はははっ、アイリスのペットは仲が良いんだな!」
チャリオス王子は陽気に言って、ずっと無言でいるアイリスに視線を向けた。
「アイリス。キミに会いたくて俺はチャリチャリしてきたんだぜ。ちなみに、今日持ってきた装飾品の中に好みに合うものはあるか?」
アイリスは呪われているので返事ができない。が、おずおずとトパーズの首飾りを選んだ。
「これが好みか。よし。好みが知れたぞ。次からより好みに合った装飾品を選べる。ありがとう、アイリス」
チャリオス王子はにっこりとして、首飾りをアイリスにつけた。アイリスはまつげを伏せ、ほんのりと頬を染めている。
いい雰囲気じゃない? ――ララは王子に好印象を抱いた。