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影の守り人  作者: 春鏡凪
5/5

落ちた先は

「ハッ!!?」


俺は背中に冷や汗びっしょりで飛び起きた。何が起きたのか頭が覚醒せずうまくものを考えられない。

落ち着け、落ち着け。

俺が呼吸を整えてふと前を見ればどこか見慣れた壁があった。どこか懐かしくて胸がきゅっとなるような感覚。立ち上がれば窓があった。

覗き込んで見るが霧がかかっているように真っ白でぼんやりとした風景しか映っていない。かろうじて小さな小屋のようなものが見えるがそれ以外は影だけが見える。


「おー起きたか少年」


魔女が箒に乗って上から俺を覗き込む。

上から降ってきた声に顔をあげれば魔女とバッチリ目が合ってしまった。

思わず目を逸らせば、魔女は君の負けだねとクスクスと笑った。

ぼんやりとしていた頭が覚醒してくる。すると頭にポンと浮かんできたのは今さっき俺が魔女に言われた言葉とされたことだった。


「おい!!急にあんな高いところから落とすなんてお前頭どうかしてるぞ!!?」


「じゃあ僕が本当に頭おかしい奴だと仮定して、なんで君は五体満足で僕と話せてるのさ?」


言われてみればと体中をペタペタと触ってみるがどこも折れてないし打ち身や捻挫だってしてない。どういうことだと首を傾げれば、魔女がいたずらっ子のように笑った。


「僕が君を突き落としたのは半分冗談で半分真面目な理由だよ」


魔女が箒から降りてくるりくるりと回りながら俺の前から移動して視野の外に出ていく。


「どんな理由があって人のことを落とす……」


俺が魔女を目で追いかけて後ろを向いた時だった。俺の視線は魔女が移動した俺の後ろの景色に釘付けになる。

小さな椅子に小さな机。昔使っていたはずのそれはあまりに小さく俺の膝にも届くか届かないかぐらいの大きさだったが、特徴的なドアや壁、左手に見える大きな緑の壁、そして右手に並ぶたくさんの棚のおかげでここがどこなのか瞬時に理解できた。


「小学校……」


そうここは俺が通っていた小学校の教室だ。貼ってある九九表やあいうえお表などを見ればここは低学年の教室だろう。でもなんだって急にこんなとこ……

俺が教室を見渡していれば突然ガラッと扉が開く。俺は驚いてとっさに自分の背よりも明らかに小さい机の影に隠れてしまった。どう考えてもすぐ見つかる場所に……。

いやいやいやいやバカか俺は!!?隠れるとしてももうちょいマシなとこに隠れろよ!!?こんなとこ隠れるなんて小学生ぐらいだろうが!!?

自分で自分を罵倒していれば足跡がコツコツと近づいてくる。

あぁ終わった。俺絶対不審者として通報される。一回捨てようと思ってた人生だけどこういう終わり方はちょっと想像してなかったな……。やっぱこんな怪しすぎる魔女の言葉なんて信じなければ良かっ……


「お兄さん誰??」


突然かけられたその言葉はこの教室と同じように聞き慣れて懐かしい響きを持っていたのだった。

俺が驚いて顔をあげればその拍子に机に頭をぶつけてしまう。

痛さにうずくまっていればまたあの声で「大丈夫?」という声が降ってくる。

本当に……本当に彼なのだろうか?

俺が頭を抑えながら顔をあげればそこには小さな男の子がいた。

ツリ目がちな茶色の瞳、ツクツクして爆発気味な黒色の髪。小学生らしい蜜柑色のTシャツにツヤのある生地の運動用短パン。そのどれもが俺の脳の深くに眠っていた記憶と一緒だった。


「瀬雅?」


俺の口から自然と零れ落ちたその言葉に瀬雅らしき男の子はその細い眉を顰めた。


「お兄さんなんで僕の名前知ってるの??僕お兄さんのこと知らないよ??」


やっぱり!!

怪しむように後退る瀬雅を追いかけようと進もうとすればそれは魔女が俺の前についた箒で阻まれた。

見上げれば俺に人差し指を振ってみせている。

まるで先走ろうとした子供に言い聞かせるように。


「こんにちは、瀬雅くん。僕は賢也の姉のスイ。で、こっちは私の弟で賢也の兄のえーっと……あ、そうそう太郎って言うんだ。君のことは賢也から聞いてたから知ってたんだ。今日は賢也を迎えに来たんだけどどこにいるか知らない??」


呼吸するように嘘つきやがったこいつ。俺が何か言おうとすれば瀬雅が目を輝かせて俺たちに近づいてきた。


「ケンちゃんの姉貴と兄貴なのか!!」


さっきのおどおどした態度はどこへやら、瀬雅は嬉しそうに落ち着きなくその場で跳ねた。


「姉貴の方は似てないけど、兄貴はそっくりだな!!目の形とか顔の形が全部一緒だ!!賢也が大きくなったら兄貴みたいになるのかな?」


いや本人です……。

俺が小さな罪悪感を抱いて、なんとも言えない顔をしていると、魔女が話を戻す。


「まぁとにかく。賢也はどこ??案内してくれない??」


「え?賢也?さっき図書室にいた気がするけど……」


考え込む仕草を見せてそう返す瀬雅。魔女は人の良さそうな笑顔を崩さず続けて瀬雅に向かい続ける。


「じゃあ、そこまで私達のこと案内してくれない?」


「……まぁ図書室までなら」


そう言って小さな足ながら俺たちを先導する瀬雅。

瀬雅が前を向いている隙に俺は魔女に耳打ちをした。


「おい、ここはどこだよ??あれって瀬雅だよな?」


瀬雅に指をさせば「人を指で差すのは行儀悪いよ」と指をパシリと叩かれる。

そして魔女は耳を貸せと人差し指をちょいちょいと曲げた。

俺が耳を貸せば


「ここは瀬雅くんの記憶の中だよ、それであれは瀬雅くんの魂の一部」


「記憶の中??」


俺が首を傾げる。

魔女は瀬雅をちらりと見やって何かを唱えたかと思えば俺たちの周りに青い膜が張られる。


「防音の結界。水でできてるから触ったら壊れはしなけいけど濡れるよ」


魔女がいつもの声量で話し出す。俺は前の瀬雅をちらりと見て魔女に問いかける。


「瀬雅の魂の一部ってどういうことだよ」


魔女がんーっと声を出して伸びをしながら答える。


「そのまんまの意味、あれは瀬雅くんではあるけれど君のこととか、自殺したこととかの記憶をナイトメアに喰われた抜け殻だね」


「抜け殻……じゃあ本体はどこに」


俺がそう言いかけた時だった。


「ついたよ」


瀬雅が俺たちに振り向いてそう言ってきた。

ガラガラと横引きの古ぼけた警告色のような黄色の扉がひとりでに開く。

この先にいるのは瀬雅の記憶にいる俺のはずなのに何故か緊張が走る。


「賢也!!お前の姉貴と兄貴が迎えに来たって!!」


小さな瀬雅が俺の名前を呼んで躊躇わずに中に入っていく。

魔女も迷わずそのヒールの魔女靴をコツリと音を立てながら中に入っていく。


「お、おい」


置いて行かれそうになったので追いかけて中に入る。

中を見て俺は息を呑んだ。

この学校の図書室は司書が几帳面で本がズレなくピシリと並んでいるのが特徴的だった。

だが目の前に広がっているのは俺の記憶とはかけ離れた光景だった。

床に積み上げられた本、乱雑にばら撒かれた千切れた本のページ、そして倒された本棚。少し散らかっているなんてレベルじゃない。


「賢也〜?」


この中を何でもないように進んでいく瀬雅に気味悪さを感じた。


「魔女……どうなってんだよ」


俺が不安から魔女を見れば魔女は真剣な顔のまま、図書室の奥を見据えていた。


「さぁ、黒幕のお出ましだよ」


そう言って俺を背に庇う魔女。その姿が俺の中で何かに引っかかる。

俺、この姿どこかで……。


俺の頭の中にある記憶を呼び起こそうと頭に手を置いていれば魔女の


「来るよ!!」


という声で意識が現実に戻ってくる。


「賢也、いたよ!!賢也の兄貴と姉貴!!」


ニカッと笑った瀬雅の笑顔とは裏腹に後ろにいる俺だという彼は昔の俺と同じように大好きだった戦隊ものの服を着ていて、背や髪型は一緒だったが表情がなかった。

いや()()()()と言った方が適切だろう。

名もなき次元に入ってきた時に見た青色の花、確かオダマキだっけ?それが顔の部分に花束のように咲き誇っていた。


「ダ、レダ、ボクノ、トモダチ、ト、イッショニ、イルノハ?」


()()は俺たちを威嚇するように瀬雅を後ろから抱きしめ、髪を逆立てたのだった。



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