契約
俺が呆気に取られていたところ、魔女は急にパッと手を離した。
それと同時に急に支えを失った俺の体は重力に従って頭から地面にぶつかった。
「あれま」
魔女が手を口の前で開きながら、目をまん丸にしている。
「運動神経ないね君。そこは倒れそうになったところを手で地面を押して宙返りするのが普通でしょ?」
「……お前の普通はもしかしなくても狂ってる」
魔女の狂った常識が垣間見えながらも、俺は痛む頭を押さえてその場に座った。
というか……今何が起こった??
契約だなんだ言われて死ぬ前なんだからやばい宗教野郎に付き合ってやろうとかそんな気持ちだった。
なのに、いざ蓋を開けてみればこの世のものとは思えない光景。
俺、瀬雅がいなくなったショックで幻覚でも見ているんだろうか??
頬をつねってみたがしっかり痛い。
……夢じゃない。
「さて、無事僕の契約者になった訳だし、早速瀬雅くんを助けにいかない??時間は限られてない訳ではないし……」
「なぁ、さっきの話って嘘じゃないのか??俺嘘だと思ってお前の話まともに聞いてなかったんだけど……だから迎えに行くとか、契約者とか全くわかってないんだ。ちょっと説明してくれ」
「……マジ??」
「マジ」
しばらく二人の間に沈黙が流れる。仕方ないだろう、誰だってあんな話聞かされたら信じないのが普通だ。信じる奴は多分この世ですぐに人に騙されて生きていけない気がする。
「……クソぉ、これだから最近の若い奴は……チートとか異世界転生とかそんな状況夢見て他の子はすんなり信じてくれたって同僚は言ってたんだけど」
「誰それ、大丈夫??ちゃんとこの世界生きていけてる??」
「だまらっしゃい!!まず君が信じなすぎなんだよ!!?まず君のこと箒に乗って助けた時点で嘘じゃないかもって可能性考えなかったの!!?」
「いやそれは……夢だったのかなって……」
「はぁ……もう、見ててよ?」
魔女は大きくため息をつくと、手を上に掲げた。そして何かを唱えたかと思えば、一瞬でその手に箒が現れのだった。
「手品じゃないからね、その証拠に……」
彼女が箒を持った手を離しても箒はその場に固定されたかのように動かなかった。
そして魔女がツイっと指をふると箒はすごい速度で灯台の方に飛んでいき、俺の乾かしてあった服を全部回収してきたのだった。
何故か箒が服を魔女に渡したあと、俺の頬を叩いて来たのは意味が分からなかったが……。ちなみにものすごく痛い……。
「どう??これで夢じゃなかったって信じられる??」
魔女がしてやったりと言った顔をしている。
「あぁ無茶苦茶痛いし、疑って悪かったよ……で、本当に瀬雅を蘇らせることができるんだろうな??」
そう聞けば魔女は急に真面目な顔になった。
「それは君と瀬雅くん次第。まず、僕達について説明するよ。僕達は君達の言う神様の使い、僕らを知る人間たちは魂の案内人って呼んでる。僕らの仕事はナイトメアって呼ばれてる奴らに負の感情を増幅させられて自殺した人たちを現代に返すことと、この世で彷徨ってる魂の案内。
それをする理由なんかは今は省くけど、それらをするには僕達だけではだめなんだ。彷徨ってる魂がいる場所は彼岸と此岸の間にある名もなき次元って呼ばれてる場所。普通、死者と生者が交わらないために入り口は固く閉ざされて違う次元には普通の人はいけない。僕らは神様に許可をもらって、その入り口を使って名もなき次元の近くには行けるけど、その入り口も名もなき次元には繋がってない。僕らは彼岸の住人だから入り口がない名もなき次元にはいけない。だからその向こうにいる此岸の生き物と契約を結んで彼岸と此岸の間に橋を渡すことでやっと名もなき次元に入れるんだ。そこで、ナイトメアによって増幅させられた負の感情によって一瞬の気の迷いで自殺した人たちの迷った魂を連れ戻して此岸に連れ戻すのが僕らの仕事。分かった??」
「大体……説明の一割くらいは……」
「すっくな……」
魔女が呆れたと言わんばかりに額を抑えた。
「まぁざっくりまとめると、瀬雅くんを助けるには僕だけじゃなくて君の力もいるってこと。分かった??」
「あぁ、それならまだ……」
魔女の長ったらしい説明を解読するにはちょっと時間がいりそうだ。
文面的にも……心的にも……。
「さぁ、さぁ!!説明も終わったことだし、そろそろ行こうか!!」
「え、どこに??」
「瀬雅くんのところだよ、なんのためにこんな説明してたか忘れた??すぐ行けるからほら着替えて立って!!」
俺に服を渡して早く早くと急かす魔女。俺が急かされるままに着替えると、魔女は着替えた俺の手を取り、何故か俺をさっき自殺しようとした堤防の上に連れてきた。
「ここ、瀬雅くんを助けたいなら僕と手をつなぎながら飛び込んで」
「マジで言ってる?」
「マジで言ってる。一回飛び込んだんだ。別に二三回目も変わらないだろう??」
いやいや……まさかそんな……さっきは死ぬつもりだったから良かったようなものの、よく見ればここかなり高いし、普通に飛び込むのは怖い。さっきよく飛び込めたな俺……。あいや、あの時は瀬雅が関わってたから大丈夫だったのか。流石に冗談だろうと躊躇いがちに魔女を見れば、彼女の目は澄み切っていた。
多分……嘘じゃない……
「男は度胸だぁぁぁぁ!!」
そう言って俺は暗い海に飛び込んだのだった。