ポーカーフェイスのタツミくん
うちのクラスの人気者、結城タツミの素顔を僕だけが知っている。
「タツミくん、好きです! 付き合ってください!」
タツミを体育館の裏に呼び出し、勇気を振り絞って告白した女子はヘルメットみたいな髪型をした、市松人形みたいな娘だった。
「ごめん。好きな娘がいるんだ」
タツミは申し訳なさそうに頭を下げると、爽やかな笑顔で彼女に微笑んだ。
「でも、気持ちは嬉しかったよ。ありがとう」
女の子は顔を覆って泣いた。
付き添いの娘が「でも勇気を出して告白してよかったじゃない」と慰めながら、手を繋いで去っていった。
付き添いの娘がいたからタツミは優しかったのだと僕にはわかっていた。
誰も見ている第三者がいなければ、きっとほんとうの感情を顔に表していたことだろう。
「……ったく! ブスのくせしやがってこの俺に告ってくるとかありえねーわ」
くるりと僕のほうを向くなり、タツミは言った。
「タツミくん」
後ろからさっきとは別の女の子の声。
にっこりと笑顔で振り向くタツミの先に、学年一の美少女『椎名心美』が立っていた。
「あの……っ。あたし、前からタツミくんのこと、いいなって……思ってて……」
ニコニコ笑顔を崩さないタツミ。
「よかったら……、その……。あたしと付き合ってくれませんか?」
「嫌だね」
笑顔を貼りつけたような顔で、タツミは言った。
「おまえ、学年一の美少女とか呼ばれて天狗になってる女だよな? 俺、そういうやつ大嫌いなんだ。悪いけど二度と話しかけないでくれる?」
タツミが犬のように喜ぶのを期待していたようだ。椎名心美はプライドをズタズタにされたような崩れた表情で一度地面にばたっと倒れると、走って逃げて行った。
くるりと僕のほうを向いたタツミに言ってやった。
「おまえ、女の子振るのを楽しんでるだろ?」
「そんなことないよ」
いつも僕の前では涼しげな顔だ。
「俺はそんな嫌なやつじゃない」
「鬼畜だな」
「きっ……鬼畜じゃないよ。ただ……」
「あんまり非道いとおまえのこと嫌いになるぞ」
「ひっ……!」
タツミの涼しげな顔が崩れた。
「やっ……、いやだっ! おまえに嫌われたら……俺、生きて行けない……っ!」
ふふふ。
タツミのこの素顔を見るのが僕の何よりの楽しみだ。
しかし僕はそんなことは表情にも出さず、犬に餌を与えるように言ってやった。
「嘘だよ。ちゃんとわかってる。タツミが女の子を振るのは僕への愛の証だって」
タツミが喜びの声をあげた。
「きゃうんっ!♡」