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悪役令嬢に転生した元賢者、前世の記憶と知識を思い出し新しい人生を生きていく

作者: 下菊みこと

六道立花五才。彼女は大変良い家柄に生まれた。六道家。古くから続く由緒あるこの家は、地位も権力も名誉も、もちろんお金も思うがままである。


しかし、六道家の後継である立花の父は政略のため無理矢理結婚させられた立花の母を嫌う。立花という後継を作るととっとと愛人の元へ逃げた。


愛人のところにも娘が生まれた。私生児ということにはなるが、両親から深く愛される三歳の彼女は七瀬愛華。七瀬家は取るに足らない家柄ではあるが、最近急激に力をつけておりお金の面だけで言えば六道家にも劣らない。


そして立花の母は、ずたずたにされたプライドを維持するために立花を立派な当主に育てようと詰め込み教育を行う。


そんな中で、愛を得られずストレスばかりを抱えた立花は段々とわがままになり使用人達を虐げるようになる。そんなことをしていれば、当然嫌われた。それが余計にストレスになる。


そして祖父母はわがままな立花を決して将来の当主に相応しいとは認めなかった。


父からは見捨てられ、母からは道具としか思われず、祖父母からは認められない。立花は孤立無援だった。


そしてある日、とうとうストレスで高熱を出して倒れた。立花は三日三晩熱が続き、その間長い夢を見る。


その夢で彼女は孤児だった。独りぼっちで、ファンタジーみたいな異世界で賢者として生きていた。彼女は誰よりも人間を愛した。けれどその世界は、彼女を生贄にして魔物と呼ばれる恐ろしい存在を封印した。それでも最後まで、彼女は人を愛していた。


自分以外誰もいない部屋で目を覚まして、立花は賢者として生きた人生で得た知識を覚えていることに気がついた。しかし記憶や知識は引き継いでも性格は引っ張られていない。立花は賢者と違い博愛主義にはならなかった。立花はその日から変わった。


詰め込み教育を行う母に今の実力をチェックして欲しいと頼み込み、賢者として生きた人生の知識で難なく母の求めるレベルのテストをクリアした。母はそれで満足せず小、中、高、大学生レベルのテストまで行なったが、立花はそれをもクリアした。母は天才だと喜び、立花を勉強から解放した。


解放されて最初に立花がしたことは、使用人達への謝罪。立花は博愛主義ではないがその分、身の回りの人間は大切に思えた。仲直りできるならその方が良い。さすがに幼子に頭を下げて謝られてそれでも恨むような者はいなかった。立花は再び使用人達から可愛がられるようになる。


そんな立花は、精神的にも知識的にも当主になるのに問題ないと祖父母にも認められる。愛人をこさえて子供まで産ませた息子をすっ飛ばして、立花に家を継がせると決定した。祖父母は、そんな立花に〝お友達〟を作ることにした。


「一ノ瀬祐樹です。よろしくお願いします、立花さん」


「一ノ瀬楓だよー、よろしくー!」


「六道立花です。よろしくお願いします」


六道家と深い繋がりがある…言ってしまえば家臣のような存在、一ノ瀬家の長男祐樹。そして長女楓。双子である彼らが立花のお友達として選ばれたのは、もちろんその古くからの繋がり故だが…。


「ところで立花、敬語めんどいから普通に喋っていい?」


「祐樹仮面取れるのはやーい」


「お前は最初からそのままだっただろ。お前よりマシですー」


「…あらあら。うふふ」


立花は二人のその気安さに、すぐに絆されることになった。正直に言うと、お友達なんて面倒だと思っていたが二人ならそばに置いても良い。


逆に祐樹と楓は、気安く接しても許してくれるどころか大切な友人として扱ってくれる立花に忠誠心にも似た感情を抱くことになった。


祖父母から当主に相応しいと認められて、母から自慢の娘として普通程度には可愛がられるようになり、お友達には恵まれる。立花はいつからか父や腹違いの妹のことは気にならなくなった。


「立花は当然桜花学園に入学するんだよな?俺たちついていけるかな」


「祐樹と楓の実力なら大丈夫よ。私が保証するわ」


「立花ちゃん大好きー!」


立花は桜花学園という、お金持ちの子女のうち優秀な者の多くが通う名門校への入学が決められている。もちろん入学試験は普通に受けるが、まあ賢者の知識を引き継いだ立花なら余裕である。


祐樹と楓も立花を一人にしないため、桜花学園に入学するためのお勉強を頑張っている。来年のお受験は立花とずっと一緒にいたい二人にとって大事なものだった。


そんな二人はここ最近パーティーには出ていなかったが、立花が三ノ宮家のパーティーに出ると知り側近として出席を決める。


「美味しいね、立花ちゃん!」


「そうね。でももうちょっとお淑やかになさいな」


「えー、だって美味しいご飯食べるの好きなんだもん」


「ふふ、楓ったら」


「立花ー、これ持ってきたから食べようぜ」


「祐樹、ありがとう。食べましょう」


パーティーはほとんど大人達のやりとりがメインで、子供達は顔合わせしたらあとは自由。そのため立花は祐樹と楓と好きに過ごしていた。


だが、会場が騒がしくなる。


「離して!私はお姉様に会いにきたのよ!七瀬家のご令嬢なら三ノ宮家のパーティーにくらい出られるでしょ!」


「…あらまあ」


立花は目をパチクリと瞬かせる。会ったことは未だないが、七瀬家のご令嬢とか言っているので妹だとわかった。


「うわぁ。自分でご令嬢とか言ってるぅ」


「お姉様とか馴れ馴れしい奴だな」


「しかも〝三ノ宮家のパーティーにくらい〟って。たかだか七瀬家の成り上がりの分際でよく言うよねぇ」


祐樹と楓が不愉快そうにしているのを見て申し訳ない気持ちになる立花。


「妹がごめんなさいね。七瀬家ではまともな教育を受けられないみたいだわ」


頭を下げた立花に慌てて顔を上げさせる祐樹と楓。


「立花は悪くねえよ」


「あの子が常識外れなだけだよ!」


立花はふと妹のいる方に目を向けて、後悔した。その目は確実に立花を捉えて、嫉妬の炎を燃やしていた。これは、面倒なことになるかもしれない。


ー…


時は過ぎて、立花は桜花学園に入学する。愛華の突撃はアレ以外にも何度かあったが、立花は無視を決め込んだ。そんな愛華は桜花学園をお受験するつもりらしいが、桜花学園にも愛華の突撃の話は相談しているので少なくとも外部生が増える高等部に上がるまでは入学は認められないだろう。


「立花、入学おめでとう」


「立花ちゃん、入学おめでとう!」


「ふふ。二人も入学おめでとう」


祐樹と楓も無事入学することに成功。クラスも同じなのは、大人達の采配かもしれない。


「六道立花」


「なにかしら」


ふとクラスメイトに話しかけられる。


「僕は四ノ宮椿。君がクラス一の秀才だと聞いて、ぜひ一度話をしたいと思って声を掛けさせてもらった」


四ノ宮家。六道家とは敵対はしていないが仲が良いとも言えない微妙な間柄。力関係は拮抗している。


「椿ね。素敵なお名前だわ」


「ありがとう。立花…と呼んでもいいだろうか?」


案外と律儀な彼に立花は好感を持つ。


「もちろんだわ」


「立花も素敵な名前だと思う」


「ありがとう。祖父母が付けてくれたの」


「そうなのか。良かったな」


「ええ」


無難な会話が続く。その中で、急に椿は爆弾を落とした。


「ところで、七瀬家の愛華というのは本当に君の妹なのか?全然違うな」


「…妹が迷惑をかけたかしら」


「隙あらば付き纏われてうんざりしてる。君もおんなじだったら嫌だと思って確認ついでに声を掛けさせてもらった。完全な誤解だったよ、すまない」


妹に軽く殺意が湧く立花。


「ごめんなさいね。でも、あの子は七瀬家の子だから六道家としてはあまり…」


「いいんだ。四ノ宮家として正式に抗議してあるし、六道家に動いて欲しいわけじゃない。立花とは仲良くしたいと思っているし」


「ありがとう、椿」


愛華は、なにがしたいのだろうか。


ー…


椿と仲良くなり祐樹と楓から相変わらず懐かれる学園生活の中でも時は経ち、立花は中等部に上がった。


愛華は相変わらず立花の周りをちょろちょろと動いては騒動を起こしているらしい。立花はやはり対応を大人達に任せ、基本的には無視を決め込んだ。付き纏いの被害者の、良い家柄の男子にはさすがに直接出向いて謝ってはいるが。


そんな中での中等部。初めましてのクラスメイトもちらほらいる。そんなクラスの様子に浮き足立つ彼もその内の一人である。


「やあ!君が六道立花かい?椿から可愛らしいお嬢さんだと聞いているよ!」


最初いきなり話しかけられて警戒態勢に入った立花だが、椿の名前に反応した。


「椿のお友達かしら?」


「従兄弟の四ノ宮葵だよ。一応こっちが本家筋なんだけど、椿ばっかり六道家のお姫様と仲良くなるから嫉妬しちゃうよね」


困った困ったと大袈裟な身振り手振りを見せる葵に、椿とは随分違うなぁと立花は思う。


「良かったら椿共々仲良くしてくれるかい?」


「もちろんよ。葵って呼んでいいかしら?」


「もちろん良いとも!よろしくね、立花」


立花は段々と自分の周りを将来有望なイケメン達に囲まれていると気づかない。そして、それを知った愛華が発狂していることにも気づかない。


ー…


椿と葵、祐樹と楓と親交を深めながら成長した立花は桜花学園高等部にエスカレーター式に進学する。


そして、外部生も広く受け入れている高等部には。


当然のように、愛華がいた。


「お姉様!」


愛華は相変わらず立花の元に突っ込んでくるが、楓が立ち塞がりガードする。その間に立花は無視を決め込みそそくさと逃げる。


椿と葵と祐樹は立花と一緒にいる時は一緒に逃げるが、そうでなければ無理矢理捕まって迷惑を被っていた。愛華曰く、椿と葵と祐樹は腹黒い立花の外面に騙されているとのこと。立花よりも愛華の方が余程三人の側に相応しいという。


毎回愛華の力説にキレそうになっている祐樹を椿が抑え、葵が立花の迷惑になるからと宥めていた。


そんなある日、立花が学園の中庭で花を眺めながらいつものメンバーとお茶を飲んでいるとまた愛華が突っ込んできた。


「お姉様!いい加減にみんなを解放してください!」


「…」


立花は無視。楓がしっしっと手で追い払う仕草をするが愛華はめげない。


「椿さんも葵さんも祐樹さんもみんな本当は嫌がっているんです!お姉様は家の力で無理矢理支配するなんて恥ずかしくないんですか!?」


その言葉にとうとう全員がキレた。


「そもそも私、無理矢理支配なんてしてないわ」


「優しい立花ちゃんが好きでみんな側にいるのになんでそんなこと言うの!?」


「俺、お前の方が嫌いだわ。消えてくれない?目障りなんだけど」


「僕の気持ちを勝手に決めつけないで欲しいなぁ…ねえ、椿」


「お前に人生で初めて同意するかもしれない。…葵の言う通り、人の気持ちを勝手に代弁するな。だいたい、全部的外れだ」


全員から責められてようやく劣勢を理解した愛華。


「なんで!?愛華はヒロインなんだよ!?お姉様が悪役令嬢なのに!だいたいなんで攻略対象の男子がみんなお姉様の逆ハーメンバーなの!?」


「悪役令嬢?ヒロイン?逆ハー?頭の中お花畑なの?ここは乙女ゲームではなく現実ですよぉ〜?」


愛華を煽る楓。愛華は顔を真っ赤にして逃げ帰る。


「へー。僕立花の逆ハーレムの構成員なんだ」


「安心しろ。あのバカ女の誤解だ」


「椿、嫌いな子には容赦ないよね」


「葵よりはマシだ。本家の力を使って七瀬家を潰しにかかるつもりだろう」


「まあね。迷惑被ってるんだからそのくらいいいでしょ」


「呆れた」


椿と葵の会話に愛華とそれに振り回される七瀬家が若干可哀想になる立花だが聞かなかったことにした。


「六道家でも抗議していただきましょう」


「もちろんウチからも抗議するよー」


一ノ瀬家も六道家も割と本気で愛華を排除するだろう。ますます腹違いの妹が可哀想なモノに見えてきた立花である。


そんな立花だが、素敵な男子に囲まれていても一切ときめきを感じない。何故ならば前世の賢者は男で、その記憶があるため男性も女性もどちらを性の対象として見ていいかわからなくなっているからだ。


この世界はいくら乙女ゲームに似ていようとも現実で、乙女ゲームの設定通りに進むとは限らないという事実を受け入れられないヒロインの妹。


賢者としての前世の記憶を持つ、大切なお友達と共に現実を生きる悪役令嬢の姉。


世界は当然、姉…立花の味方である。ただし恋愛は自分でなんとかして欲しい。

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