昭和四十年 三月二十五日 実方辰顕 周との再会
「久しぶり、辰ちゃん」
「周ちゃん」
夕方、背広姿でやってきた、もう一人の親友と辰顕は、泣きながら玄関先で抱き合った。周も泣いている。長かった、と辰顕は思った。二十年前、どれ程の思いで、此の幼馴染でもある親友と離れた事であろう。どんなに心配した事であろう。ただ生きていてほしいと、其れだけを願っていた。
「周」
辰顕の後ろから、栄五が声を掛けた。周は、喜びの声を上げた。
「ああ、栄さん。え、あれ?」
周がキョトンとした顔をした。
「周兄ちゃん。成子よ」
「え?成ちゃん?本当に?お母さんそっくりだね」
兎に角、と言って、周は、叔父と成子を、二人纏めて抱き締めた。二人は、暫し面食らった顔をしていたが、やがて、泣き笑いしながら、周を抱き締め返した。其の様子を、紘が、微笑みながら見守っている。周は相変わらず、明るくて、感情表現が派手である。今は四人の子持ちだと聞いたが、喜びの表現は、子供の頃の儘であった。
―其れにしても、またか。
確か此の人物は、辰顕より一つ上の学年だった筈である。しかし此方も、何かの間違いであろうかと思うくらい印象が変わっていなかった。魅力的な、形良い唇に、黒い瞳。紘は、実に男らしい美丈夫に成長したが、周は、何処か中性的な美しさを残した儘成人したらしい。唇というのは、顔の中でも若さを失いやすい部位だというのに、其れには辰顕は、驚きの感情しか抱けない。
しかし其処までは、如何に驚いたとは言っても、辰顕の想定の範囲内だった。周の父親は正真正銘の美形で、辰顕の知る限り、他の誰も敵いはしない程、其の美しさ故にカリスマというものさえ持っている様な男前だったのである。其の息子が此の様な外見に成長しても、まあそうだろうな、くらいにしか思わなかった。ところが、周の後ろから登場した人物を見て、辰顕は腰を抜かしそうになるくらい驚いた。
「ちょっと、周さん、玄関先で詰まっていたら、他が入れないでしょう。感動の再会を邪魔して悪いですが、此の儘だと、うちの伯母が立ち往生です」
「え、ごめん、彰ちゃん」
「あ、叔父さん御久しぶりです。其方が成子さんですか?えーと、此方は?」
其の人物は、成子と辰顕の顔を見比べながら、ほんの少し、何かに怯えた様な顔をした。
「お、来たか、彰。皆、上がってくれ」
居間の方から静吉がやってきた。皆、来客も含め、玄関から居間にゾロゾロと移動した。