表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君子蘭『瀬原集落聞書』  作者: 櫨山奈績
第一章 三月
1/57

プロローグ

 『瀬原集落聞書』シリーズです。

 昭和四十年 三月二十五日 木曜日


 実に二十年ぶりに再会した美しい従妹は、違和感の塊だった。


 流行の型をした赤いワンピースを着て、古びた鼠漆喰の壁を背景に、背筋を伸ばして正座する従妹を見た坂本(さかもと)紘一(こういち)は、其の様子を、まるで、日当たりの良い庭に無造作に置かれた、受け咲き君子蘭の様だ、と思った。


 従妹である坂本(さかもと)成子(みちこ)は、何か、強い南国の太陽を思わせる光の様な美を体から発していて、其れを其処(そこ)等中(らじゅう)に拡散している様に思えた。


 成子は別に、色黒というわけでもなく、極端に眉が濃いというわけでも無かったが、()(かく)ハッキリとした顔立ちをしている。キチンとアップのシニョンに結い上げられた髪と、襟足が美しい。

 昔から、成子の母、初に似て、美しい娘ではあったが、紘一には、其の存在自体に違和感が有った。


 恐らく、此処に置いておくべきではない鉢を庭で見ている様な気分、というのが、今の心情に最も近いのであろうと紘一は思う。


 紘一の感覚で言えば、君子蘭を置くのであれば、温室か、もしくは、もっと葉の色が映える様な、日陰の煉瓦塀の前である。其れを、ただ一つの鉢だけ此の様に置いたのでは良くない。受け咲き君子蘭は、其の見た目に反して、日差しに弱い、繊細な花なのである。


 此処に居るべきではない人間、というのが、紘一の、従妹に対する正直な感想で、そして其れが、紘一には、とても気の毒に思えた。


 『同じ顔』の前日譚から書こうかと思いましたが、シリーズの中の戦時中の話が一番長いので、其の話の後日談から上げようと思います。『同じ顔』の坂元自動車の前会長、坂本紘一がメインの話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ