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雨の日

作者: 杉谷馬場生

 前日の天気予報で今日は大雨ということは承知のことだった。幸いなことに仕事も休日で外に出る用事もないので家でじっとしていることにする。

すでに昨夜から外から雨音が聞こえていた。それはまだ本降りではないのでしとしととした優しい音だった。電気を消して今から寝ようという時間のその優しい雨音はまるで子守唄だった。

そして目が覚めた時、時刻を見ると6時半ほどであろうか。昨夜の優しい音とは打って変わって地面に叩きつけるような激しい雨音である。昨夜は子守唄であったが、今朝は目覚まし時計のようであった。

まだ陽の当たらない薄暗い中の激しい雨音に私は外でどれほどの雨が降っているのかと想像を働かせる。昨夜見たテレビでは大雨による警戒も問いただされていたが、土砂崩れや浸水などの被害はどうなのであろうか。私の家は街中であり、近くに川があるわけでもなく、山肌が露出した斜面があるわけでもなく、外に出ない限りは特段危険はないだろうと思われるが、他の地域はどうであろうかと考える。激しさは違えども昨夜から降っていた雨である。大きな被害が出なければよいがと思いながら私は薄暗い部屋の中で枕元のスマホを手に取り、ざっとネットニュースを覗く。今のところ大きな被害はなさそうだが、市内の一部では高齢者の避難指示が出ている。避難するにしてもタイミングなどあるだろう。激しく降る大雨の中を避難しようとしても命の危険があろうと思う。そんな事を考えながらも私はまだベッドから起きていない。部屋の電気もつけていない。私の住む市内の情報であるのに私はどこかで他所のことと俯瞰して情報を読んでいる。それはまだ私が目が覚めて間もなく、覚醒していないせいでもあるし、私自身がある程度安全な場所にいるからであろう。

何処かで薄情だなと思う。

そしてその薄情さを己で肯定するかのようにスマホをまた枕元に放り投げて、薄暗い部屋の中で私はまた目を閉じた。外の激しい雨音とは無関係に、休日という己の事情を優先してまた眠ることにした。

しかし一度覚めてしまった脳は今度はなかなか寝付けない。それは涼しくなったとはいえまだ夏の盛りを過ぎていないこともあるが、外から聞こえる雨音が私の眠りを妨げる。

幾度も寝返りをうちながら私は自然と雨音に耳を傾けていた。目は閉じているが雨音に集中するともはや寝ようという意思はないように思える。

雨の勢いは一定ではない。時に激しく降っているかと思うと次第にしとしとと大人しくなる。雲の厚みが一定していないのだろう。まるで天気が生き物のようであり、雨音は心音のように聞こえる。

そう思うと激しい雨音も心地よく感じてきて私の脳はまた微睡んできた。外は雨で不安の塊だが、この部屋の中にいる限りは、私の世界では平和なのだ。さらに眠ることで私は世界の深奥へと誘われる。外の世界とは裏腹に私の心は安らかだった。

やがて二度目の覚醒を迎えた。枕元のスマホを覗いてみるとあれから1時間ほどまた眠ったらしい。心地よい目覚めとは言い難い。頭が重い。寝溜めするとこのような目覚めになるのに何故こうも繰り返すのか。人間というのは愚かで欲深いと思う。

外からは未だに雨音が聞こえる。やはり今日は一日中雨なのだろう。昨日から理解している筈の事をこうやって何度も納得する。それは何のためであるのだろうと思う。

おそらくそうやって自分に言い聞かせているのだ。雨だから外に出れない。休日だし家でのんびり出来るのだぞと自分に対して言い訳をしているのだ。

その証明として私はまだベッドに横たわっているではないか。電気すら点けていない。しかしもう眠る気はない。なのでそろそろ起きようかとも思う。そう思えば動けばいい。しかし体はなかなか言うことを聞いてくれない。二度寝をした為に体にすっかり「怠惰」という妖怪がまとわりついている。雨の休日を部屋の中で有意義に過ごすつもりなど毛頭ないのだが、ずっとベッドに寝転がったまま無為に過ごすつもりもない。

雨音がまた激しくなってきた。

私は未だ外の景色を見ていない。

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