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失踪する猫  作者: 佐藤清春
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第18章-2


 ほどなくして刑事どもがのぞきこんできた。一人は心配そうに、もう一人はいま(いま)しそうにしてる。


「おい、わかぞう。俺は一般市民としてのねんを伝えてやったんだぜ。それを公務執行妨害ってのはどういうつもりだ」


 心配そうな顔はうんざりしきったものに変わった。若造は首まで赤くしてる。


「あんなのは一般市民のすることじゃないぞ。いいか? お前はそう妨害をしたんだ。普通だったら捕まってももんは言えないんだからな」


「ほんとうるさいな。キーキーわめくなよ。俺はむちゃくちゃ頭が痛いんだ」


「そうよ! この人は病気なの! ちょっとは静かにして!」


 お前もな。彼はこめかみに指をあてた。山本刑事は首の後ろをいてる。


「ま、落ち着こうや。ところで、大丈夫なのか? 突然倒れたって聴いたけどよ」


「ん、大丈夫だ。頭は痛いがそれだけのことさ。――で、なにかあったんだろ?」


「ああ、小林衛は逮捕されたよ。田沼渉もな」


「そうか」


「気にしてたみたいだから、とりあえずそれだけ言いにきたんだ」


こまやかなづかいだな。いたるぜ。それで、子供はどうしてる? それに母親も」


「カミさんはしょに来てるよ。取り乱してるそうだ。子供は、――ん? 一緒に来てるって言ってたか?」


「いえ、そこまで聴けてないっすね。でも、そうが動いてるんじゃないですか」


 彼は腕を組んだ。ペロ吉はどうしてるんだろう? それに、どうなるんだ? そう考えてるところに階段をあがってくる音が聞こえてきた。


「ほれ、たくさん買ってきたぜ。やくざいっぽいのにいろいろ訊いたんだ。そしたら、これはヤバいほどくって――」


 戸口で立ちどまり、徹は思いきり首を引いた。


「あんた、俺をめたのか?」


「は? どういうことだ?」


「だってよぉ、この人たちは刑事だろ? あんた、あいの悪い振りして俺をり出したんじゃねえだろうな」


「そんなことしないよ。ほら、こっち来い。もっと近くに。――そうだ、それでいい」


 太い身体をのけらして徹は入ってきた。手にはぎゅうぎゅうにまった袋を持っている。


「どれ。――ああ、こいつは定番のやつだな。で、――ん、こりゃすごそうだ。『スーパーぜつりんこうてい』か。ええと、『これ一本でビンビン』って書いてある。っつうか、徹、ちょっと方向性が違ってないか?」


「でも、すげえ効くらしいんだよ。突然倒れて、熱が出て、頭痛もひどいって言ったら、この風邪薬とこいつを飲んどきゃいいだろって」


 ちらちらと刑事を見つつ徹は箱を取り出した。若造は腕を組み、目を細めてる。


「そうか、ありがとな。――カンナ、水を持ってきてくれないか。薬とこれを飲んだら横になる。ま、ビンビンになったら眠れねえかもしれないけどな」


 カンナはベッドの一部分を見つめてる。でも、視線を感じたのだろう、怒ったような顔で奥へ向かった。


「山もっちゃん、こいつはもう悪いことなんてしてないよ。あの写真もあんたが言ったように古いもんだった。今はこの通り、気のいいオッサンってわけだ」


「ん? ああ、そのようだな」


「あんたの連れは言いたいことがあるみたいだが、こいつは俺の恩人になったんだ。捕まえるようなことしてみろ、あんたの秘密とそいつの本名がぞう()中に知れ渡ることになるぞ。それに、こいつから聴いてわかりかけたことがある。それを知りたいなら手を出すな」


「ふうん。じゃ、そいつを教えてくれないか? 前にも言ったが俺はこっちのヤマでいそがしいんだ。だいぶ前にどこぞのボンボンがやったことなんかきょうがない。知りたいのは殺人犯の方だ」


 軽くうなずき、彼は話した。『悪霊』という言葉でひるよしの自殺した生徒とつながってるかもしれないというのもだ。


「ふむ、なるほどね。そいつは知らなかったな。あのじいさんは『悪霊』ってれんたい――いや、愚連隊ってのはなつかしいひびきだが、そういうのに入ってたってわけか」


「そうなんだよ。それを聴いて思ったんだ。キーになるのはしょうがいの被害者じゃないかってな。そいつが誰か、そしてかしわがどうしてそいつを殺したかわかれば少なくとも蛭子嘉江に関するなぞかいめいできるんだろう。それにな、それが解明できりゃ全体もすっきりするように思えるんだ」


「わかった。なに、そんなのはすぐ調べられるよ。でも、そうだな、俺たちは被害者についてあまり理解してなかったようだ。お前さんが言ってた()()()()()ってのもそっから出てたんじゃねえか?」


「かもしれない。だから、柏木伊久男について洗いざらい教えて欲しい。どこで生まれ、どこで育ち、どうやって暮らしてきたか。あそこに越してきたのは五年ほど前のようだが、それ以前にはどこにいたのかもな。とにかく、あの爺さんに関することは関係ないと思えるものまで知りたいんだ。そっから組み立て直した方がいいんだろう」


「ああ、そうかもな」


 振り返り、山本刑事は薄くだけ笑った。


「言いたいことはわかるよ。でもな、このヤマばかりはこちらの先生に相談した方が早い。それに、俺もひとまずはこの男を信用してみることにしたんだ」


 そこで首を曲げ、刑事は目を細めた。


「だが、もしなにかしてるようだったらようしゃしねえぞ。信用してやったぶんだけ、こっぴどくしぼってやる。いいか?」


「山もっちゃん、そうおどすなって。こいつのことは俺がしょうする。ってことはばんぜんってわけだ。なんならいっぴつ書いてやってもいい。――ん? ちょっと待て」


「どうした? なにか他にわかったことでもあるのか?」


 全員の目がベッドに向かった。彼はかんを指している。


「おい、見てみろ。ビンビンになってるぜ」


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