第2章―6
それから彼らはいかにして浮気相手を捜すかの相談をした。大和田義雄の勤め先はキティのテリトリーにあるので、近くに張り番を置く。つなぎの猫も用意して、それらしい相手と会っていたら尾行させ、家を突きとめる。もし電車やバスで遠方に行くようなら、蓮實淳が行き先を特定させる。それでも猫の力が必要な場合はキティと赴いて、近隣の猫に渡りをつける。まあ、そんな感じだ。
「あんた、他にも気になることがあるって言ってたね。そっちはどうするんだい?」
「その男の周辺に妙な動きをするのがいたら、教えて欲しいな。でも、深追いすることはない。まずは浮気相手を特定するのが先だ」
「わかった。一度、――そうだね、明日の夜にでもみんなを呼ぶから、そんときに写真を見せとくれ。あの小娘がいなくなってからにするからね」
床に飛び降り、キティは顔をあげた。まったく妙ちきりんなことになったもんだよ――そう思ってる。アタシが人間の役に立ってやろうとするなんてね。ま、だけど、しょうがない。この人は特別だからね。
階下へ降りるとカンナは居眠りしていた。キティは意味ありげな表情をしてる。首がこくりこくりと動くのを眺め、彼も肩をすくめた。スピーカーからはショパンの『舟歌』が流れている。
「じゃ、また明日だね」
「ああ、頼むよ、キティ」
外はうっすらと白くなっていた。ふたたびカンナを見つめ、キティは出ていった。道に小さな跡がつき、その上へまた雪が降り積もっていく。
「ん? あれ? 私、眠ってたの?」
「そのようだな」
彼は向かいに座った。カンナは腕を大きく伸ばしてる。まるで猫だ。
「あなたのお客さんは帰ったってこと?」
「ああ、いま出てった」
「で、浮気相手は見つけられそうになったの?」
「まあね」
ふうん、二階でなにをしてたのやら。でも、寝起きの頭はもうなにも考えたくないと言ってる。ふと見ると、彼はいやに真剣そうな表情をしていた。
「なあ、カンナ、言っとくことがあるんだ」
「え? なによ。改まって」
カンナはちょっとだけ姿勢を正した。一応はここのオーナーであり、先生でもあるわけだけど、これまで意見らしいことを言われたことはなかった。なにがあったんだろう? 私、なにかやらかしたっけ?
「いいか? これはマジで言うことだからな。心して聴くんだ」
「うん。で、なに?」
「今後、キティにはネズミのオモチャを使わないように。わかったな?」
二人はしばらく見つめあった。カンナは瞼を瞬かせながら、言われたことを頭の中で復唱している。――今後、キティにはネズミのオモチャを使わないように?
「はあ?」




