6/10
手紙
このような形であなたに、惜別の言葉を残すことに
なってしまって、本当にごめんなさい。
結局、最後まであなたと一緒にいることは叶わなかったけれど、私たちは
とても幸福な時間を共有してきたし、そのことが私を暖かく、穏やかな気持ち
にさせてくれます。けれども、またその幸福な時間が過去となって、私を苦しめ、
底の見えない泥沼のような深い暗闇に引きずり込もうとするのも事実なのです。
暗い夜の帷の中で、今はもう過ぎ去った過去を想うと、やるせない気持ちになって、
自分が生きているということを忘れたくなるのです。
私には私の人生があって、あなたにはあなたの人生がある。
そんな当たり前なことを私は忘れていたのかもしれない。
大事なことを、あなたは私に教えてくれました。
それは人の短命な至福だったり、今日という一日の儚さだったり。
あなたと過ごした時間は、私という人間にとって、とても重要な時間でした。
ありがとう。お元気で。
僕が手紙を読んだときには、彼女が死んでから2ヶ月も経っていた。
僕はもう別に悲しくともなんとも無かった。何も感じなかった。