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真鍮製のペーパーナイフ
次の日の朝、夜が明けがかっている頃に、僕は郵便受けの前に立っていた。
決意のようなものはまだ固まっていなかったが、やはり郵便受けを確認するのは、自分の仕事であり、僕以外に郵便受けを開ける者などいるはずもない。こうして郵便受けの前に立っていると、いつか旅行で訪れた白い灯台のすぐ近くにあった白い郵便受けを思い出した。郵便受けというのはどこか忘れ去られた記憶の類を思い出させる。
郵便受けは悲しい存在だと僕は思う。
手紙は1通だけだった。僕はその手紙を両手に、まるで宝くじの高額当選の券のようであるかのように、丁重に家の自室の机の上へと運んだ。机上にあった何冊かの文庫本を本棚に戻し、すっかり色褪せてしまった、女のクロッキーを丸めてゴミ箱へ放り投げた。
それから、真鍮製のペーパーナイフで、手紙をじっくりと時間をかけて取り出した。