帰宅
札幌から車を走らせ小1時間ほどの距離にある、小高い丘の途に、まるで少年たちの秘密基地であるかと思うほど、その存在を主張しない自宅に僕は戻った。こうして自宅に帰るのはもういつの日以来だっただろうか。古錆びた玄関の門を開けると、軋んだ門が弱々しい音を立てた。そして、家の扉へと続く階段を一歩づつ丁寧に登り、それから、玄関の扉を重々しく開け、優しくその扉を閉めた。家は久しぶりに来訪した家主を、時間が止まっているこのように錯覚するほどの静寂で包み込んだ。僕は目を閉じ、深呼吸をした。
「ただいま。僕がいなくて寂しかったかい。」
「ちっとも」
「それにしては、寂しそうな静けさじゃないか。」
「家には家の静けさを守る義務があるんだ。家が落ち着ける場所でなくてはならない。」
「ありがとう」
「待つ側も待たされる側も同様に辛いものさ」
その通りだ、と僕は思った。
「家の掃除が済んだら、ポストを見てごらん。」
僕は頷いた。
家の掃除を丹念にじっくり半日かけて行い、一息つくために珈琲を飲んだ。
それから、空腹を感じたので、棚からクラッカーを取り出して、チーズと一緒にかじった。
その日、僕にはポストを覗く勇気なんて無かった。