上陸
僕は当時19歳で、東京-札幌間の飛行機の中で、掴み所の無い将来の、あり得たかもしれない可能性について、取り留めもなく想いを巡らせていた。
「お飲み物などはいかがですか。」
「ホットコーヒーを。」
「かしこまりました。」
機内に持ち込んだ紙切れのようなハムレタス・サンドウィッチを、もうとうに冷めてしまった味のしないコーヒーで流し込んだ。コーヒーはあらゆる味覚をまるで無に返してしまうものだ。人生の苦みも甘味も、結局は何もなかったように忘れ去られていくように。
飛行機の窓からは、整然と一直線に並んだ奥羽山脈が見下ろすことができた。すでに雪は溶け始め、山肌は緑がかって、新たな生命のうめきが聞こえそうな予感を抱いていた。
隣の頭髪の薄い中年男性は無機質なタイプ音をまるで何かリズムを刻むように奏でていた。僕はそのリズムに心地良さを覚え、静かに目を閉じ、深いまどろみへと入っていった。
目を覚ました頃には、もうすでに飛行機は着陸態勢に入っていて、窓の下には虚しさを感じるほど白い世界が広がっていた。
乗客が全員降りるまで、滑走路のはるか遠くに見える山並みを見つめていた。