98話 少年少女達よ、パーティーに参加しよう。
そして日曜日の夕方、酒鬼家とミーア達は純也の友人である松本康平の誕生日パーティーに参加する。
彼は大手企業“オアシス製菓”の社長であり、この会社はクッキーやケーキ等を製造、販売をしている。
会場に入ると周囲には様々な料理が並んでおり、お昼ご飯を控えめに食べていたミーア達と直美のお腹は空腹を訴えるかのように鳴る。
「やあ、よく来てくれたね。純也」
「久しぶりです、元気でしたか?」
純也と康平は手を握り挨拶をする。康平の隣には妻であり、副社長でもある松本敦子がミーア達を見ると可愛いとしゃがんで自己紹介をした。
「私は松本敦子、貴方達の名前を聞いてもいいかな?」
「あたしはミーア・プレリー!」
「ラルマ・ポータンです」
「ラーシャ・コレンダリーよ」
「可愛い~」
敦子は三人の頭を撫でて可愛がると純也達に向かう四人の人物が近づいて男は康平に「お疲れ様です」と挨拶に来た。彼は飯田隼人、彼は成績優秀で彼の頑張りで新たな取引先との契約の締結が出来たといっていい。
そして彼に続くように三人の人物が康平に挨拶に来た。この三人は飯田が率いる同じ営業部のチームメンバーらしい。
「社長、副社長。そろそろ席にお時間です」
「ああ、わかった。じゃあ純也こちらの席に座ってくれ」
康平が純也達に席を案内し座ると康平は正面のマイクを手に取り、語り始める。
「皆さん、お疲れ様です。本日は私の誕生日パーティーにご参加いただきありがとうございます。今年は急速な事業の拡大もあり、業務の割り振りなど何もかも順風満帆とはいかなかった中、みなさんのおかげで乗り切ることが出来ました。そしてこの事業拡大があったからこそ、新たな取引先との契約の締結も出来ました。今後は新たな取引先とも更に信頼関係を深め、より大きく意義深いプロジェクトも行いたいと考えております。……すみません。つい仕事の話になってしまいましたが、本日はお越しくださった皆様のご健勝を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせていただきます」
「それではこのまま乾杯させていただきたいと思いますのでみなさまお手元のグラスをご準備ください」
康平の言葉と共に会場に参加している全ての人が、ワインが入ったグラスを手に取る。ミーア達はワインの代わりにオレンジジュースを用意してもらっていて周りの人達の真似をするようにグラスを上にあげる。
「改めて当社の発展、事業の安定化と、みなさまのご健勝を祈りまして……乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
合図と共に一斉にワイン(&オレンジジュース)を飲み、各自雑談を楽しむ。
直美はミーア達と共に唐揚げ、サンドイッチ、寿司、パスタといった料理が並んでいるところに行き片っ端から皿に料理を取り始める。
「よし三人共!美味しそうな料理を皿にたくさん取って食べるわよ!」
「「「おー!!」」」
四人(主に直美)にとってはいかに美味しく料理をたくさん食べられるか、得することができるかの勝負なのだと直美は言う。特にケーキやアイスクリームと言ったデザートはこのオアシス製菓が製造している商品でもある。つまり今だけならこの会社の商品を無料で食べる事ができるのでより多くのデザートを食べたいのだ。
「まずは何にする?」
「デザートも食べたいけどまずは僕達の世界では存在しない料理がいいよね」
「直美姉ちゃん、この料理達の名前を教えて!」
三人は元の世界にはない餃子、焼売、炒飯といった食べ物をどんな料理かを直美に聞きながら食べる。
そして可能な限り多くの料理を食べるその姿はフードファイターに見える彼女らにとってここはまさに戦場である。
一方、スピーチを終えた康平は「あー緊張した~」と言いながら純也がいるところまで歩く。純也は笑いながら「お疲れ様」と康平の肩をたたく。
敦子は康平に料理を持って来て皆で一緒に雑談しながら食事を始める。
そして誰かが純也の背後に近づいて彼の肩を叩いてきた。振り返るとそこには五十嵐兄弟がいた。どうやら二人も康平に招待されたらしく兄の清司と康平は高校時代の同じクラスメイトだったらしい。
「やあ、純也さん。まさか貴方もいらっしゃるとは奇遇ですね」
「私もびっくりしましたよ。康平と同じ高校だったんですね」
「逆に康平と純也さんは何処で知り合いになったんですか?」
「私はある事件の犯人を探している時にその犯人を見たという人が康平さんだったんですよ。彼のおかげで犯人を特定でき、事件を解決出来たんです。そこからというと話があって一緒に飲みに行ったりしてます」
お互いに過去に康平と出会ったきっかけと康平について語ると康平は照れくさそうに頭をかいた。
そして場面は戻り直美達はというと、ある程度の料理と一通り食べたのでいよいよこの会社の商品であるデザートを取り始めた。その中でラーシャが見てびっくりしたのはデスニア帝国でよく食べていたデザートであるアプフェルシュトゥルーデルがあったのだ。ラーシャは思わずそのデザートとアイスクリームを皿に取り食べる。
「お、美味しい!久しぶりに食べると格別!……でも何かが違うわ。ねぇ直美姉、このデザートはアプフェルシュトゥルーデルじゃないの?」
「あぷふぇ……なんだって?よくわからないけどこれはアップルパイだよ」
直美はスマホで調べるとアプフェルシュトゥルーデルとアップルパイの違いは主に生地にあるそうで、シュトゥルーデルはパイ生地と違って向こう側が透けて見えるほど薄くのばしてあるのが特徴であり、オーブンで焼くとパイのような食感にはなるが生地が薄いのでパイに比べて短時間で焼けると出てきた。
本物と違うとはいえ、ラーシャは久しぶりに故郷に近い味をしたデザートを食べて少し涙が出る。そして故郷の味をもう一度食べる為にも元の世界に帰る方法を見つけようとラーシャは誓った。
そしてミーアとラルマがデザートのケーキを食べている時、それは起こった。
「ぐあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
近くにいた全員がその声の方向に向くと突然、飯田が苦しみ出して倒れた。
騒ぎを聞きつけた純也と清司は彼に近づいて状況を把握しようとする。
清司は飯田の脈を確認するともう脈はなかった。
「真由美、直ぐに警察を呼べ!そして今ここにいる全員誰も外に出るな!!」
真由美は純也の指示通りに警察に連絡をする。
純也は警備員と連携して現場保存の為にこの会場にいる人が外に出ないようにドア付近を見張る。
いったい何が起きたというのだろうか?




