94話 少年少女達よ、人助けをしよう
人に見つからないように火事が発生している場所近くでワイバーンから降りて急いで向かうと赤色の馬車と白色の馬車から変わった服装をした人達がそれぞれ出てくる。
赤色の馬車からは長いホースが繋がっておりホースから大量の水が放射される。
まだこの近くに魔法を使った人物がいないかラルマは魔力探知を始める。ラーシャは状況を把握するためにネズミ型の眷属を召喚して周囲と炎上している建物の偵察を開始する。
「君達、ここは危ないから離れて!!」
オレンジ色の服装をした人がミーア達を現場から離れさせようとすると一人の女性がやって来る。
「すみません!あのマンションにうちの子供がいるかもしれないんです!!」
「なんだって!」
「お願いします!!助けてください!!」
目の前の入り口は水で消火しているが、まだ建物の上半分は完全に鎮火できていない。
ミーアはその女性に子供はどこの階層にいるかを尋ねると女性は建物の5階を指さした。三人はお互いに目を合わせると意見が一致したかの様に一旦、その場から離れて建物の裏側へと向かう。
裏側に移動するとここにも炎が通路を邪魔している。しかしここには三人を邪魔する人はいない。
「みんな行くよ!『アクアタワー』!」
ミーアが魔法を放って目の前の炎を消す。三人は消えた通路から侵入し炎を消しながら5階へ目指す。
そして5階にたどり着き、逃げ遅れた子供を探す為にラルマはサイコキネシスで片っ端からドアこじ開けて探す。
うああああああああん!!
近くに声が聞こえる。おそらくこのフロアにその子供がいるのかもしれない。ミーアは水魔法を放ちながら邪魔な炎を消し、布団の上で泣いている2才児の子供の所までたどり着いた。
「もう大丈夫だよ!」
ミーアは子供を抱くと部屋が崩れる前に退却しようとすると瓦礫がミーアにいる場所に落ちてくる。
「『ブラッティ・プラント』!!」
血で出来た触手が落ちてきた瓦礫を弾き、ミーアへの直撃を防ぐ。子供を抱きながら目の前の炎を消して出口へと向かう。入り口は炎と瓦礫で通れないため、先程のこの建物に侵入した経路まで移動しミーアは子供の目を手で塞いだ。
「ちょっと高い所から降りるから目を閉じてね」
「行くよ、ミーアちゃん!」
ラルマはサイコキネシスでミーアと子供を持ち上げてゆっくりと地上に運ぶとラーシャとラルマはそのままジャンプして地面に着くタイミングで浮遊しゆっくりと着地した。
その後、ミーアは先程の場所に戻って女性に子供を差し出した。
「ああ、本当にありがとうございます!」
「信じられない、どうやって助けたんだ……ってそれよりも駄目じゃないか!危ないことしちゃ!!」
赤い服の人にはこっぴどく怒られてしまったが、決して間違ったことはしていない。僅かでも自分の力で助けられるなら惜しむことはしないし協力するべきだと三人は思っている。
「良かったね……」
ミーアは安心した所為か、視界が歪んで頭がクラクラしその場に倒れてしまった。
「ミーアちゃん!?」
「しっかりして!」
やがて暗闇に包まてる様に意識は失っていった。
目が覚めると白い部屋のベッドで寝ていた。ラルマやラーシャは近くにはいない。ここは何処なのだろう?
左腕にはイスフェシア皇国でも見たことがある点滴が刺さっている。
もしかしたらここはこの世界の病院なのかもしれない。体にだるみや痛みがないので問題なく動けることを確認して部屋から出る。するとラルマとラーシャ、そして今朝方出会った変わった服装をした人とアルメリアみたいな白い服装をした人が話をしている。
「あ、ミーアちゃん!大丈夫!?」
「大丈夫だよ。でもちょっと眠いかも」
「まったく無茶な事をする子達だよ、あの状況で子供を救出するなんて」
「本当なら一酸化炭素中毒や火傷するはずなのに三人共いたって健康だ。不思議でしかない」
ミーアはラルマに状況を聞くとどうやら倒れた後、ミーアは救急車と呼ばれる馬車に乗ってこの世界の病院に運ばれて治療を受け、ラルマとラーシャも検査を受けたらしい。幸い怪我や病気等の症状はないとの事だ。
そして三人の目の前にいる変わった服装をした人は名を酒鬼純也、警察と呼ばれるイスフェシア皇国でいう騎士団と同じ社会秩序を保つ仕事を担当する組織に属している。そしてもう一人は五十嵐清司、この病院の医師をしている。
「さて、三人共異常は見られなかった訳だがこれからどうするのかな?」
「親がいないとなると施設に入れるしかないが、直ぐには無理だからその間は私が預かりますよ」
「治療費についてはこの子達が救った子供の母親が出してくれるみたいだから安心してくださいね」
「先生ありがとうございました。では失礼します」
酒鬼は三人を連れて車と呼ばれる馬を使わずに移動できる乗り物に乗る。この乗り物、形は違うがコンダート王国にもあったとラーシャは語る。
ブロロロロロッ!!
馬を使わずに馬と同じそれ以上の速さで走る事に三人は驚き感動する。段々と気持ちが高ぶり楽しくなってきた。
「凄いねこの車っていう乗り物!」
「イスフェシア皇国にも欲しいよね。でも速すぎて危ないかも」
「はっはっは、車に乗るのが初めてとは逆に驚いた。大丈夫、これでも俺はゴールド免許だから事故りはしないよ~」
「ゴールドめ……よくわからないけど、今どこに向かっているんですか?」
「ん、俺の家だ」
しばらくして酒鬼の家に着く。玄関ドアを開けて「ただいまー」と言うと一人の女性が歩いてきた。
彼女は酒鬼真由美。純也の妻である。純也は真由美に事情を説明すると三人にお腹が空いていないか聞いてきた。しかし三人は夕方にいっぱい食べたので要らないと答えると「じゃあお風呂にしましょうか」と支度をする。
約20分後、お風呂の準備が出来たと聞いてミーアとラーシャはお風呂場に向かう。ラルマは後でいいと恥ずかしながら広間で待機した。
「パジャマは娘のおさがりで良ければあるから今来ている服は洗濯するわね」
「「はーい」」
ミーアとラーシャは服を脱いでお互い洗いっこしてその後湯船に浸かる。
この世界に転移してから追加でわかった事がある。まずは言語と文字だ。あの魔本の影響なのかはわからないけど、この世界の人達の喋っている言葉は理解できこちらの言葉も相手に通じる事、レストランに行った時にメニューを見えたことから文字も理解出来ていた事がわかる。
「ラーシャちゃん。けんぞくーから何か新しい情報は?」
「ちょっと待ってね」
ラーシャはあの建物の火災について眷属を使って情報収集をしていた。風呂場の窓から蝙蝠か入って口を開けると声が聞こえる。
『あのXYZマンションでの火災についてですが負傷者は8名、死者は1名で身分証を見る限りその人物は松田聡と思われます。目撃者と住んでいた人によると20時頃にマンション全体が一瞬にして炎上し住んでいた人達は運良く逃げ切ったらしいです』
『あの火災で死者が1人か……何かがおかしいな』
『解剖の結果、松田からエスタゾラム、つまり睡眠薬が検出されました。今その睡眠薬の出処を探しています』
『よし、引き続き捜査を頼む』
声はここまでのようだ。
建物全体が一瞬にして燃えたのは魔法を使ったからなのか?もしそうならこの件と今朝方で起きた件で起こした人物は同一人物の可能性がある。引き続き眷属には情報収集しに警察がいるところへ飛び立った。
一風呂浴びてラルマがいる広間に行くとラルマは凄く興奮していた。
「あ、ミーアちゃんラーシャちゃん!このテレビっていう物すごいよ!中でたった一人の騎士が複数の敵をやっつけるんだ!!」
ラルマが見ていたのはテレビと呼ばれる映像を見ることができる物、見ているのは暴れん坊騎士という主人公があらゆる悪党を斬るドラマだと純也は語った。
「確かに凄いね。この世界の技術は……ってラルマ君お風呂の順番っが来たから入りなよ」
「え~もっと暴れん坊騎士みたいよー」
「まあこれ再放送だからまたいつでも観れるよ。だからお風呂入りな」
純也に言われるとラルマは渋々とお風呂に入った。




