93話 少年少女達よ、満喫をしよう
三人はワイバーンに乗って少年が言っていた水の広場公園という場所まで移動する。空から下の光景を見るとイスフェシア皇国では見たこともない大きな球体が埋まった建物や巨人に見立てた立像があり、とても心が躍った。
目的の場所を見ると周りには釣り竿らしき物を使って釣りをしている人達がいる。先程の少年達が言っていた情報は間違っていないようだ。
「みんな、わかっているね?」
「たくさん釣っていっぱい食べるぞ!」
装備は寝泊まりした公園で拾ったバケツのみで釣り竿は持っていないが、三人にはこの世界ではあり得ない方法で魚を釣ることができる。
ラーシャは海面に向かって電撃を流し込もうとするとラルマが止めに入る。
「ちょっと待ってラーシャちゃん!電撃を流しても魚は浮いてこないよ」
「え、そうなの?」
「うーちゃんが言っていたんだけど、海に雷が落ちても海面に電気が流れるから海中にいる魚には感電しにくいんだって、オゼットさんみたいに無限の魔力があるなら話は別だけど僕たちの魔力じゃ水中にいる魚を感電させるのは難しいよ。」
「へ~、そ~なんだ~。ラルマ君物知りだね」
「もうミーアちゃん、授業で教えてもらったでしょ。それに今電撃流したら周りにいる釣りしている人達全員を感電して大変な事になるよ」
「じゃあ、どうするの?」
ラルマは『サイコ・ウェーブ』で水面に衝撃波を飛ばす。その衝撃で動いた魚を見つけた瞬間にサイコキネシスで魚を捕まえてバケツに入れる。ミーアとラーシャがそれを見て「お~!!」と感動し手をパチパチと叩く。
ミーアも負けまいと半魚人を召喚し、魚を探しては捕まえバケツに目掛けて投げ始める。
ラーシャは拾ったバケツを参考に魔力で血を作り、その血をバケツの形状に変化させて固定させる。そして周囲で釣りをしている人からこの光景を見られないように認識阻害の魔法を使う。これで心置きなく魔法を使って魚を取ることができる。
「ラルマ君、マーマンがあっちに魚がいるって言ってるよ!」
「任せて!名付けて『サイコ・ネット』!」
「おー、どんどん魚が取れるわね」
釣り(狩り)を続けてやがて夕方になる。その結果、ハゼ、クロダイ、アジと取れた魚は多く釣ることができた。
後はこの魚を料理する場所を確保できればお腹を満たすことができる。
何処か広くて火を使えそうな場所がないか探そうとすると一人のお年寄りが近づいてきた、ここで釣りをしていたみたいだが……。
「ほ~、お嬢ちゃん達いっぱい魚を釣れているね」
「おじちゃん誰?」
「何怪しい者じゃない、ただの釣りが好きなおじさんさ。お嬢ちゃん達は釣り具一式を持っていないようだけどどうやってそんなに釣れたのかな?」
「それは内緒だよ!」
「ほっほっほ、内緒かそれは仕方がないな。実はおじさんはばあさんに「いっぱい魚を釣って魚料理作ってやる」って言ったのだけど全然魚が釣れなかったんだよ」
「それは残念だったね」
「そこで頼みがあるんだけど、その魚を全部おじさんにくれないかな?」
おじさんはしょっていたクーラーボックスを置くと財布から紙幣をミーア達に渡す。
「もちろんそれなりにお礼はするよ」
「これは何?」
「おやおや、最近の子供は一万円札を見たことはないのかな?まぁお嬢ちゃん達日本語はうまくしゃべれるみたいじゃが、見た目は外国人に見えるから万札を見たことないのも無理もないかの」
「この紙はもしかして……お金?」
「そうじゃよ、これくらいの金額なら近くの店だったら何でも食べられる。その魚をくれたら君達にこのお金をあげるよ」
三人はどうするか相談し始める。この国の金が手に入れば食事以外にもできることが増える、これは好都合だ。魚は次の機会にまた取れればいいだろうと三人は答えを出した。
「「「いいよ!」」」
魚をおじさんが持っていたクーラーボックスに入れるとおじさんは一人ずつに万札を渡した。三人はおじさんにお礼を言って別れると近くに元の世界で食べていた料理が売っているレストランがないかを探す。
少し歩いたところにパスタの絵が描かれているレストランを見つけたので、三人はそこに入店した。
ウエイトレスに席を案内されてメニューを見るとペペロンチーノやピザ等三人が知っている料理を見つける。
「もうお腹ペコペコだよー」
「今まで食べれなかった分、いっぱい食べよう!」
まずは三人でサラダ、パスタ、グラタンを注文し数10分後頼んだ料理が運ばれてきた。
待ちに待った料理、その美味しそうな匂いが三人の空腹を加速させる。
「「「いただきます!!」」」
まずは前菜であるエビのサラダ、何のドレッシングかはわからないがとても甘味と酸味が効いている。
パスタはそれぞれペペロンチーノ、カルボナーラ、ミートスパゲッティを注文し食べる。
「料理長が作ったのとはまた違った味がするね」
「この世界のミートスパゲッティも美味し~!」
最後に三人はグラタンを食べるとラルマが驚く、スプーンでグラタンを掬うと中に米が入っていたのだ。しかしミーアとラーシャには米は入っていない、どうやら注文した際にラルマが指をさした料理がグラタンではなかったみたいだ。ラルマはメニューを見直すと指をさした料理名にはチーズとエビのドリアと書いてある。
「ドリアって何だろう?」
「イスフェシア皇国では聞かない名前だね」
そう、イスフェシア皇国ではグラタンは存在するがドリアは存在しない料理なのである。元々イスフェシア皇国はパスタ料理が主流でウインチェルが秋葉原でカレーライスの存在を知った後、出雲国に米を輸入してもらっていたのだが、米は基本的にカレーやピラフ、オムライスにしか使っていなかった。グラタンやラザニア等に使われるベシャメルソースを米にかけて釜で焼く発想はなかったのである。
ミーアとラーシャはそのドリアに興味を持ち一口分けてもらうとその美味しさに感動する。
「ん~~~美味しい!!」
「元の世界に帰ったら絶対料理長に教えよう!」
三人は食事を楽しみながら満腹になっていくのであった。
しばらくして食事を終えて店から出ると外は風が少し強く、月が明るい夜になっていた。
結局、元の世界に帰る方法や魔法を使用したと思われる人物との接触は叶わなかったが今後はこの場所で釣りをすれば最低限の食料の確保ができるとこがわかっただけ充分な収穫である。
「さて、昨日の公園に戻って寝ようよ」
「うん、そうだね。明日は三人で手分けして行動しよう」
「では、また出でよ。ワイバちゃん!!」
ミーアはワイバーンを召喚して昨日寝泊まりした公園まで空高く飛んだ。
夜だと地面から空に飛んでいるワイバーンを目視することは難しく、この世界のほとんどの人間はオゼットが持っているIMSPらしき物を使っていて空を見上げることがないので安心して飛ぶことができる。一応、念のためラーシャはワイバーンに認識阻害の魔法をかけて他の人間からは視認出来ないようにしている。
空から地上を見ると建物の光が街中輝いている様に見え、空から上を見上げると星が光ってとても綺麗な光景である。
最初はこの世界に来た時はどうやって生きて行けばいいか不安に満ちていたが、三人で協力していけばどんな困難でも乗り越えられる。そんな気がすると三人は思ったのだ。
昨日寝泊まりした公園に向かう途中、一部とても強い光が見える建物がある。
「見てあそこの高い建物、なんか光が揺らいでいるよ」
「遠くて何かはわからないけど何だろう? お祭りでもしているのかな?」
「いいえ、二人共よく見て。あれは光なんかじゃないわ…………炎よ」
ラーシャに言われた通りによく見てみると揺らいでいるのは光ではなく炎で煙が空高く舞っている。
「ワイバちゃん、あそこに向かって!」
「ギャオ!」
三人は炎上している高い建物に向かった。




